会社を辞めずに役員退職金をもらえる?ー分掌変更に伴う打ち切り支給役員退職金は結構怖い

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役員退職金は退職に伴い支出される一時金だが

税務上、退職所得とされるのは「退職に伴い一時金で支給される退職金等」とされています。

つまり、会社を辞めなくてはなりません。

しかし、例外的に会社を辞めなくても退職金を受け取ることができるのです。

その一例に、従業員が役員に昇格した際には、一旦従業員を退職し、役員に登用されたものとして「従業員時代の退職金」を支払うというものがあります。

このように、以後支払われる退職金の計算において、それまでの勤続期間を一切加味しないことを条件に支払われる退職金を「打ち切り支給退職金」といいます。

この「打ち切り支給退職金」という制度は役員であっても使用可能です。

つまり、会社をやめなくても役員退職金がもらえるということ。

そこで今回は、その打ち切り支給の役員退職金をもらえる条件と注意点についてまとめておきます。

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打ち切り支給役員退職金が「退職金」とされる要件

打ち切り支給の役員退職金であっても退職金として法人の損金に算入されるのは、次のような場合とされています。

役員が分掌変更した場合の退職金

例えば、次のように、分掌変更によって役員としての地位や職務の内容が激変して、実質的に退職したと同様の事情にある場合に退職金として支給したものは退職金として取り扱うことができます。

ただし、未払金に計上したものは、原則として退職金に含まれません。

(1)常勤役員が非常勤役員になったこと。

ただし、常勤していなくても代表権があったり、実質的にその法人の経営上主要な地位にある場合は除かれます。

(2)取締役が監査役になったこと。

ただし、監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めている場合や、使用人兼務役員として認められない大株主である場合は除かれます。

(3)分掌変更の後の役員の給与がおおむね50%以上減少したこと。

ただし、分掌変更の後においても、その法人の経営上主要な地位を占めていると認められる場合は除かれます。

使用人が役員へ昇格した時又は役員が分掌変更した時の退職金(タックスアンサー)

これらはあくまでも例示であり、その実質的な判断基準として、「その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」かどうかにより判断するとされています。

さて、(1)(2)は形式的な変更でありますが同時に行われるとは限らず、(3)は形式的な変更とは全く別のものです。

そのため、法令上はこれらはそれそれ独立した例示であり「常勤取締役が非常勤取締役になる」か「取締役が監査役になる」か「役員報酬が1/2以下に減額」されていれば退職所得となるように思えます。

しかし、これらの「分掌変更」がされたとしても、その後も「その法人の経営上主要な地位にある場合」は除かれています。

「常勤が非常勤」「取締役が監査役」など形式的な分掌変更がされたとしても、役員報酬がそのまま維持されていると、引き続き「経営上主要な地位を占めている」と捉えられかねません。

つまり、役員報酬が1/2以下かどうかは別にして「役員報酬が大幅に減額されている」ことが実質的に退職と同義の分掌変更が本当に行われたという客観的な証拠として求められるということです。

一方、役員報酬が1/2以下に減額された事実だけでは、「役員退職金を損金としたいために一時的に役員報酬を減額しただけで、またあとで役員報酬を増額するのではないか」という疑念も持たれます。

そのため、その役員報酬の減額の理由として「常勤が非常勤」「取締役が監査役」になるなど「形式的な分掌変更がされている」ほうがよいでしょう。

結果的に、より安全に打ち切り支給の役員退職金を損金算入しながら退職所得とするには、「形式的な分掌変更」がされ、それに応じた「役員報酬の大幅な減額」がされていることが求められるということになるのです。

(元々は「常勤から非常勤」かつ「役員報酬が1/2以下に減少」した時に打ち切り支給退職金が認められていたものが、必ずしも「役員報酬1/2以下に減少」を絶対的な要件とせず例示の一つにとどめるようになったという経緯があります)

退職給与の支給に関する課税上の諸問題-役員の分掌変更等の場合における打切支給のケースを中心として-

打ち切り支給の場合、未払支給が認められない

本当に退職することによる役員退職金の損金算入時期は、原則は「株主総会で退職金の支給金額が定められた日」であり、例外として「実際に退職金を支給した日」とすることもできるとされています。

つまり、株主総会で支給金額を定めて、役員退職金の未払い計上をすることは可能ということです。

しかし、この打ち切り支給の役員退職金については、未払い計上が認められていません。

もし、予定外に利益が上がってしまった時の節税対策として打ち切り支給退職金を検討するのであれば、その事業年度内にその退職金を支払うことが必要であるということなのです。

退職金ではなく役員賞与とされると往復ビンタに

役員退職慰労金制度を廃止するのに際し、これまでの在職年数に応じた役員退職金を支払うとしましょう。

これも打ち切り支給退職金の一部であるようにも思えます。

しかし、これを認めてしまうと「前から役員退職金制度があったかのようにし、それを廃止したことにして、今までの分だけ退職金支払います」と大幅な分掌変更もなしに役員に残ったまま退職金支給ができてしまいます。

そのため、役員退職慰労金制度廃止に伴い在職中の役員等に支払われる一時金は退職所得ではなく、賞与となるので注意が必要です。

役員退職慰労金制度の廃止による打切支給の退職手当等として支払われる給与

賞与となれば法人では損金不算入となる上に、個人では給与所得として総合課税がされます。法人で損金算入された上に個人での税負担も軽減される退職所得とは大きく税負担が異なります。

打ち切り支給退職金という節税対策は、万一退職金とされずに役員賞与とされると、法人個人両方で追徴課税される”往復ビンタ”となり、「やらないときよりもむしろ税金が増える」というものなのです。

ですから、安易な利用をせず、きちんと要件をクリアできるか条件整備を行った上で慎重に実行しましょう。

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