税務調査で指摘されたって、認めても割りと痛くないもの、絶対に認めてはいけないものー修正しても良い順、悪い順ランキング

落とし所は金額だけで判断してはいけない

税務処理には、白と黒と判断が難しい「グレーゾーン」が存在します。

そのグレーゾーンについては、税務調査でも、税務署側の主張が100%通ることも納税者側の主張が100%通ることもまずありません。

そのため、実務上は、税務署から修正すべきと指摘がされた項目の中からいくつかの項目を選んで修正申告に応じるという「落とし所」に落ち着くことが多くなります。

この税務署から修正を求められた項目のうちどれを認め、どれを認めないかを税理士のアドバイスにより納税者が判断するのですが、修正申告に応じる金額は小さいほうが良いのは当然です。

しかし、どの項目を修正に応じるかは、必ずしも金額だけで判断してはいけません。

修正に応じても良い項目と絶対に応じてはいけない項目があるのです。

今回は、税務調査でいくつか指摘を受けた場合に、どの項目を修正に応じても良いのか、どの項目は修正に応じてはいけないのかということを話してみようと思います。

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税務署はなぜ修正申告を求めてくるのか?

まず、なぜ税務署は修正申告を求めてくるのでしょうか。

これは、修正申告というのは、言葉は悪いですが、納税者の「自白調書」であるからです。

この修正申告書を提出すると、それ以後納税者はその処理について異議を申し立てすることができません。

では、修正申告をしない場合には、どうなるのでしょうか。

この場合には、税務署が正しいと考える処理に従い、独自に「更正処分」をしてきます。

この時点では、納税者は税務署の主張を認めていないので、その更正処分について異議を申し立てることが可能になります。

税務署もその異議に答えられるような、丁寧な解釈と事実認定の積み重ねをしておかなくてはならないことになります。

実務上、作成する書類が一気に増える上に、税務署長の承認を得る必要があるなど、非常に処理は煩雑になるので、多忙を極める税務署員としては、極力更正処分は避けて、納税者からの修正申告を引き出したいのです。

そのため、指摘された事項がどう考えても反論のしようもないようなこちらのミスばかりの時でも、あえて「わかりました、すべておっしゃるとおりです。どうぞ更正処分をしてください」とこちらから伝えると「いやいや、一部は指導にとどめますから、なんとか修正申告をしてください」と税務署からお願いをされることもあるくらいです。

ここに、修正申告をすることで、妥協点を引き出す余地が生まれるわけです。

取られた追徴課税にも取り返せるものと取り返せないものがある

実は、追徴課税をされてしまったものにも、後々取り返せるものと取られっぱなしで終わってしまうものがあるのです。

同じ金額の追徴課税なら取り返せるものを修正することになりますし、場合によっては、仮に追徴税額が大きくても、あえて取り返せるものを修正に応じることもあるわけです。

では、どんなものが取り返せて、どんなものが取り返せないのでしょうか。

それらを踏まえて、修正を認めてしまっても良いもの、悪いもの順ランキングを作ってみました。

なお、前期と今期はともに黒字で、税率も同じ前提で考えています。

そうでない場合は、それらも加味して判断をすることになります。

修正しても良いもの

第1位 在庫の計上漏れ、金額過小

外注先に加工の依頼をしていた材料を会社の在庫に計上し忘れていたなど、期末在庫の計上漏れや金額が小さいという指摘をされることがあります。

粗利益というのは、売上高ー売上原価で計算がされ、この売上原価は、期首在庫高+当期仕入高ー期末在庫高で計算がされます。

期末在庫の金額が多くなるということは、その分売上原価が小さくなり、結果として粗利益額が大きくなるので、その分追徴課税の対象となります。

しかし、前期に期末在庫として加算された金額は、今期の期首在庫にも加算されるため、今期の売上原価が大きくなり、粗利益額が小さくなります。

つまり、前期の納税が増えた分だけ、今期の納税額が減るわけです。

要するに、納税の時期が一期間ずれただけですぐに追徴税額は取り戻せてしまいます。

それこそ、税務調査の結果がまとまったのが、もう今期の決算間近ということであれば、ほとんどその納税の時期の差すらないことになるわけです。

なお、在庫の金額が増えても、消費税の額には影響がないので、修正申告をする必要は原則としてありません。

第2位 売上高(売掛金)の計上時点のズレ

売上高の計上基準の判断で、今期のものとしていたものが実は前期に計上すべきであったという指摘を受けることがあります。

この分だけ、前期の利益は増えて追徴課税の対象になります。

しかし、同じ金額だけ今期の売上高は減り、利益も減るので、その分だけ今期の納税額が減ることになるのです。

これは、在庫と同様、単純に納税の時期がズレるだけで、取り戻しが簡単にできる指摘事項だということです。

なお、売上高の修正に伴い、前期の消費税の修正申告も必要になりますが、こちらも今期の消費税額が同じ金額だけ減少することになります。

第3位 修繕費の資本的支出、過大減価償却費

修繕費として支出時に一括して損金処理をしたものが、実は、固定資産の価値が上がっているので資本的支出(固定資産)であり、減価償却により損金算入をすべきであるという指摘を受けることがあります。

こちらも、修繕費として計上していたものが固定資産になるので、その分利益が増え、追徴課税がされます。

しかし、指摘を受けて固定資産とした後、減価償却により損金になり、利益を減らすことになるので最終的には追徴税額を取り戻すことができます。

ただ、在庫や売掛金と違い、回収までに非常に長い時間が掛かることになります。

認めたくはないもの

第3位 交際費

交際費は支出額全額が損金にならず一部が損金不算入となります。

(平成25年度改正により中小企業に対して認められる金額の範囲は大きくなりました)

例えば、会議費や福利厚生費としていたものが交際費とされ、損金算入される上限額を超えると、会計上の利益は変わらないのに、税金だけ追徴課税がされることになります。

これは、将来全く取り戻すことはできません。

ですから、この項目はできるだけ修正に応じず別の項目での修正に応じる姿勢でいくか「一部会議費や厚生費としての部分がある」などなんとか理由をつけて金額を減額するように持ち込むことが必要です。

第2位 関係会社間の利益移転

親会社の黒字を関係会社の赤字の穴埋めに回すことで、親会社は利益が減るので納税額が減少し、関係会社は赤字が減ってもまだ赤字の場合、課税がされないことになります。

しかし、その利益を移転させるための親会社から関係会社の外注費などの支払いが合理的ではない場合には、その支出が否認され追徴課税がされます。

なお、このような修正の指摘は、なにも関係会社が赤字でなく黒字同士の企業間であっても行われます。

その場合に、取引がなかったものとされるだけであれば、親会社で追徴課税をされる分だけ、関係会社の売上高も減り、税金も還付がされるとお考えでしょう。

しかし、税務署の考えでは、本来の経済取引とは関係なくお金を上げただけなので、それは、親会社から関係会社への寄付であるとしています。親会社は寄付金を支出したことになると、ごく少額な損金算入限度額を超えた部分については損金不算入となり、結果として追徴課税がされます。

一方、寄付金を受けた関係会社は、寄付による受贈益(雑収入)として法人税が課税されるのです。

要するに、親会社だけ追徴課税を受けて、関係会社で税金を取り戻すことはできないのです。

第1位 役員賞与

社長の個人的な経費と思われるものが、会社の経費として処理をされていたことが発覚した場合には、その支出は会社での損金とは認められません。

税務署としては、その経費の支出を本来社長が負担すべきものを会社が負担していたので会社から「社長へのボーナス」だと考えるのです。

つまり、社長に対する給与が増えたので、その分社長に対する所得税・住民税の追徴課税をするということです。

実は、これだけですむわけではありません。

会社で経費として処理していた金額が、社長に対する給与になったとしても、結局会社の利益は変わらず、会社に対しては追徴課税はないと考えるかもしれません。

しかし「会社で損金に出来る役員への給与は、一定期間ごとに同じ金額を支払ったもののみ」であるという恐ろしい規定があるのです。

つまり、今回の個人的な経費のつけ込みも含めて、毎月同額の給与以外は支払っていても損金にはならないということです。

要するに、この役員賞与の認定がされると、会社に法人税が課税された上に、個人の所得税・住民税まで課税される、まさに「往復ビンタ」になるのです。

実は、税務署が一番取りたいのは、これです。

一粒で二度オイシイのですから当然。取った税務署員の評価もアップします。ですから、極力この項目は修正に応じないようにする必要があります。

役員賞与や寄付と言われた時の対処法

では、役員賞与や関係会社への寄付だと指摘された場合にはどうしたらよいのでしょう。

そのまま、修正すべき金額を減らすように交渉をするのもひとつの手ではあります。

しかし、私ならば、まずは「そのお金を返す」と主張します。

贈与というのは、上げるほうが「上げた」というだけでは成立しません。

成立するには、もらったほうも「もらった」と承諾をしなければならないのです。

それであれば、贈与(寄付)と認定されないためには、社長や関係会社が「もらっていない」といえばよいわけです。

この場合、これらのお金のやり取りは両者間の「貸し借り」になるのです。

そうなると、社長の個人的な経費のつけ込みは、会社では、本来他人が負担すべき金額が自社の損金に紛れていたのですから、その分法人税の追徴課税はあります。

しかし、もらったわけでもないので、社長の所得税・住民税の課税はされることはなくなるわけです。

また、親会社から関係会社への利益移転の場合には、親会社では、その外注費の支払いが否認されるので、法人税の追徴課税はされます。

一方で、関係会社で受贈益は発生せず、親会社からの売上が減った分は、税金が還付されることになります。

(赤字の場合、税金額の還付ではなく、繰越欠損金が大きくなります)

もし、どうしても、役員賞与や寄付金の認定を譲れないと税務署がいう場合でも、そう認定されても良いくらいに対象となる修正額を小さくするように「もらったわけではない。お金は返す」という主張を武器に交渉をすれば良いのです。

なお、貸付金となった場合には、その貸付金について過去から「認定利息」という利息の計上を求められるなど、嫌がらせかと思うような面倒な修正申告に応じることになりますが、往復ビンタを食らうよりはずっと良いでしょう。

これらの点を踏まえて、どの項目を修正に応じれば最も税務調査のダメージが小さくて済むかを考えてみてはどうでしょうか。

もちろん、何も修正申告に応じることなく税務調査が終わればいいんですけどね。

*顧問先以外の方からの税務調査のご相談は受けかねます。あくまでも当事務所の判断基準ですので、実際の税務調査に際しては顧問税理士とご相談の上対処してください。

*なお、売上除外や架空経費計上は税務署も本気で交渉の余地がないので、原則として修正をせざるを得ません。なので、絶対にやっちゃダメですよ。

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