【基礎】減価償却と支出時全額損金算入の境界線

固定資産は本来減価償却で損金算入

売上を獲得するために犠牲となった費用については、支出時に全額損金に算入されることになります。

しかし、その支出の効果が長期間に渡り継続するものを支出時に一括して費用にすると収益と費用の対応のバランスが悪くなる。

そのため、その支出の効果が一年を超えて生じるものについては、一旦固定資産(または繰延資産)に計上した上で、その支出の効果が及ぶと思われる事業年度に渡って時の経過に応じて費用化することになっています。

このようなその支出の効果が一年を超え時の経過に応じて減耗していく資産を「減価償却資産」(または繰延資産)といい、このそれぞれの事業年度への費用の按分手続きを「減価償却」というのです。

なお、本来であれば、減価償却により費用化すべきところを「まあ細かいのは良いわ」という考え方から、一定の要件に該当するものは、支出時に一括して損金算入できたり、通常の減価償却よりも早期に費用化をする方法が認められています。

そこで、今回は、減価償却すべきか支出時一括損金算入できるのかの境界線についてまとめてみようと思います。

耐用年数が1年未満

減価償却資産は、その支出の効果(使用可能期間)が1年以上のものについて、その支出の効果が及ぶ期間に費用を按分するのです。

そうなると、支出の効果が通常は1年未満であると判断されるものは、減価償却という費用按分をする必要がないことになります。

具体的には、タイヤは、通常はその使用可能期間は1年未満と見積もられるので減価償却の対象とならず、支出時に一括して損金に算入がされます。

テレビ放映用のコマーシャルフィルムについても、通常、減価償却資産として資産計上し、法定耐用年数2年で減価償却しますが、テレビ放映の期間が1年未満のものは、「使用可能期間が1年未満のもの」に該当するため、支出に一括して損金算入が可能になるのです。

なお、これらは、あくまでも耐用年数が1年未満であることで、そもそも減価償却の対象にならないのですから、金額の大小は問いません。

言い方を変えれば、たとえどれだけ支出額が大きくても、その支出の効果が1年未満であることを合理的に説明できるものであれば、支出時に一括して損金算入が可能になるのです。

取得価額が10万円未満

その支出の効果が及ぶ期間(使用可能期間)が1年以上のものであっても、「少額不追求」の考え方から、1つあたりの取得価額が10万円未満のものについては、あえて減価償却をする必要はなく、支出時に一括して損金に算入することが可能です。

この「一つあたり」の判定は、通常1単位として取引されるその単位ごとに判定がされます。

例えば、応接セットであれば、通常、テーブルと椅子が1組で取引されるものです。

ですからそれらが1組で10万円未満になるかどうかを判定します。

また、カーテンの場合は、1枚で機能するものではなく、一つの部屋で数枚が組み合わされて機能するものですから、部屋ごとにその合計額が10万円未満になるかどうかを判定します。

単体で機能するものであっても、実際の使用状況が全体として機能している場合には、それら全体で判断がされます。

例えば、キューブ型のメタルラックを組み合わせて棚を構築している場合に「メタルラック一つ一つでも機能を発揮するはずだ」と支出時全額損金算入の妥当性を主張しましたが、「いや、実際に組み上げて大きな棚として使ってるでしょ」と否認されたことがあるので注意しましょう。

少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示|タックスアンサー

少額減価償却資産

取得価額が10万円以上であっても、中小企業者については、取得価額が30万円未満の減価償却資産は、支出時に全額損金算入が可能です。

ただし、その取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額が限度となります。

このルールは、減価償却資産について適用がありますので、器具及び備品、機械・装置等の有形減価償却資産のほか、ソフトウェア、特許権、商標権等の無形減価償却資産も対象となり、また、所有権移転外リース取引に係る賃借人が取得したとされる資産や、中古資産であっても対象となります。

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|タックスアンサー

一括償却資産

取得価額が10万円以上であっても、中小企業者については、取得価額が20万円未満の減価償却資産は、本来の法定耐用年数に関わらず、36ヶ月で均等償却をすることが可能です。

一般的には、30万円未満まで支出時に全額損金算入が可能な「少額減価償却資産」のほうが有利であり、少額減価償却資産の特例が選択されますが、すでにその特例を使い切ってしまった場合には、この「一括償却資産」の特例を活用することも検討します。

美術品

書画骨董などの美術品については、時の経過に応じてその価値が減耗していくという考えには馴染みません。

そのため、以前は、美術品については、原則として減価償却ができない「非減価償却資産」とされ、例外的に取得価額が1点20万円(絵画にあっては号当たり2万円)未満のものは、支出時に全額損金算入してもよいとされていました。

しかし、平成27年1月1日以降取得分については、取得価額が1点100万円未満である美術品等は原則として減価償却資産に該当し、取得価額が1点100万円以上の美術品等は原則として非減価償却資産に該当するものとなりました。

美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ|タックスアンサー

この他にも「修繕費」になるのか、資産に計上された上で減価償却の対象となる「資本的支出」になるのか、判断に悩むものもあります。

いっそのこと、「一定期間なんでも支出時に全額損金算入可能」にしてしまえば、儲かっている会社はジャンジャン設備投資をして一気に景気回復しそうなんですが。どうせ後でその分税金は増えて回収できるんだし。

消費税の減税をしたり、Gotoキャンペーンよりも、ずっと景気浮揚策としては良さそうですよね。

修繕費と資本的支出を分けるフローチャート

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