【満載】NHKドラマ「チェイス」に大人げないけどツッコんでみる

先日よりNHKのドラマ「チェイス~国税査察官」
というのが始まりました。
地味な税務がどのようなドラマになるのか
興味があり、ちょっと見てみました。
ドラマ自体は「ハゲタカ」のようなスピードで
展開する見ていて楽しいもの。
でも、税理士としてはさすがに
見過ごしちゃいけないくらいに
ツッコミどころ満載でした。

本当にこうだ思われて、後でお客さんから
無駄な問い合わせとかくるとやっかいなので
一応ここでツッコんでおきましょう。

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1.レバレッジドリースを節税と表現
航空機を購入し、その航空機を航空会社にリースをする。
航空機の金額は非常に高額なので、減価償却費も多額になります。
特に初年度に大きな減価償却が可能な定率法ではなおさらです。
一方、航空会社から受け取るリース料は毎年一定。
そのため、初年度では、そのリース事業では大きな赤字が出ます。
このリース事業の赤字と本業の黒字は相殺が可能なので
本業の課税所得を減らすことができます。
そこでこれを「節税」と表現しているのでしょう。
ただ、減価償却費は毎年大きく減少していきます。
一定期間経過後には、リース料を減価償却費が下回るので
今度は本業の利益にこのリース事業の利益が加算され
税金が取られます。
また、最終的にはリースアップした航空機を航空会社に
売却することで投資した資金を回収することになります。
当然そのときの売却代金は、ほぼ全額が利益となり
莫大な税金が課されることになります。
つまり、本来支払うべき税額に変動は全くなく、
単に当初支払うべき税額の支払期限が延期されたにすぎません。
要するに、「節税」ではなく、「税の繰り延べ」
というのが正解なのです。
さらに、このレバレッジドリースには大きな問題があります。
多くの人は「節税はしたい。でも金は払いたくない」というもの。
そこで、この航空機の購入代金を融資をし、
その返済は航空機を売却した時点で一括返済して
くれればよいという契約をすることもあります。
その場合、キャッシュの流出はその融資の金利のみ。
それなのに、「減価償却費+金利」の損金が生まれるわけですから
「金は払わないのに税金は安くなる」という
とんでもない魔法のように思えるわけです。
ただ、航空機を売却した時点ではどうなるか?
航空機の売却代金はもちろん受け取ることができます。
しかし、その代金は銀行への融資の返済に充てられ
手元に残る資金はそれほどありません。
それなのに、減価償却が終わっているので、
売却代金の大半は利益となってドーンと税金の負担が生まれます。
要するに「金がないのに、税金だけ負担する」必要が出るわけです。
このあたりは、簿記会計の左右は必ず一致するという
原則を理解していればこんなトリックに
引っかかることはないのですがね。
2.航空機が落ちて「節税成功おめでとうございます」?
村雲が教える今週のスキーム

 タックスヘイブンの島、ヴァージン諸島で檜山基一に
航空機の購入を勧めた村雲。
合法的な節税方法として実在する“レバレッジドリース”では、
航空機をリースすることで、購入額(劇中では40億円)を
10年ほどかけて減価償却する地道な手段である。
今回は購入した航空機が墜落・大破したため、
保険から違約金40億円が支払われ、
基一は1年で購入額を取り戻した。

節税マジシャンに勧められて航空機をレバレッジドリースした
依頼人がその航空機が墜落したニュースを見て、
「どうしてくれるんだ」と詰め寄る。
しかし節税マジシャンは、「あなたは違約金を受け取れます。
節税成功おめでとうございます」と不適な笑みをうかべる。
これは、いくらなんでもひどい。
ご丁寧にWEBでスキームまで解説してしまっています。
既に説明をしたように、元々レバレッジドリースとは
利益をできるだけ先の期間に繰り延べる
(つまり税金の支払期限を延期する)
事を期待しているもの。
それが、飛行機が落ち違約金が支払われてしまったら
その時点でリース契約は終了。
資金は早く回収できますが、その違約金は
当然利益となります。
一方航空機の購入代金は、
航空機がなくなってしまったので損金にはなります。
このときに、受け取った違約金が航空機の
代金以上であればその差額は利益になり
本業の利益に税金がかかる上に、さらに
この差額にも税金がかかります。
つまり税金繰り延べ効果が予想より
早くなくなってしまう
のです。
実は、仮にレバレッジドリースを
提案するにしても
(自社株の評価を引き下げる時に使うこともアリ)
このようなことは逆に「リスク」として
説明すべきもの。
それを「節税成功おめでとうございます」などと
お客様に言ったら、ぶん殴られても文句は言えません。
もちろん、違約金が航空機の代金以下であれば
本業の利益と相殺し節税になりますよ。
でも、それって単に投資に失敗しただけで、
節税額以上の資金を失っているわけです。
是非、NHKにはこのWEBに記載された
スキームについてご説明いただきたいところです。
3.20億円の脱税が成功するロジックが不明
もう一つ日本の自動車販売会社が海外で20億円の
脱税資金を隠しているという話が出てきます。
日本法人の所得は表向き低調、
その利益を海外に隠しているということのよう。
その20億円を消し去るため、
余命幾ばくもない節税マジシャンの友人を
社長にした会社を作るのですが、
その友人が亡くなると同時に脱税が成功と。
「もう誰もこのキャッシュは追えない」とほくそ笑む。
でも、査察官にこの会社の存在まで追いかけられている
のですから、かなり背後まで迫ってきているわけで。
その時点で日本の自動車販売会社は
徹底的に査察が入るはず。
そこで日本国内での脱税は見つかってしまうはずです。
要するに、この脚本を書いた人は、
現物の20億円がなくなると
脱税は成功したと思っているのか?
もちろん現物の「たまり」は
脱税の有力な証拠です。
ただ、それは帳簿に記載された収益や
費用に嘘があるということの裏付けです。
収益と費用の差額が確認されれば
仮に現預金がなくても脱税になりますよ。
現預金がなければ脱税にならないなら、
みんな使ってしまえばよいわけですから。
あと、百歩譲って、この自動車販売会社が
20億円をこの会社に貸し付けたというのであれば、
貸倒損失として利益が吹き飛ぶことは
あり得ます。
でも、これだけ高額であれば貸付を
本当にしていたことの証明は求められますので、
あえて資金の足跡を付けるべき。
それが、どうもテディベアの中にお金を詰めて
ヴァージン諸島にキャッシュキャリーしていた
ようなのですが、貸倒にするのであればそれはおかしい。
むしろここから香港にテディベアで運ばないと。
というか、絶対無理ですこんな高額の貸倒。
【追記・訂正】
再放送を見てみたらw
シンガポールの法人が株取引で利益を上げたものだと言ってましたね。
それをヴァージン諸島の会社との取引で赤字を出して相殺したと。
これって、そもそも日本の国税局に関係あるのかな。
4.税理士が匿名で国税に通報
これもシャレにならない。
この脱税をしていた自動車販売会社の社長が
ヴァージン諸島での脱税スキームを税理士に告白。
すると節税マジシャンが
「それはまずい。国税にたれ込むかもしれませんね」と
実際、匿名でのたれ込みが国税にはいるのですが、
これは全く意味が分かりません。
そんなことをしたら、税理士も一緒に
捕まってしまいます。
本当に知らなかったとしても、
まず最初に検察は徹底的に税理士から事情聴取をし
その事実を突きつけて脱税者の取り調べをするのです。
もし、税理士が身を守るというのであれば
匿名じゃなくて、実名で告発しないと
意味がないでしょう

ここはさすがに税理士会として、
NHKに抗議した方がよいレベルの問題でしょうね。
ということで、別の意味で目が離せなくなったチェイス。
是非ご覧ください。

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