会社に遺産を遺贈することで相続税負担の軽減。代わりに増える税金も
目次
遺産を「相続」できるのは法定相続人のみ
亡くなった人(被相続人)の遺産を「相続」できる権利のある人を「法定相続人」と言います。
この法定相続人となることができるのは、配偶者および被相続人と血の繋がりのある一定の親族のみです。
相続については、この法定相続人間で誰が何を引き継ぐのかを協議をします。
なお、被相続人の意思による遺言により遺産を引き継がせることこともできます。
この遺言による財産を引き継がせることを「遺贈」といいますが、遺贈は法定相続人でない人に対してもすることができるのです。
では、個人ではなく自分がオーナーの会社に遺贈をすることはできるのでしょうか?
今回は、法人への遺贈の可否とその注意点についてまとめます。
遺言による法人への遺贈も可能
結論から言えば、法人に対して遺贈をすることは可能です。
例えば、被相続人名義だが自分がオーナーの会社で利用しているような不動産があれば、その不動産を会社に遺贈することで権利関係もシンプルなものになるでしょう。
法人が遺贈を受けた場合の税負担
(1)遺贈を受けた法人の課税関係
相続や遺贈により遺産を引き継いだ個人については、その遺産について相続時の相続税評価額に基づき相続税が課税されます。
では、法人も遺贈された場合に、相続税が課税されるのでしょうか?
法人には、相続税の納税義務はありません。
しかし、遺贈により利益を得ていることになるので、その遺贈された金額だけ受贈益として法人の課税所得に加算がされることになります。
結果として、法人が黒字であれば、その受贈益だけ追加の法人税が課税されますし、赤字であればその赤字と受贈益が通算されるのです。
ただし、遺贈された財産の評価額については、相続税評価額ではなく、相続時点での時価となります。
現預金であれば、相続税の評価額も時価も同じものですが、不動産、特に賃貸用の不動産については、一般的に時価のほうが相続税評価額よりも高いので、個人が相続や遺贈を受けるよりも高い金額で評価されてしまうという点に注意が必要です。
また、不動産について、相続及び法定相続人への遺贈の場合には、不動産取得税は非課税ですが、法定相続人以外への財産を特定した遺贈(特定遺贈)は課税対象となります。
登録免許税の税率についても、相続及び法定相続人への遺贈の場合は固定資産税評価額の0.4%で済みますが、法定相続人以外への特定遺贈の場合には2%となるなどの違いがあり、法人へ遺贈することで個人が相続する場合よりも税負担が増加することもあるのです。
(2)遺贈した被相続人への課税関係
個人に対して不動産を相続や遺贈された場合、その不動産の取得日と取得費はそのまま引き継がれます。
つまり、相続時点では、その不動産の含み益には課税がされず、その不動産を相続した法定相続人が第三者に譲渡した時に課税がされるのです。
一方で、法人に対する遺贈の場合、その時点で、時価で譲渡をしたとみなされるので、その不動産に含み益があれば、その所有者である被相続人に対して譲渡所得税の課税がされるのです。
なお、その譲渡所得税は未払いの債務となり、そちらも遺産相続の対象となりますが、住民税については、翌年1月1日に居住している人だけが対象となり、もう死亡しているので課税はされません。
(3)遺贈された法人の株主の課税関係
財産が遺贈されることで、その会社の財産は増えることになるので、その会社の自社株評価額が上昇します。
自社株評価額が上昇するということは、その会社の株主も財産が増えるという恩恵を被ることになります。
そこで、遺産を遺贈した場合、その法人の株主についても、自社株評価額がアップした分について、その被相続人から間接的に遺贈を受けたものとして相続税が課税されることもあるのです。
法人への遺贈の損得は税負担の増減の総合的な比較が必要
まとめると、法人に不動産を遺贈させることで、その分だけ相続税の負担は軽減されますが、
・遺贈を受けた法人|受贈益への法人税等、不動産についての不動産取得税・登録免許税
・遺贈をした被相続人|不動産の含み益の譲渡所得税
・遺贈された法人の株主|自社株評価上昇分の相続税
が余計に課税されることもあるということ。
多額の繰越欠損金があり、将来の利益だけでは期限内に相殺が難しい場合など、あえて法人への遺贈をすることで法人での追加の税負担をすることなく相続税負担が軽減される余地もありますが、一方で税負担が増加することもあるので、それらを総合的に比較した上で、損得を考える必要があるのです。
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