テスラ Model Sに4年間乗って知った誰も言わない「自動運転」の現実
目次
「完全自動運転」の理想と現実
2016年10月にイーロン・マスクが「完全自動運転対応」と高らかに宣言をしたTeslaの新世代運転サポートシステム「オートパイロット2.0(AP2)」。
ハードについては、カメラの数は従来の8倍、CPUの能力は40倍を誇り、ソフトも旧世代「オートパイロット1.0(AP1)」からの延長ではなく、全く別システムとして開発されています。
旧モデルユーザーとしては、「それはないだろ」と感じる部分もある、まるでAppleのようなドライさ。
私は、この発表の前日にオーダーをしたので、すぐに新モデルへ変更をしたところ、「日本で最初にAP2搭載車が納車がされた」という報道の翌日に納車されました。
ですから、おそらく日本では数台目の納車のはずです。それから、4年間ほぼ毎日このクルマを運転してきています。つまり、TeslaModelS・AP2に最も長い間乗ってきた一人ではないかと。
そこで、今回は、実際にTeslaの「オートパイロット」は、どれくらいの進化をしたのか、現状どのようなことができるのかを、購入を検討中の中小企業オーナーのためにお伝えすることにいたします。
納車当時には、自動運転システムは未搭載|2016.12
AP2は、従来の運転サポートシステムAP1とは全く異なるもので、0からの開発であったこともあり、なんと納車時点は、全く何も搭載されていませんでした。
自動運転でもなんでもないただの電気自動車です。
運転サポートシステムAP2が導入されたのはそれから約1ヶ月半後の2017年2月のこと。
その時点での運転サポートシステムは、前の車を指定した制限速度内で追尾する「自動追尾」機能は、あるものの、道なりにハンドルを調整する「自動操舵」機能はありませんでした。
自動追尾の精度は、高速道路の下り坂から上り坂に切り替わる箇所では、前の道路を車と誤認識して急ブレーキを踏むレベル。後ろから車が来ていたら余裕で死んでいたでしょう。
それから約1月後の2017年3月に「自動操舵」が、2017年5月に「緊急ブレーキ」が搭載されました。
AP2登場から2年半でも自動運転には程遠い|2019.6
AP2登場からすでに2年半。イーロン・マスクの話のとおりなら当初発表されたこの動画のレベルにはなっていたはず。
Teslaのサイトを見ても、「テスラに乗り込んで行き先を伝えれば、後は何もする必要はありません。」という将来の夢が、一読しただけでは、まるで今でも実現するような書き方がされています。誰でもそう思うだろ、これ。
おかげで、世の中には、「Teslaなら、寝ていても勝手に目的地に連れて行ってくれる」と思っている人も多いのではないでしょうか。
だからこそ、「Teslaの自動運転中に寝ていたため事故で死亡した」という報道に「ほら、やっぱりTeslaの自動運転は信用ならない」という反応をするのではないかと。
いや、普通、運転中に寝たら、レクサスだってベンツだって死ぬでしょ。Teslaをアイアンマンの「ジャービス」みたいなもんだと思っているのでしょうか。
そういう誤解を解き、過大評価された故に購入後不満を持たれることをなくすためにも、今現時点で、Teslaのいう「自動運転」が実際にはどんなものなのかお伝えしていくことにします。
自動追尾
前の車との距離を把握し、指定した速度内で自動で加速をし、追突しないよう自動で減速する「自動追尾」。
前の車が信号等で止まったのち再度加速をしても、ちゃんとそれに合わせて自動で加減速はします。
これにより加減速は足でするものではなく、ハンドル横のレバーで最高速を調整するものになります。おかげで運転中、足はほぼアクセルペダルから開放されます。
ただし、現時点では、信号や一時停止は全く認識できません。(交通法規の問題のようで近い将来解禁も)
そのため、自動追尾の設定をしたまま、先頭で信号に入れば、赤でも突進します。一時停止も全くお構いなしなので楽勝で違反切符を切られるでしょう。
なお、たしか、高速道路では154キロまで、自動追尾するようです。私は、そんなスピードは出したことはないのでわかりませんが。
自動操舵
道なりに道路の状況を判断し、ハンドルを操作する「自動操舵」。レバーを”ダブルクリック”すると「自動追尾」+「自動操舵」モードとなります。
これは、一般道でも、高速道路でも作動します。
特に、高速道路では、自動追尾+自動操舵により、ほぼ足でアクセルとブレーキを踏む場面はなくなります。ハンドルに軽く手を添えるだけで、ソファに座っていたら勝手に走っている感じです。
おかげで疲れもなく、渋滞であってもさほどストレスもないです。
手を離してもきっと大丈夫なのでしょうが、およそ1分経過ごとに「ハンドルを握るよう」サインがでて、ハンドルを握ると解除されるというのを繰り返すようです。手を離さないのでわかりませんが。
なお、ウインカーを入れると自動で車線変更をする機能が最近になってやっと加わりましたが、反応が遅いので、自分でハンドルを切ることになるはずです。
一般道でも、自動操舵は機能しますが、制限速度を認識するとそれ以上のスピードは出ないようになっています。
自動で右折左折などできるはずもない。交差点の中でもグングン加速していきますし、車線の分岐もどっちに行くか判断できずオロオロします。
制限速度内でも、一般道で自動操舵を使うことに、私は結構勇気が要りますよ。なので、一般道は自動追尾だけを利用することが多いです。
ただ、一般道でも渋滞中には自動操舵はメチャクチャ効果を発揮します。ストレスが大幅に軽減されるのは間違いないです。
緊急ブレーキ
前に人や車を感知すると、自動でブレーキを踏む「緊急ブレーキ」。
悲しい事故が起きた報道を見るたびに、緊急ブレーキだけは早急に全車に設置義務化をしてほしいと思います。
ですが、Teslaの緊急ブレーキは「オートパイロット作動」時にしか作動しません。
なので、自動追尾を作動させているつもりで、勝手に停まるだろうと思っていると、自動追尾が機能しておらず危うく前の車にぶつかりそうになる。
どんなときでも緊急ブレーキは作動するようにしてほしいものです。
ちなみに、ブレーキは、ポルシェやフェラーリと同じ「ブレンボ」製を履いていて、メチャクチャ効きがいいです。
一方で、路上駐車の車の横をすり抜ける場合や道幅の狭い道路で対向車が通る場合、ほぼ間違いなく急ブレーキを踏みます。
後ろからクルマが来ていたら追突されかねないので、そのような場合は、すばやくブレーキを踏み、自動追尾を切りましょう。
カメラ・センサーの感度
新世代モデルAP2には、8個のカメラと12個のセンサーを装備されていますが、現時点で稼働しているカメラがいくつなのかはわからない。
それでも、旧世代モデルAP1がカメラは1個であったことを考えると周りの情報をキャッチする力は大幅に向上したかのようです。
ただ、実際には、ちょっと強めの雨が降り前が見えづらくなると「一時的にオートパイロットは機能しません」といって弾かれることが多いのです。
「おい、ここで活躍しなくて、どうするんだよ」と。
「人間でも認識できないような情報を素早くキャッチしAIが自動で危険を回避する」的な幻想は持たないほうが良いでしょう。
自動駐車・サモン
車に乗った状態で、駐車位置を確認すると、勝手にハンドル操作を繰り返し、自動で車を指定の場所に止めてくれる「自動駐車」機能もあります。
ただ、反応が遅いので、ホテルの駐車場ならば後ろのクルマに怒られる。狭いコインパーキングなど怖くて入れられたものじゃないです。なので、人に一度見せたら、後は、さっさと自分で駐車するようになります。
同様に、スマホで乗車していない車を移動させることのできる「サモン」という機能もありますが、通信範囲は狭く、反応が遅くてすぐ通信エラーにもなり、そんな苦労をして車をこちらに近づけるくらいなら、さっさと自分から車に向かっていったほうが早いです。
一度だけ便利だと思ったのは、あまりに車幅が大きく、コインパーキングにはギリギリ入る車なので、あとから隣に車を入れられ「狭くて乗り込めないな」と思っていたところ、車に乗らずにサモンで車を前に出せたことがあるくらい。
なお、スマホをキーの代りにすることもできますが、うっかりホテルの地下3階の駐車場に入れたところ、電波が届かず開かなくなって、家からキーを持ってきてもらったこともあるので、絶対にちゃんとキーは持ち歩きましょう。
結局Teslaは買いなのか?
とまあ、ネット上ではTeslaユーザーからの絶賛コメントばかりの中、Teslaファンが絶対に言わないような自動運転の現状をお話しましたが、買って後悔をしているのかというとそんなことは全く無いです。
実際、三人の方が私の紹介でTeslaを買っていますが、みんなご満悦のよう。一人など、高速道路上の事故で全損した直後にまた同じTeslaを購入したほどですから。
サポート体制は、同価格帯のレクサスやベンツユーザーなら大抵一度はブチ切れるほどお粗末ですし、まるでiPhoneのように突然画面が真っ暗になって、再起動しなければならないなど、不満と不安がないわけではありません。
それでも、内燃機関のエンジンならば数千万円から数億円もするスーパーカーでないと実現できないであろう、電気自動車ならではの気を失いそうになるくらいの加速感を一度体験すると、もうエンジンのクルマに戻る気にはならないです。
では、他人にもオススメできるのか?
判断基準は、シンプルに、「充電器を設置できる人はあり、設置できない人はなし」というものです。
充電器を自宅に設定できるのであれば、スマホ同様、毎日帰宅したら充電をすることで、面倒なガソリンスタンドでの給油すらなくなりメチャクチャ快適です。
一方で、いくら無料の充電スポットがあるにしても、日常的にわざわざ充電に行くのはとても面倒。
なにせ他の人がいれば待たなくてはならず、かといって自分の充電が終わった後もそのまま置いておくわけにもいかないので30分で戻ってくるという面倒なことを定期的に行わなくてはいけないのですから。
そんなことする時間は私にはないですね。
ちなみに、多少増えたとはいえまだ台数が少ないので、どこに行っても大抵「この間、あそこに、いましたよね!」と知人に指摘されますので、紳士的な振る舞いを心がけましょう。
ということで、Teslaの自動運転の現状を包み隠さずまとめてみました。
そういえば、またイーロン・マスクが「今までの7倍の性能の新しいハードに切り替えてAP3.0を開発した。完全自動運転のロボタクシーを2020年には稼働する。Teslaが金を稼ぐのに、他の車を選ぶなんてありえん」的なことを言ってましたね。
テスラ、完全自動運転のロボタクシー事業を2020年にも開始へ。Autopilot 3.0生産開始|engadget日本版
未来には期待したい「新しいもの好き」だからこんなクルマを買ったわけですが、そんな私でも、AP2が2年半経ってもまだこのレベルなのに、新たに開発され習熟していくAP3が、あと1年でそんなことができるようになるとは全く信じていませんでしたが。
ずいぶんお約束からは遅れているし、最近ちっともバージョンアップしてないじゃん。
それでも、誰も文句を言わない。トヨタの社長が同じことをしたら袋叩きのはずなのに。
イーロン・マスクのカリスマ性がそうさせるのか、「自動化」というキーワードが「節税」と同じくらい人を魅了するのか。
どちらのキーワードも、そのほとんどが、過大評価やありもしない幻想だったりするのですが。
オートパイロット(AP2)は、トータルでこれまでに8回のバージョンアップがなされた結果、各種の機能が追加された上、「自動追尾」も「自動操舵」も当初は、人間でいえば初心者レベルで危なっかしかったものが、今では、熟練者が運転するかのようなスムーズな動きをするようになってきています。
たまに、「絶対にこれはぶつかるだろ」と思って自分でブレーキを踏むことはありますけどね。それに、突然ハンドルを”持っていかれる”こともある。
つまり、現時点でTeslaのいう「オートパイロット」とは「自動運転」でもなんでもないです。運転手の負担を軽減し、運転手がきちんと運転していればその安全性を高める「運転サポート機能」なのです。
「AIが勝手に運転してくれるので人間が運転するよりも安全」という間違った安心感は、安全装置のはずが、かえって危険を助長するのではないかと。
経理処理でも、やれ「AI」だの「RPA」だので「経理処理を自動化」などと夢のようなことを言う人がいるため、まるで寝ていたら朝には決算書ができているかのように思っている人もいるようですが、そういう人の作った会計ファイルは、直すのに0から入力することの3倍手間のかかる”ゴミ”になるようなもんですかね。
* *
実は、この記事は1年半前に書いた記事です。
つまり、1年半経ってみても、Teslaの自動運転技術で進化を体感できる部分は、ほぼないです。(日本の規制による部分も大きいですが)
そういえば、経理処理をAIだのRPAで完全自動化するとかいうのはどうなったんでしょう。
あまり聞かなくなりましたね。
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