税負担を最小にする「最適役員報酬額」と言う名の”ファンタジー”

税負担を最小にする最適な役員報酬額とは?

「社長の役員報酬額をいくらにしたら良いのか」というのは、税理士に対する質問の中で、最も多いものの一つでしょう。

私の答えは「社長のお好きにどうぞ」というものです。

なんだか、いい加減なようですが、これが正しいことだと思っています。

確かに、法人個人を通じて税負担が最小になれば、その分手許のお金が増える、有効な節税対策ではあると言えます。

しかし、実際には、それらは、いくつもの前提を無視した「幻想」のような数字ではないかなと。

そこで、今回は、最適な役員報酬額を検討する上での注意点についてまとめてみようと思います。

税負担を最小にする最適役員報酬額とは?

(1)法人税と所得税

会社の事業による稼ぎから差し引く、役員報酬額を増やせば会社の利益は減り、役員報酬額を減らせば会社の利益は増えます。

両者の合計額は常に一定なので、社長=会社のような人にとって見れば、役員報酬額をいくらにしようとも、「社長」と「会社」というそれぞれどちらの口座にお金を入れるかの違いでしかないようにも思えます。

しかし、税金についは、役員報酬に対する所得税等は最小15%から最大55%までの累進課税であるのに対し、会社の利益に対する法人税等は約32%の一律(中小法人の課税所得800万円までの部分は約20%)での課税です。*1

また、役員報酬については、支給された給与から給与所得控除といういわば概算の経費を差し引くことも出来ます。

これらの課税の仕組みの違いから、役員報酬額をいくらにするかによって会社と個人の税負担の合計額が変わることになる。

そのため、税負担を最少にする役員報酬額を見つけ出すことは、社長と会社を通じた手取り額をより多く残すために大切な事だとわかります。

*個人の所得には、この他に基準所得税額の2.1%の復興特別所得税が掛かります。

(2)社会保険料

役員報酬額が増えると、その分、社会保険料の負担が増加します。

従業員同様、社会保険料の負担は会社と個人で折半ではありますが、社長=会社であれば、結局、個人負担分も会社負担分も両方社長が負担するようなものです。

上記の税負担を最少にする役員報酬を検証する際には、この社会保険料の負担額も加味した上で計算をする必要があります。

税負担を最小にする役員報酬額の目安

では、会社と個人を通じたそれらの負担を最少にする役員報酬額はどのように計算されるのでしょうか?

所得から控除される額などにより各人ごとに異なりますので、あくまでも概算値を提示するならば、事業の稼ぎ額別の税負担等を最少にする役員報酬額の目安は、それぞれ次のようになります。

・全体の稼ぎが1,000万円|税負担最小役員報酬額年200万円

・全体の稼ぎが1,200万円|税負担最小役員報酬額年400万円

・全体の稼ぎが1,400万円|税負担最小役員報酬額年500万円

・全体の稼ぎが1,600万円|税負担最小役員報酬額年700万円

・全体の稼ぎが1,800万円|税負担最小役員報酬額年900万円

・全体の稼ぎが2,000万円|税負担最小役員報酬額年1,100万円

【2020年以降版】税負担を最小にする最適役員報酬はいくらなのかシミュレーション

最適役員報酬額が無視している大事なこと

ですが、この計算には、いくつか無視をしている事項があります。

(1)12月決算以外対象期間にズレがある

法人と個人を通じた税負担を最小にすると言っても、そもそも12月決算以外は、個人と法人では課税の対象期間が異なります。

それなのに税金を厳密に計算したところであまり意味はないということです。

(2)厚生年金の受給金額は誰にも予想ができない

社会保険料のうち、健康保険料については、その支払った金額の大小に関わらず、受けられる保障は一緒です。

しかし、厚生年金保険料については、その支払額の大小が受給額に影響を及ぼします。

その厚生年金の受給額は、いつまで生きるのか誰にもわからないため、リアルな損得の計算はできないのです。

(3)役員報酬決定の時点で年間の利益の予想ができない

役員報酬額については、事業年度開始の日から3ヶ月以内に決定をしなくてはならず、その事業年度内での変更は原則として認められていません。

つまり、役員報酬決定の時点では、全体の稼ぎは予想に過ぎず、事業年度が始まったばかりで年間の稼ぎを正確に予想をできる事業者のほうが少ないのです。

(4)お金の使い勝手の自由度は法人と個人で同じではない

オーナー社長にとって見れば、会社に残したお金と個人に残したお金は預金通帳の名義の違いしかないと思う方も多いでしょう。

しかし、銀行からの融資を受ける場合には、そうではありません。

役員報酬としてもらい、所得税等を支払った残りは個人のお金として残ります。このお金は、個人的に自由に使うことは出来ます。

もし、会社の事業でお金が必要になった時には、一旦会社にお金を貸し付けて利用することも可能です。

この場合、会社の決算書上、これらの金額は「役員借入金」となります。

これは借金といっても、会社から見れば「ある時払いの催促なし」の借金です。

そのため、金融機関は、この役員借入金は「純資産に準じるもの」として評価をするので特にあっても資金調達上問題にはなりません。

つまり、個人で残したお金は、個人としても、会社としてもどちらでも自由に利用ができるということです。

一方で、会社の利益から法人税が差し引かれた金額は、会社にお金が残ります。

会社に残したお金は、会社の事業では自由に利用ができます。

では、個人的に使いたい場合はどうでしょうか?

役員報酬額を超えて引き出された金額は、会社の決算書上「役員貸付金」となります。

この役員貸付金は、資金調達上かなりマイナスな勘定科目です。

と言うのは、社長に対する貸付金ということは、万一会社が倒産した場合には、社長も一蓮托生なため、その貸付金も焦げ付く可能性が高い。

要するに、財産的な価値がないに等しい資産だと言えます。

さらに、役員貸付金という科目を通じて社外にお金が出て行ってしまい、別の事業に流用される可能性もあるのです。

確かに、会社に残したお金は純資産となり、自己資本比率を引き上げることにもなるので、融資審査上は、法人にお金を残すことの意味はあります。

しかし、役員貸付金が決算書上に残っていると、その発生原因と解消方法について金融機関から説明を求められるのです。

つまり、会社に残したお金は、会社のために利用することはできても、個人的には利用がしづらいということです。

役員報酬として個人に残したお金は個人でも会社でも自由に使えるものの、会社に残したお金は、会社では自由には使えるが、個人で使うのには制約がある。

要するに、個人で残したお金と会社で残したお金ではその「使い道の自由度」に違いがあるのに、最適役員報酬額は、それらを同じものとして計算をしているということです。

シミュレーションはあくまでも自分の判断が正しいかを確認するための目安

そもそも、最適役員報酬額のシミュレーション自体が、現実に即していないものなのですから、役員報酬の金額は、税務上認められないような法外なものでない限り、社長が会社と個人でどのようにお金を残したいかという考えを最優先して良い。

ただ、その判断をする上で、自分の判断が正しいものなのか確認がしたいでしょう。

その計算が、最適役員報酬額のシミュレーションであり、そこで算出された役員報酬額というのは、「最少の税負担額」と「自分が希望する役員報酬額の税負担額」との差額が自分の希望を満たす上で納得のいく「追加負担」なのか、あるいは自分が許容できる「追加負担」ではどこまで役員報酬額を取ることが出来るのかを検証するための目安に過ぎないということです。

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