なぜ億単位で稼ぐ個人事業主が法人化をすると税金で損をするのか

儲かってきたら法人化で節税がセオリーといわれているが

法人税の税率は一律なのに所得税は累進課税であったり、役員報酬について給与所得控除という概算の経費計上も認められることから、一人で事業を行うにしても、事業が軌道に乗ったら法人化するというのが、いわば「節税のセオリー」となっています。

ただ、社会保険料負担が増え、給与所得控除の上限が小さくなってきた中では、そのメリットを享受できるケースも限定的であり、特に一人で億単位を稼ぐ個人事業主の場合、法人化でかえって税負担が大幅に増えてしまうことがあるのです。

そこで今回は、メチャクチャ稼ぐ個人事業主が法人化をすると税金で損をする理由についてまとめてみることにします。

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お金の最終的なゴールは自分の財布に戻ってきたお金

どっちが得なのかを判定するには、「どこからどこまでの金額」を計算対象にして「何を比較しているのか」を明確にしないといけません。

一人法人の社長なら会社のお金も個人のお金も預金通帳の名義が違うだけで一緒のようなものとも言えます。

しかし、実際には、「個人のお金」は個人でも会社でも自由に使えますが、「会社のお金」は会社では自由に使えても個人で使おうとすると会社に貸してもらったとお金となり、融資で評価が下がる上、毎期税務上認定利息を計上しなくてはならないなど使い勝手に制約はあるのです。

そこで、今回は、「個人事業主として稼いで税金を支払った後のお金」と「法人として稼いだ後で法人を解散し個人に戻ってきたお金」で比較することにします。

個人事業と法人化の毎年の税金の比較

では、毎年2億円ずつ10年間稼いだときの税金を比較してみることにしましょう。

個人事業で稼いだ場合

個人事業として2億円を稼いだ場合には、最高55%*の累進課税の適用を受けます。

年間の所得税・住民税は約105,000千円なので10年間で支払う税金は

105,000千円×10年間=1,050,000千円

となります。

*個人の所得については、この他に所得税の10.21%の復興特別所得税が課税されます

法人で稼いだ場合

役員報酬は、儲かっているならいくら払っても良いというわけではなく、同業他社の水準を考慮してあまりに高額なものは「過大役員給与」として法人での損金算入が認められないこともあります。

そこで、今回は、法人税法上認められた役員報酬を1億円としてその税金を計算します。

(1)役員への課税

役員報酬1億円のときの所得税・住民税は約49,000千円なので、10年間で支払う税金は

49,000千円×10年=約490,000千円

(2)法人への課税

法人の課税所得は、稼いだ2億円から役員報酬1億円を差し引いた1億円です。

法人税等の実効税率は約30%なので法人税等は約30,000千円であり、10年間で支払う税金は

30,000千円×10年=約300,000千円

(3)法人+個人の税金合計

(1)+(2)=790,000千円

両者を比べるとやっぱり法人化をすれば税金は約2億6,000万円も安くなるようです。

*法人化による社会保険料の負担増は考慮しておりません。

会社を解散して自分のお金として戻ってくるときに二重課税が

しかし、これでは会社にお金が10億円も残ったままで、個人のお金としては戻ってきたわけではありません。

では、どうすれば個人にお金が戻ってくるのでしょう?

(1)役員退職金の課税

まずは、役員退職金としてお金をもらうことにしましょう。

しかし、こちらも同業他社などと比較して過大なものは役員退職金を支払っても法人の損金とされません。

いくらまで税務上認められるのかというのは曖昧な部分もあるのですが、ひとまず「最終月額報酬×勤続年数×3倍」である2億5,000万円を役員退職金として支給するとします。

この役員退職金に対する所得税等は約62,800千円となります。

(2)会社の配当金に対する課税

では、役員退職金2億5,000万円を支払った残りである7億5,000万円はどうすればよいのでしょう

それは会社を解散し、会社に残っていた資産と負債を整理した上で残ったお金を株主に分配するのです。

この分配したお金が当初の資本金を上回る部分については、株主に対する配当となります。

非上場会社であれば、この配当は給与などと合算される「総合課税」の対象となり、給与所得と同様累進課税の適用を受けるのです。

このときに配当金に対する所得税・住民税は約407,700千円となりますが、「配当控除」というものが約48,000千円受けられるので差し引きの税金は約359,700千円となります。

つまり、会社を解散して個人のお金として受け取るのにかかる税金は次のようになります。

(3)退職金+配当の税金合計

(1)+(2)=422,500千円

では、毎年2億円を10年間稼ぐ人が法人化をして最終的に解散して個人が受け取ったときの税金の合計額はいくらかというと

790,000千円+422,500千円=1,212,500千円

個人事業のまま稼いだときの税金の合計が約1,050,000千円であったのに、法人化することでその税金の合計額が約1,212,500千円と2億1,250万円も税金が増えてしまうのです。

なぜ、このようなことが起きるのでしょう?

それは、会社に残したお金が既に法人税が課税された後のものであるのに、個人に配当したときにさらに所得税も課税される「二重課税」がされているからです。

この二重課税の排除のために所得税には「配当控除」という控除が認められているのですが、これだけの高額所得者では焼け石に水なのです。

もちろん、この他にも法人化で設立から二期間消費税の納税義務を免除されることの益税を享受できる上、そもそも会社を解散などせず、後継者が時間を掛けて役員報酬を得ることで税負担を平準化する、あるいは会社の株式を売却することで20.315%の分離課税にするなどの方策は考えられるかとは思います。

しかし、一人で億単位で稼げるような人については、法人化をすると個人事業主よりも税負担が増えてしまうという我々街の税理士には想定外のことが起きることは覚えておきたいもの。

え?一人でそんなに稼ぐ個人事業主なんて本当にいるのかですって?

いや、チョイチョイ相談されているからこうやって説明しているわけでして。

セミナー音源No.13:どこまでならOK?税務のさじ加減