【M&A】会社を買収した時点で取得価額の7割控除|中小企業事業再編投資損失準備金
目次
中小企業のM&Aによる再編を促進
最近では、私のお客様を見る限りでも、会社がまるで不動産のような感覚で売買されるようになってきています。
そのM&Aの理由については、後継者がいないケースや上場企業の完全子会社になるケース、連続起業家による”利益確定”など様々ですが、これまでの中小企業を弱者として支援し、そのままの状態で存置させることは、経済の非効率につながるとの考えから、中小企業の再編を促すような税務面での取り組みもされています。
それが、「経営資源集約化税制」というものです。
その一つに、一定規模以下の中小企業について、買収をした時点で、その取得価額の70%相当額の損金算入を認める「中小企業事業再編投資損失準備金」という制度があります。
今回は、この「中小企業事業再編投資損失準備金」についてまとめてみようと思います。
中小企業再編投資損失準備金の趣旨
この制度は、令和6年3月31 日までに事業承継等事前調査に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けたものが、株式取得によってM&Aを実施する場合に、株式等の取得価額として計上する金額の一定割合の金額を準備金として積み立てた時は、その事業年度において損金算入ができる制度です。
中小企業が売却されるケースでは、何らかの問題を抱えていることも多く、企業価値を評価して買収をしてみたものの、その後事業が思うようにうまく行かず、買収による損失が生じることがあります。
しかし、法人税法では、その損失が確定したときに初めて、その損失の損金算入が認められるというのが原則であり、その買収した会社を再度売却や清算をして損失が確定するまで、損金の計上ができません。
それでは、中小企業の買収に躊躇するであろうとの考えから、一定金額以下の中小企業の買収であれば、買収した時点で、予め損をすることもあるとして、事前に損失を仮に計上をすることを認めるということなのです。
制度の対象となる中小企業
次の2つの要件をどちらも満たす必要があります。
・資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
・資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人または個人
損金算入額と取崩額の益金算入
損金算入額と計上のタイミング
・M&A実施時点
・取得対価の70%以下の金額を準備金として積み立て→損金算入が可能
取崩額額と計上のタイミング
・M&A実施から5年経過後から
・5年間均等で準備金を取り崩し→益金算入が必要
なお、簿外債務の発覚や株式の売却がされた場合には、その時点で準備金残額を一括して益金算入が必要です。
この「損失準備金」の計上は、あくまでも、将来予想外に事業がうまく行かず株式の価値が大きく毀損することを見込んで、その投資額の一定割合を先に損金算入することを認めるという、万一損失が生じたときの「備え」です。
ですから、事業がそのような事態に陥ることなく、順調に軌道に乗れば、そのような損失が生じる恐れは大きく減ります。
そこで、M&Aから5年経過後から、その準備金を5年間に渡って均等に取り崩して、益金に算入をする。
つまり、この中小企業事業再編投資損失準備金は、会社の買収額の70%だけ損金が湧いてきて、その分節税になるようなものではありません。
あくまでも、将来損失が生じるかもしれない分について、損失を見込んで先に税負担を軽減するもので、仮に本当に損が確定したとしても、もうその分の損金は先取りしているので、二重に損金が生じるわけでもないですし、損失が生じるようなことがなければ、5年経過以降にその分の税負担が生じるので、単に「損金の先食い」ができるというだけのものです。
適用要件
他の中小企業の「株式等を取得」(取得価額10億円以下)するものであり、「事業の承継」を伴うものに限定されます。
ですから、
・会社の事業の一部についての「事業譲渡」や「合併」
・同一の者に支配された法人間での事業の移転や親族内での株式移転
については、対象外となります。
申請手順
M&Aの基本合意後
M&Aについて、デューデリジェンスの結果、特に問題がなければ、この条件での買収をしましょうという「基本合意」が成立したあとで、経営力向上の内容に株式取得を含み、かつ事業承継等事前調査の内容を記載した経営力向上計画を策定し、主務大臣の認定を受ける必要があります。
この事業承継等事前調査とは、企業の経営状況や財務状況などが適正であるのかの調査である「デューデリジェンス」(DD)のうち、財務諸表や税務処理に誤りがないかという調査のチェックシートのことです。
M&Aでは、求められる精度はそれぞれですが、この「財務DD」はまず間違いなく実施されますので、その結果をこのチェックシートに記載すればよいだけです。
この事業承継等事前調査の内容を踏まえた経営力向上計画を各地の経済産業局に提出をし、経済産業大臣の認定を受ける必要があります。
この手続きは、経営力向上計画申請プラットフォームからの申請に一本化され、書面での申請は既に認められていません。
この申請には、GビズIDプライムが必須で、この取得には一ヶ月程度の時間が必要です。
中小企業のM&Aでは、基本合意が締結されてから最終合意までそれほど時間がかからないことも多いので、M&Aによる買収を検討し始めた段階で、GビスIDプライムを取得しておくことをおすすめ致します。
M&Aの最終合意後
デューデリジェンスの結果を踏まえた最終的な買収条件について定めた「最終合意」を締結し、認定計画の内容に従って株式取得を実行した後で、各地の経済産業局に対して事業承継等を実施したこと及び事業承継等事前調査の内容について報告し、経済産業大臣による確認書の交付を受ける必要があります。
税務申告
経済産業大臣の確認書交付を受けた後に、損失準備金の計上をするためには、申告書別表の他、経営力向上申請書、同認定書、と報告の確認書(いずれも写し)を添付することが必要です。
損金先食いのための企業買収は筋が悪い
M&Aによる会社買収額の70%も損金算入が可能というのであれば、儲かっている会社なら、「節税のために会社を買収する」なんて言うこともあるかもしれませんが、ただの損金先食いで、5年経過後には税金払わなくちゃいけないですからね。
それでも、「とにかく今期の税金を払わなくて済むなら」と企業買収を検討する人もいるでしょうが、当たり前ですが、企業買収は企業成長のためにするもので、節税、それもただの繰り延べのためにするようなものじゃないです。
手続きも結構面倒で、コストも掛かりますからね。
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