これだけ!決算書分析|財務指標の優先順位1-2-3

どの指標が一番大事というのは難しいが

会社の健康診断とも言える財務分析。その財務分析指標は多岐にわたります。

「そんなに一杯覚えるのはできないので、これだけ覚えればいいっていうのを教えてよ」

そう言われても、健康診断と一緒で、それぞれのチェック項目にそれぞれの指標があるので、どれが一番大事と言われてもその判断はむずかしいものです。

血圧の数値だけ見てその人の健康状態がわからないのと同じです。

また、財務分析というのも誰の視点で見るかによって、着目すべき指標も大きく変わります。

たとえば、お金を貸す銀行に視点であれば「この会社は貸した金をちゃんと返せるのか」といった視点が大事だし、投資をする人の視点であれば「この会社は投資した資金にどれだけのリターンをもたらすか」といった視点がより大事になります。

ですから、本来それぞれの財務指標に優劣はないはずですが、今回はむしろ「財務分析をする際にこれしか見てはいけないと言われた時にどの指標をチョイスするか」という視点で財務指標を選んでいくことにします。

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サクッと財務分析をしたいなら

数ある財務指標の中から、短時間でその会社の業績の優劣をサクッと見たい場合にどの指標からみるのか、あえて優先順位をつけてみることにします。

(1)1つだけしか使えないなら(★★★)

(2)3つまで使えるなら(★★)

(3)6つまで使えるなら(★)

と「ミシュラン」風に選んでみました。

なお、私は「少数精鋭で高効率な経営」を理想としているので、それを実現するための指標を重視しています。

★★★

総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100

どうしても財務指標は一つしか使ってはいけないと言われたら私はこの指標を選ぶでしょう。

これは、会社の利回りとも言える指標。

つまり、投下した資本がどれだけの効率よく利益を上げたかというものです。

ROI、ROAなどとも言われますが、この数値が高いという事は小さな組織や設備や資金でより効率良く利益を稼ぎ出すことができていることが伺えます。

この指標を頂点にしたROI統制という財務管理手法もあります。

具体的には、総資本利益率を利益率(利益÷売上高)と回転率(売上高÷資本)にまずは分解します。

さらに利益率については「売上高総利益率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」と利益の発生源泉ごとに分けてみます。

回転率については「一人当たり売上高」「棚卸資産回転率」「運転資金回転率」など経営資源である「人、モノ、金」ごとに分けてそれぞれどこに問題点があるのかをみていくのです。

★★

手許流動性比率=現金預金÷平均月商

現金預金やすぐに換金できる有価証券が月商の何倍あるのかを見る比率です。

この比率が高いということは、資金が潤沢であり倒産しづらいと言えます。

しかし、投資家の視点からは「せっかく俺が投資した資金をなんで利益をほとんど生まない現預金なんかにしておくのだ」とあまりに高い場合には、ネガティブにみられることもあります。

ただ、中小企業などでは、金融機関の動向により資金調達環境は大きく変わるため、教科書に書かれているような「タイムリーな資金調達」などできないのも事実。

銀行の姿勢変更に振り回され、手許の現預金残高が少ないために赤字覚悟の受注をしてジリ貧になるという負のスパイラルに巻き込まれないためにも、この手許流動性比率はできるだけ高めていただきたいのです。

なお、私はお客様から「どれくらい現預金は持っておくべき?」と聞かれた場合には「2ヶ月間売上高がなくても資金ショートしないだけの現預金は持っていてほしい」と答えています。

ただ、中には資金繰り表をつけていないところもあるので、代替的に「平均月商の2ヶ月分」と考えてもいいと伝えています。

要するに手元流動性比率が2ヶ月ということです。

ちなみに、この場合の現預金とは会社の預金通帳の残高ということではなく、オーナー個人の預貯金やすぐに借りられる融資枠も含めて構いません。

つまり、今日かき集められるキャッシュの額だと思って下さい。

債務償還年数=銀行借入金残高÷債務償還財源

これはその会社が何年で融資を返済できるかを表した指標です。

さて、融資した資金は何で返すのでしょう?

それは会社が稼ぎ出した「利益」です。

ですから、借入金の残高を一年間で稼ぎ出した利益で割ることで、一体何年で融資を返済できるかを見るのです。

この数値が大きいという事は「借入金過大」という財務上の不安定さや投下した資金が期待される利益を生み出していないという非効率さを示す事になります。

その「利益」とは税引き後の当期利益であることが基本です。

ただ、その計算上差し引かれた減価償却費は、実はその期には実際の支出はありません。

なので、当期利益に減価償却費を加えた金額を「債務償還財源」として上記の算式で計算します。

なお、金融機関としてはこの数値が10年以内であることを融資可否の一つの条件としていることが多いようです。

ちなみに、中小企業の平均値は8.5年程度と言われています。

売上高総利益率=粗利益÷売上高×100

これは、粗利益という利ざやが売上高のどれだけの割合であるかをあわらす指標です。

なぜ、この指標を重視するかというと、粗利益額そのものが企業経営に大きな影響を与えるからです。

ぶっちゃけ粗利益額がしっかりと確保されていれば、良くも悪くも会社経営は安泰なんです。

財務分析をしても粗利益額が大きいと大抵の指標が良くなってしまいます。

この粗利益額が満足に確保できなくなってくるとあちこちで問題点が露呈する。

まさに、潮が引いてはじめて海面の状態がわかるかのようです。

粗利益率が大きければ同じ売上高でも粗利益額が大きくなります。

それ以外にも立て替えるべき資金(必要運転資金)の額や踏み倒された時の実害についても粗利益率が高いほうが圧倒的に有利なのです。

自己資本比率=自己資本÷総資本×100

これは、投資した資金のうち返済不要な資金でどれだけまかなったかを見る指標です。

例えば、自宅をローンで購入した時と自己資金で購入した時で思い浮かべて下さい。

その後その人の収入が大きく下がった場合でも、自宅が自己資金で全て購入されたのであれば、なんとか倹約すれば乗りきれるかもしれません。

しかし、全額フルローンであれば、その返済は相当困難を極め破綻するリスクが大きくなります。

つまり、この場合の「頭金の比率」に当たるのが自己資本比率です。

自己資本比率が高いほうがその会社はつぶれにくい。

ただし、住宅購入もローンを組むことで、自己資金を貯金するという「時間を購入することが出来た」
とも言えます。

会社経営でもスピード経営を標榜する会社ほど意外にこの自己資本比率が低いこともあるのです。

労働分配率=人件費÷付加価値総額×100

これは、会社が稼ぎ出した付加価値(ざっくり言うと粗利益額)をどれだけ従業員に配分したかということです。

基本的にはその会社の労働生産性を表す比率として見られます。

少数精鋭の高効率経営であればできるだけこの労働分配率比率は低いほうがいいことになります。

逆に、働く人にとってみれば自分たちへの配分が大きいのですから労働分配率は高いほうが良いようにも思えます。

しかし、実際にはそうとも言えません。

むしろ、働く人にとっても労働分配率は高くないほうが良いと言えます。

その人件費が粗利益率に占める割合が高いということは、売上高が減ったときにはすぐに人件費カットに手を付けざるを得ないということを意味します。

また、すでに労働分配率が高いということであれば、人件費が粗利益額から配分される以上、もう給料が上がる余地は小さいということなんです。

少子高齢化で相対的な人件費が勝手に上がっていく以上、この労働分配率は今以上に重要な財務指標になることでしょう。

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