社長の自宅は会社で買うのと個人で買うのとではどっちが得なのか?

持ち家が得か賃貸が得かは売却価額次第だが

「持ち家が得か賃貸が得か」という結論の出ない論争がよくされますが、これは、どちらが得と断言するほうがおかしいのです。

なぜなら「持ち家とは自分が店子の不動産投資」なので、買わずに賃借をしたときとどっちが得なのかは、その持ち家の売却価額次第ですから。

買って貸す人と買わずに借りる人がいるのに、どちらかが得と言い切れるのは、相手が損を承知でその家賃で貸し借りを行うということであり、市場にそんな人はいませんよ。

では、持ち家として買うとすれば、オーナー社長は個人で購入するのと会社で購入するのではどちらが得なのか。今回は両者の損得を考えてみようと思います。

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法人で自宅を取得するほうが良いところ

借上社宅家賃の適用が可能

個人で自宅を取得した場合、取得に要した費用も維持管理するための費用もなんら所得から控除する余地はありません。

一方で、法人で社長の社宅として取得をすれば、建物の取得費については減価償却を通じて損金に、維持管理のための固定資産税や修繕費、取得に要した借入の支払利息についても支出時に会社の損金となるのです。

ただし、社長がタダでその社宅に済むことは認められません。

所得税基本通達で定められた社宅家賃の「賃貸料相当額」を徴収することで、相場よりも安く住宅に住むことができるという経済的利益に課税はされないことになります。

その「賃貸料相当額」の金額は、その床面積に応じて、次のように「小規模住宅」「小規模住宅以外」に区分されそれぞれ計算がされます。

(1)小規模住宅

次の(イ)から(ハ)の合計額が賃貸料相当額になります。

(イ) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%

(ロ) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))

(ハ) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

(2)小規模住宅以外

次の(イ)と(ロ)の合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。

(イ) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。

(ロ) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%

小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下の建物の場合には床面積が132平方メートル以下である住宅、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99平方メートル以下(区分所有の建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)である住宅をいいます。

役員に社宅などを貸したとき|タックスアンサー

上記の計算で借上社宅家賃として徴収すべき金額は、小規模住宅であれば相場の1-2割なので、同じ住宅を社長が賃貸するよりもその差額だけ得をすることになります。

(小規模住宅以外では物件によってはかなり賃貸料相当額が高額になり節税効果が大きく減少することもあります)

土地の固定資産税評価額は時価の目安となる公示価格の7割、建物の固定資産税評価額は新築で建築費の5割以下です。

自宅を個人で取得することとの比較としては、かなりザックリですが、法人で損金算入できる金額の小規模住宅で相場の1-2割であれば相殺されるので、建物取得や維持管理のために生じる金額の小規模住宅の9-8割程度の損金算入が可能であり、その分だけ節税効果が生じることになります。

個人では、全く必要経費算入の余地が無いのに、法人であればこれだけの損金算入の余地があるというのは大きなメリットです。

なお、社長個人で取得した持ち家を会社に賃貸し、社長の社宅とする場合、この「借上社宅家賃の特典」は使うことができません。

つまり、借上社宅家賃の特典を使いたければ、自宅は会社名義で取得するしかないということです。

建物取得についての消費税額控除が可能

建物を取得する際には、消費税額が上乗せして取引がされていますが、個人で自宅を取得したとしても、その支払った消費税額を控除する余地はありません。

一方、法人で建物を取得をした場合、その建物の取得は課税取引となり、その支出した消費税額は自社の消費税納税額の計算上控除の余地があるのです。

なお、消費税納税額の計算上控除できる消費税額は、支払った消費税の全額ではなく、そのうち課税売上を獲得するために支出したもののみとなります。

社長の社宅の場合、その受取賃料について消費税は非課税であり、本来、その非課税の売上を獲得するための支出である建物の消費税額は控除できません。

ですが、「一括比例配分方式」という計算方式を選択すると、課税仕入に伴い支出した消費税額に全体の売上に占める課税売上の割合である「課税売上割合」を掛けた金額を「控除対象消費税額」とすることができます。

消費税の控除方式の選択で税額に大きな差が!個別対応方式と一括比例配分方式

一般的な事業であれば、そのほとんどが消費税の対象である「課税売上」であるため、少額の受取家賃が生じたとしても全体の課税売上割合はほぼ100%となり、社宅であってもその建物の取得に伴い支出した消費税額も全額の控除が可能なケースが多いのです。

<追記2020.1.21>

2020年10月以降に取得した1,000万円以上の居住用建物については、(3年以内に事業用に転用ないし譲渡をした時を除く)、一括比例配分方式でも消費税の仕入税額控除はできません。

役員報酬を引き下げた会社の内部留保の使いみちとして

法人税率は引き下げられる一方、個人の所得税率は上がり、社会保険料の負担も年々増加していく中では、役員報酬の額を抑えて法人でお金を残すほうが税負担が軽減されるケースが多いもの。

ですが、その法人に残したお金については、会社のためには何ら制約もなく使えるものの、融資を受けている場合、個人で引き出したお金は「役員に対する貸付金」となり金融機関が嫌うため、個人で自由に使うのに制約を受けることがあります。

「じゃあ、この法人に残したお金はどう個人で使うのよ」という時に、この社宅取得は、実質的に個人で経済的な利益を受けながら会社のお金を合理的に使う用途としても良いということになるでしょう。

損をしたときには、会社の事業の利益と通算

法人が取得する自宅を売却した場合、その損益は、会社の事業の利益と通算され課税所得が計算されます。

建物については、減価償却がされた分だけ取得費が下がるため、仮に買ったときと同じ金額で売却できたとしてもその減価償却された分だけ譲渡益が生じ、法人の事業の利益に上乗せがされてしまいます。

その点からすると、減価償却費が損金になると言っても、単に税金の支払が後回しになっただけです。

しかし、個人で自宅を取得したとしても、その減価償却費分については、なんら必要経費に算入される余地はないのに、売却した場合には、その「減価償却相当額」を取得費から控除して譲渡損益を計算することになります。

この時の減価償却相当額を「減価の額」といい、事業に供用されていた資産の法定耐用年数に1.5倍した年数で計算をするため、法人の減価償却費よりは若干少なくて済みますが、それでも個人で取得した自宅を売却する場合、減価償却費が全く必要経費に算入されていないのに、売るときにその減価の額が譲渡益に加算されるのはなんとも不条理です。

ですから、個人で自宅を取得する場合との比較で考えると、明らかに法人の方が有利だといえます。

なお、万一自宅を売却して赤字が生じたときには、自宅を手放して損をしたけどまだローンが残っている場合など一定の要件を満たす場合、個人であってもその損失の一部または全部を他の給与所得等と通算することが可能となりますが、法人であれば、自宅の譲渡損失はなんら制約もなく法人の事業の利益と通算できるのです。

マイホーム譲渡損益の特例と住宅ローン控除は重複適用できるのか

個人で取得する方が良いところ

住宅ローン控除が適用できる

個人が自宅を取得した場合、一定の要件を満たすときにおいて、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除することができます。

これを「住宅ローン控除」といいますが、ザックリいうと合計所得金額が3,000万円以下の人ならば、最大で50万円まで借入金の年末残高の1%の所得税(+住民税)の控除が10年間可能ということです。

住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)|タックスアンサー

儲かったときには3000万円の特別控除、軽減税率も

個人で取得した譲渡し利益が生じていた場合、一定の要件に該当すれば、その譲渡所得から「3,000万円の特別控除」をすることができます。

マイホームを売ったときの特例|タックスアンサー

また、所有期間が10年超の自宅を譲渡した場合の利益については、この「3,000万円特別控除」をした残額が6,000万円までの部分に、通常よりも約6%低い軽減税率が適用されます。

マイホームを売ったときの軽減税率の特例|タックスアンサー

これらの取扱いは、個人のみで法人にはないため、自宅の譲渡益が生じた場合には、個人で取得するほうが有利だといえます。

長期固定金利の利用も

法人で自宅を取得する場合の借入については、設備資金やアパートローンとなります。

一般的には、個人の住宅ローンの方が、返済期間が長かったり、一定期間の金利の優遇がされていることが多いもの。

固定金利が必ずしも得とは限りませんが、「フラット35」のような35年間固定金利という法人ではまず引き出せないような条件の融資の利用も可能であり、資金調達面では個人の方が選択肢が多いといえます。

長期固定金利住宅ローン(フラット35)

税金や資金調達を総合的に勘案

まとめると、一般的には、税制面では法人で取得するほうが有利、資金調達面では個人で取得する方が有利だといえます。

あとは、取得する物件の金額や個人と法人の課税所得の状況に照らして節税効果を実際に算出し、資金調達については個人で調達する場合と法人で調達する場合の比較をした上で、自身のライフスタイルなども考慮し、総合的に勘案してみてください。

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