マイホーム譲渡損益の特例と住宅ローン控除は重複適用できるのか

不動産の譲渡損失は原則通算不可

不動産の譲渡による所得は、給与所得など他の所得とは合算されることなく分離して課税がされます。

そのため、不動産の譲渡による損失も、他の所得との合算(損益通算)をすることができず、同じ年に生じた不動産の譲渡の利益がない限り、その損失はないものとされてしまいます。

ただし、「一定の」マイホームの譲渡損については、他の所得と損益通算をしたり、それでも控除しきれない部分については、翌年以降3年間に渡って他の所得と通算(繰越控除)も可能です。

では、「マイホームの譲渡損の特例」を用いた後に「住宅ローン控除」も適用することはできるのでしょうか?

今回は、この「マイホームの譲渡損益の特例」と「住宅ローン控除」の関係について整理をしてみることにします。

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マイホームの譲渡益の特例

マイホーム譲渡の3000万円特別控除

マイホームを譲渡し譲渡益が生じた場合で、一定の要件に該当する場合、その譲渡益から3000万円を控除できることになっています。これは一般的に「マイホーム譲渡の3000万円特別控除」と言われています。

マイホームを売ったときの特例(タックスアンサー)

長期所有マイホームの軽減税率

所有期間が10年超のマイホームを譲渡した場合、所有期間5年超の不動産を譲渡した際に通常適用される長期譲渡所得の税率(20.315%)ではなく、課税所得6000万円までの部分については「軽減税率」(14.21%)が適用されます。

マイホームを売ったときの軽減税率の特例(タックスアンサー

また、マイホームを買い換えた場合には、売却代金を新たなマイホームの取得に充てた部分に相当する金額は、譲渡がなかったものとみなして不動産の譲渡所得を計算できる「マイホームの買い換え特例」があります。

特定のマイホームを買い換えたときの特例(タックスアンサー)

3000万円控除、軽減税率、買い換え特例の重複関係

「マイホームの3000万円特別控除」と「軽減税率」は重複して適用することが可能です。

ですから、二つとも要件を満たしている場合、まず譲渡益から3000万円を控除した残りの金額について軽減税率を適用することができるのです。

一方「マイホームの買い換え特例」は「マイホームの3000万円特別控除」や「軽減税率」と重複して適用することができません。

ですから、マイホームを譲渡し利益が上がった場合には、「マイホームの買い換え特例」VS「マイホームの3000万円特別控除+軽減税率」のどちらが得なのかを自分で判断しなくてはなりません。

なお、「マイホームの買い換え特例」は、今回のマイホームの譲渡益についての税金を新たに購入したマイホームを将来売った時に一緒に払ってもらうというものであり、決して譲渡益が非課税になるものではありません。

ですから、まずは「マイホームの3000万円控除+軽減税率」の適用を検討し、これではどうしても税負担が大きく、新しいマイホームの取得に支障があるというときに「マイホームの買い換え特例」の適用を検討するほうが良いでしょう。

マイホームの譲渡損の特例

マイホームを手放したのに住宅ローンが残った場合

バブル期に住宅ローンでマイホームを購入したものの、その後の経済環境の変化により、返済を続けていくことが難しくなり、泣く泣くマイホームを手放してしまうということもあるでしょう。

その際には、購入時より不動産価格は大きく下落しており、売却をしても不動産の譲渡損が生じる上に、売却代金で住宅ローンの返済をしたのにまだ住宅ローンが残ってしまうということも多いはず。

そんな時に、その不動産の譲渡損が切り捨てられてしまうというのは、あまりに酷です。

そこで、一定のマイホームを譲渡し、その売却代金を充ててもまだ住宅ローンが残ってしまう場合には、そのマイホームの譲渡損について、他の所得との損益通算や繰越控除が認められています。

ただし、損益通算ができるのは、不動産の譲渡損失のうち住宅ローンの残高から売却価額を差し引いた残りの金額までとなっています。

なお、この特例については、新たにマイホームを取得することは要件となっていません。つまり、マイホームを手放したあと、賃貸住宅に住むことになってもこの特例を利用することは可能なのです。

住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)(タックスアンサー)

マイホームを住宅ローンで買い換えた場合

マイホームを譲渡し譲渡損失が生じた上で、新たにマイホームを購入するということもあるでしょう。

その時に、新しいマイホームを住宅ローンで取得をするとなると、その返済で大変なのに、マイホームの譲渡損が切り捨てられてしまうというのも酷です。

そこで、マイホームの譲渡損が生じた上に、住宅ローンでマイホームを新たに取得した場合には、そのマイホームの譲渡損については、他の所得と損益通算をしたり繰越控除をすることが可能になります。

なお、この特例は、売却したマイホームについて住宅ローンが残っていることは要件となっていません。

マイホームを買換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)

譲渡損益と住宅ローンとの併用

住宅ローン控除とは

この住宅ローン控除とは、一定のマイホームを購入した場合、毎年10年間それぞれ住宅ローンの年末残高に一定割合(2020年現在は1%)を掛けた金額を上限として、所得税と住民税が控除される制度であり、最大500万円にもなる大きな優遇措置です。

住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)

マイホームの譲渡益の特例と住宅ローン控除

これらの「マイホームの譲渡益についての特例」を居住の用に供した年とその前後の2年ずつの5年間に受けている場合、新たにマイホームを住宅ローンで取得していたとしても、いわゆる「住宅ローン控除」の適用はできません。

マイホームの譲渡損失の特例と住宅ローン控除

マイホームを売って譲渡損が生じている場合の税制上の優遇措置を利用している場合、住宅ローン控除は適用できるのでしょうか?

結論から言えば、「マイホームの譲渡損失についての特例」を受けていても住宅ローン控除との併用はできます。

では、両者が重複した場合、どちらを先に利用すべきでしょう?

この場合には、マイホームの譲渡損についての特例を先に適用し、その後住宅ローン控除を適用することになります。

例えば、不動産を譲渡して1000万円の譲渡損が生じた上で、新たにマイホームを住宅ローンで購入しその年末残高が2000万円であれば、まずは、譲渡損失1000万円を他の所得と通算した上で所得税、住民税を算出し、そこから所得税、次に住民税に住宅ローン控除を適用することになるのです。

「マイホームの譲渡損益の特例」と「住宅ローン控除」の関係をまとめると、

マイホームを売って儲かった→税制上の特例措置(ごほうび)

=住宅ローン控除(ごほうび)との重複適用不可

マイホームを売って損をした→税制上の特例措置(救済)

=住宅ローン控除(ごほうび)との重複適用可

ということ。国もよく考えているようですね。

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