先に設備投資をして翌期に補助金をもらったときの課税関係|圧縮限度額の調整が面倒くさい

事業再構築補助金やものづくり補助金

コロナ禍からの脱去を目指し、先進的な事業に取り組む先に対してその設備投資を支援する「事業再構築補助金」

最大1億円というその金額の大きさでも話題になりました。

この事業再構築補助金のほか「ものづくり補助金」など設備投資を前提にした補助金はいくつもあります。

それらは大抵、先に設備投資をした後、あとから補助金が給付されます。

では、それらの設備投資を前提にした補助金について税金はかかるのでしょうか?

そこで、今回は、特に先に設備投資をしたものの、補助金の支給が翌期になったケースの課税関係についてまとめてみようと思います。

補助金・助成金の課税

補助金、助成金の課税の原則については次のようになっています。

(1)法人税法上は益金に

補助金についても助成金についても、「受給できることが確定した日」に収益となり、法人税等は課税がされます。

事業再構築補助金やものづくり補助金のような設備投資促進のための補助金であれば、金額も大きく一時的なものであるため特別損益である「特別利益」とするのが妥当だと思われます。

(2)消費税は課税対象外

補助金であれ助成金であれ、役務が提供されるわけでもありませんので、消費税については対象外とされます。

補助金で設備投資をした場合の圧縮記帳

設備投資のための補助金を受けた場合、その補助金収入が益金とされる一方、設備投資のための支出は一旦有形固定資産となり、減価償却を通じてしか損金に算入されません。

そうなると、その補助金を受取り、設備投資をした事業年度で見ると、補助金全額を設備投資に充てて、手許にお金は残っていないのに、「補助金収入ー減価償却費」分だけ課税所得が増加し、税負担が増えてしまいます。

これでは、その税金支払のために設備投資ができないという本末転倒になってしまうでしょう。

同様に、火災などで保険金をもらい、その保険金で建物等を再建築しようとする場合にも、保険金を建物代金に充てようと思ったのに、税金支払が増えるので建物代金を支払えないということも起きます。

また、土地を交換した場合には、一旦土地を売却したものと考え、含み益を抱えていた場合には、税金が生じますが、交換しただけで手許のお金が増えていないので納税に困ってしまいます。

そこで、国庫補助金や受取保険金で固定資産を取得した場合や一定の固定資産間の交換をした場合には、その年の税負担が増えないような特例措置があります。

これを「圧縮記帳」といいます。

その中身を一言で説明するならば、もらったお金から通常損金になる金額を超えて生じる所得について、固定資産の取得に充てた金額までその固定資産の取得価額を損金算入させ、その年の課税所得を増加させないというものです。

例えば、もらったお金を全額償却資産の購入に充てている場合、実質的にその償却資産については、支出時に全額損金算入が可能な「即時償却」と同じことができるのです。

ですが、これは、固定資産の取得に充てれば、補助金や保険料をもらっても非課税ということではありません。

償却資産を取得したのであれば、取得価額が既に圧縮記帳で損金算入に使われてしまっているので、減価償却をする余地はもうないです。

圧縮記帳を適用しなかったときよりも減価償却費分だけ課税所得は大きくなり税負担も増えます。

土地を取得した場合であれば、圧縮記帳で損金算入された分だけ土地の取得費が小さくなっているので、この土地を売却したときの譲渡益が大きくなり税負担も増えるでしょう。

要するに、もらったお金を全額固定資産の取得に充てると手許にお金がないので税金が払えないというのであれば、その税金の支払を後回しにしたり分割払いにしていいよというだけのことなのです。

圧縮記帳についての2つの経理処理

圧縮記帳の経理処理の方法には2つのパターンがあります。

(1)直接減額方式

補助金の金額を設備投資額から直接控除する方法です。

例えば、設備投資額が1,500万円で補助金が1,000万円であれば、経理処理は次のようになります。

設備投資/預金 1,500万円

預金/補助金収入 1,000万円

固定資産圧縮損/設備投資 1,000万円

補助金収入については、固定資産圧縮損と相殺されるため、この期の法人税の課税はありません。

一方、設備投資の帳簿価額は、補助金収入分だけ控除されるので、自腹で負担をした500万円(1,500万円ー1,000万円)となります。

法人税法上の設備投資の減価償却は、自己負担した500万円をベースにして行うことになります。

(2)積立金方式

直接減額方式はシンプルでわかりやすいのですが、設備投資の総額がわかりにくくなるという欠点もあります。

また、税法上の恩典により減価償却費が少なくなることで正しい業績判定ができないということもあります。

そこで、期間損益をより正しく判定したいという会社では、税務上の恩典を企業利益に反映させないようにするため、会計上の利益計算が終わったあとの税務申告書で調整をする方式が用いられます。

これを「積立金方式」といいます。

この場合には、

設備投資/預金 1,500万円

預金/補助金収入 1,000万円

繰越利益剰余金/圧縮積立金 1,000万円

これだと、設備投資の金額は1,500万円と表示され、減価償却も1,500万円をベースにして会計上の計算ができるため、税法上の特別措置を業績判定から排除できます。

圧縮記帳による税務上の恩典については、税務申告上この補助金1,000万円を益金不算入にすることで、この期間での課税を受けないようにします。

しかし、圧縮記帳により補助金分はすでに事実上即時償却をしてしまったため、残りの設備投資の減価償却については本来500万円をベースにしてしかできないところを1,500万円をベースに減価償却をしたことで減価償却の超過が生じます。

その調整の観点から、設備投資の耐用年数の間、税務申告上毎期減価償却超過分を課税所得に加算をしていく、また会計上圧縮積立金を取り崩した上で税務申告書上必要な各種調整をするというやたら面倒くさいことを長期間に渡って行う必要があるのです。

結果的に、業績の正しい判定のためにも、税効果会計が求められるような事業規模の大きい会社では積立金方式が採用されることが多いですが、中小企業では、直接減額方式を採用するのが一般的と言えるでしょう。

ですから、以後も直接減額方式を前提にお話をします。

設備投資が先行し翌期に補助金を受け取ったとき

大型の補助金ほど先に設備投資をしてから実際に補助金を受給するまでの間にはタイムラグが生じ、補助金をもらえるのは設備投資をした翌期になることも多いものです。

その時の経理処理については、次のようにすると良いでしょう。

設備投資の時点で固定資産に計上、消費税を控除

設備投資をした時点で次のような減価償却を行います。

設備投資/預金 1,500万円

事業に供した時点以後の減価償却費については、まだ補助金をもらっていないのでひとまず1,500万円をベースに減価償却をはじめます。

なお、消費税については、補助金は消費税の課税対象外ですから、その取得時に設備投資の取得価額1,500万円を仕入税額控除の対象とします。

翌期に補助金をもらった時点で圧縮記帳をする

法人税法上、補助金などについては、その受給をする権利が確定した時点で益金に計上をします。

未収入金/補助金収入 1,000万円

その時点で、直接減額法によりその補助金収入について設備投資額から控除をします。

固定資産圧縮損(または補助金収入)/設備投資 1,000万円

としたいのですが、すでに設備投資をした時点で減価償却をしているのでそうはいきません。

設備投資額と補助金収入が同額であった場合を考えればわかりますが、減価償却をしたあとで補助金全額を圧縮記帳してしまうと固定資産の残存価額がマイナスになってしまいます。

つまり、通常の減価償却をした資産に圧縮記帳をすると一つの資産の取得価額について、通常の減価償却と圧縮記帳が二重で償却されてしまうのです。

そのため、先に固定資産を取得して減価償却をした後に補助金がもらえることが確定した場合には次のような算式で圧縮記帳額を計算しなくてはいけないのです。

補助金収受確定時点での固定資産の償却残高×(補助金受領確定額/固定資産の取得価額)

上記の例で設備投資をした年度ですでに減価償却を150万円していた場合には、圧縮記帳ができる上限額は

(1,500万円ー150万円)×1,000万円/1,500万円=900万円

となります。

つまり、前期で減価償却費150万円を損金算入した代わりに、補助金収入1,000万円のうち圧縮できない100万円については、受給確定時点で課税課税対象になる。

その上で、補助金の圧縮記帳をした設備投資の残高450万円(1,500万円ー150万円ー900万円)について、以後の減価償却をしていくことになるのです。

固定資産の取得等の後に国庫補助金等を受けた場合の圧縮記帳|タックスアンサー

なんとも面倒くさいですが、会計システムの固定資産管理機能を使えば、減価償却の計算は自動でやってくれますので、なんとかなるといえばなんとかなる。

まあ、面倒くさいし、大した差でもないなら、設備投資をした事業年度の減価償却をやめちゃって、補助金受給が確定した事業年度で補助金全額圧縮記帳しちゃってもいいんじゃないかなと個人的には思いますけどね。

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