赤字になったら欠損金の繰越控除と繰戻し還付のどっちを選べばいい?

景気動向も変化し赤字転落する会社も

いなざみ超えといわれる長期の景気拡大期もやや変調をきたし、半導体関連業界など景気の先行指標となる会社の中にはリーマンショック並に大きく売上を減らしているところも出てきました。

中には、今まではずっと黒字基調であったものが、赤字に転落する会社も出てくるかもしれません。

黒字から赤字になった場合、税務上「欠損金の繰越控除」と「欠損金の繰戻し還付」のどちらかを選択をすることができます。

そこで今回は、黒字から赤字になった際には、中小企業は「欠損金の繰越控除」と「欠損金の繰戻し還付」のどちらを使えばよいのか、それぞれの特徴をまとめてみることにします。

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欠損金の繰越控除

欠損金の繰越控除とは、青色申告書を提出した法人は、その事業年度に生じた欠損金額について、翌期以降10年間(H30.3.31開始の事業年度までは9年間)の所得金額から控除することが出来る制度です。

例えば、欠損金額をその後の事業年度の所得から順次控除していくことになります。

事業年度 その事業年度の損益 課税所得
H31.3.31 ▲1,000 0
H32.3.31 600 0
H33.3.31 500 100

 

(注)資本金1億円以下などの中小法人等については、欠損金額全額が繰越控除の対象となりますが、それ以外の大法人については、その控除限度額は、繰越控除をする事業年度のその繰越控除前の所得の金額に対して50%(H30.4.1以降開始の事業年度から)を掛けた金額とするなど制約があります。

青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|タックスアンサー

欠損金の繰戻し還付

欠損金の繰戻し還付とは、青色申告書を提出する法人が、事業年度に欠損金額が生じた場合(欠損事業年度)において、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を請求できるというものです。

要するに、前期が黒字で当期が赤字になった場合、当期の赤字と前期の黒字を相殺し、前期で支払った法人税について還付を受けることが出来るというものです。

例えば、次のような場合、以下の金額の法人税が還付されます。

事業年度 その事業年度の損益 法人税納付額・還付額
H31.3.31 1,000 300
H32.3.31 ▲500 ▲150

(300☓500/1,000)

 

この時、欠損金の繰戻し還付を受けきれなかった欠損金については、翌期以降の事業年度の所得から繰越控除することができます。

また、この欠損金の繰戻し還付は法人税(地方法人税含む)のみに適用されるものであり、地方税である都道府県民税、事業税には適用されません*。

(注)この欠損金の繰戻し還付は、現在、資本金が1億円以下などの中小法人等のみ適用が可能です。それ以外の大法人についても本来適用できるのですが、財政難を理由に現在はその適用が停止されています。

*都道府県民税については、法人税額の還付を受けた場合、その還付法人税額を限度として計算した額を、その後の各事業年度(7年)における法人税割の課税標準となる法人税額から控除されます。

欠損金の繰戻しによる還付|タックスアンサー

資金繰りがヤバイなら繰戻し還付。ただし、税務調査の確率が高くなる

欠損金の繰越控除であっても、欠損金の繰戻し還付であっても、事業年度ごとに生じた赤字と黒字を通算できることに違いはなく、法人税率等の変更がない限り基本的に税負担上の損得はありません。

欠損金の繰戻し還付のメリットは、悠長に翌期以降の黒字と通算するなどということを言わずに、すぐに還付を受けられるということです。

しかし、大切な税金をやみくもに還付をすることはできないため、税務署は還付額に誤りがないことを確認する必要があります。そのため、よく「欠損金の繰戻し還付申請をすると、税務調査が来る」と言われるのです。

その点については、税理士の中でも意見が別れますが、私の体感としては、欠損金の繰戻し還付を出すと必ず税務調査が来るとは言えないが、税務調査に来る確率は上がると思います。

その会社の申告内容や前回からの期間のほうが影響は大きいでしょうが、ある程度前回の税務調査からの期間が経過していれば、繰戻し還付を出すことで税務調査を誘う”引き金”になると考えてまず間違いないでしょう。

「ああ、やっぱり来たか」っていうことが多いですから。

なお、税務調査は来ないとしても、還付額算出の根拠となった多数の資料を何度も求められることが多々あります。それこそ、わざとめんどくさくしてできるだけ還付をさせないようにしているかのようです。

もし、資金繰りの都合で、還付を早くしてほしいのであれば、欠損金の繰戻し還付に限らず、消費税の還付などについても、その計算根拠となった資料は、確定申告書にこれでもかというくらい添付したほうが良いでしょう。

どうせあとから資料請求されるし、それらの資料を確認しないと還付してくれないんですからね。

え?お金にも別に困ってないし、わざわざ税務調査を誘うようなことはしたくない?

だったら、素直に欠損金の繰越控除を選択しましょうよ。

多額の欠損金があっても消費税や源泉税の追徴課税はできますが、やっぱり税務署としては、苦労して修正事項を見つけても結果的に欠損金で”消し去られてしまう”のであれば割に合わないので、税務調査に来るモチベーションは上がらないですもの。

それに、一度奥さんにお金を渡したあと「お釣りを返して」というと、いくら正しいことだってムッとされるじゃないですか。

そういうことですよ。

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