【監修】失敗しない個人事業の始め方〜もし、26歳、独立当初の自分にアドバイスをするなら

2015-05-13 15.51.21

起業直後の自分に言ってやりたいことがある

ナツメ社さんから発売となった「失敗しない個人事業の始め方」という本の監修をさせて頂きました。

生存率の低い起業して1年目をどう乗り切っているのかということが中心に書かれた本になっています。

このような本の監修というと、法律関係のチェックということかと思いましたが、起業一年目ってこういうことなんじゃないかなという私なりの考えもかなり反映して頂きました。

そこで、今回は、この本をかきながら考えた、

「もし、21年前の独立当初の自分にアドバイスをするなら」

という話をまとめてみました。

ああ、あくまでも26歳で税理士として独立する自分に言っていることなので、これから起業するすべての人に当てはまるような話じゃありません。

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21年前に起業した時はこんなかんじでした

私は、某大手会計事務所勤務税理士時代、特殊な金融商品を活用することによる節税や事業承継のコンサルに従事をしていました。

税理士のほかに、中小企業診断士、宅地建物取引主任者、システムアドミニストレータなどの資格も取得し、その後、26歳の時に独立をしたのですが、それは、当時の所属税理士会の史上最年少記録だったのです。

こういう話だけを聞くとなんとも強気で華々しいデビューのようではあります。

しかし、現実は、勝手に自分の実力を過信して、勢いだけで勤務していた会計事務所をやめてしまい、別の事務所に就職をしようと思っていたところ、保有していた資格が多かったことやなまじっか営業成績が良かったことがかえって災いし、「あんたみたいな人がお客を持って辞めていくので一番怖い」と言われて次々と就職活動に失敗し、しかたがないので独立をしたという「強制独立」であったのです。

とても本やセミナーを通じて「起業するならきちんと計画を立てて準備をせよ」などと言えるような身分ではありません。

さて、私が、独立して最初にしたことは、事務所の確保です。

駅前のワンルームの物件を借り、パソコンや応接セットなどをひと通り揃える。

どこにも所属することができなくなった私には、なんだか自分の居場所ができたようで、とても嬉しいものでした。

ただ、事務所を構えたところで、顧客など現れるはずもありません。

朝、事務所に出勤して、掃除をし、税務通信など読んでみても11:00くらいにはやることがなくなります。

そこで「混んでくる前に早めにランチに行こう」と事務所を後にするもののランチを終えて事務所に戻っても何もやることがないことに気が付きます。

そのため、帰り道のゲームセンターに入店。

当時流行っていた格闘ゲーム「バーチャファイター」をプレイするのですが、これは、対戦相手が乱入をしてきて、勝つとまたプレイが続いちゃうんですね。

こっちは、毎日のようにこのゲームのプレイをしているわけなので、ドンドン強くなってるわけですよ。

その結果、スーツを着たオッサンが、学校をサボってきた中学生などを次々になぎ倒しいつまでも終わらないという状態に。

気がつけば、税理士になるはずが、無敵のゲームセンターの王者になっていたわけです。

実家暮らしで餓死することはないものの、貯金はみるみる減っていき、その減りゆく預金残高を見ながら「いつまでこの起業ごっこが続けられるんだろう」と当時は思っていたものです。

鎧を脱いで素直に支援を仰ごう

私のように大手の組織から独立をすると、自分の実力など大したことではなくその組織の看板で仕事をさせてもらっていたことに気が付き強い衝撃を受けます。

「そんなことはわかっている」と思うかもしれませんが、実際は、自分が思っていたことよりも数段大きなギャップのはずです。

また、組織に所属していた時の仕事のスケールと独立してからの仕事のスケールの違いに苦悩をすることもあるでしょう。

そのため、勤務し続けている元同僚などと比較をすればするほどコンプレックスを感じ、誰も何も言っていないのに「自分の決断は正しかった」という理論武装をしたくなります。

その一つが、私の場合、事務所を構えたことでもありますし、なぜかそれほど必要もない法人の設立をしたことでもあるわけです。

そして、口癖は「忙しい」というものになる。これもコンプレックスの裏返しなんだろうと思います。

現実には、今よりもはるかに少ない仕事量なのに、ただ単にテンパッて「すぐにやらなくては」と慌てているだけで、暇な時間の方が多かったんですよね。

「忙しい」などと口にするのは「自分のキャパシティはこんなに小さいですよ」とわざわざ大声で宣伝するような行為だと気がつくのは、ずっと後のことでした。

ですから、まず、当時の自分に言ってやりたいのは

起業一年生は、素直に「自分は何もできない」「他人に応援してもらわないとやっていけない」ということを認識したほうがよいということ。

実際、法人を設立するのに資本金を親から一時借りながら「オヤジの会社と取引のある銀行には頼みたくない」などと訳のわからないことをいう中2病丸出しで保管証明(当時は最低資本金300万円が必要でした)をもらいにいったところ、お金を借りたいのではなく預けたいといったのに断られただろ。

それで、ソッコーで親に頭を下げて取引銀行を紹介してもらっただろう。

「コネに頼った立ち上げなど甘い」などと言ってたが、現実には「コネに頼った立ち上げなど甘いということ自体が甘い」ということに気がつかないとね。

ただでさえ生存率の低い一年目を乗り切るには、使えるものは何でも使うという貪欲さとそして素直さが大切なんです。

例えば、人のアドバイスは、予断を挟まず実行してその結果を必ず報告をする。

そんな人は、次からも有用なアドバイスをしてもらえるので、スパイラル状に成果を上げていくことになる。

一方で、素直に受け入れられず「自分ならこうする」などと無駄なオリジナリティを発揮しようとする人は、まず次の打席は回って来ないので両者の差は加速度的に広がっていくことになるのです。

なので、当時の自分に言ってやりたいのは、なんか一生懸命自分はこんなに知っているとかアピールしてたけどさ、

「お前の意見や知識なんか誰も聞きたくないんだよ。素直に『はい。ありがとうございます!』と言っておけ」

ということかな。

実際に、勤務税理士時代は、「上司も先輩も実力と成果でねじ伏せれば誰も文句は言わないはず」というスタイルで仕事してきましたが、独立起業後はそんなものではこの厚い壁を突破できない事に気が付き、「いかに年上の人に応援してもらえるのか」を一番に考えるようにしました。

まずは、鎧を脱いで、肩肘をはらず、素直に教えを請い、他人に応援をしてもらうための下地作りをすることが、組織人から独立起業者へ変わる第一歩だと思います。

ただ、本当に何もできない人に仕事を頼んでくれる人は少ないので、打診された仕事はやったことがなくても「もちろん、得意です!」と言って脇汗びっしょりかきながらも受託してから、一生懸命勉強して本当に得意になるくらいの神経の図太さも必要なんですけどね。

起業して1年目は”幼虫”のようなものだと考える

開業当初は、あらゆる資源が足りません。

人材も足りませんし、自分自身のスキルも低いまま。

口コミでお客様を集めようにも、その紹介をしてくれる人すらいません。

でも、それは、起業して1年間という期間と必ずしも一致するものではありません。

では、いったい何が違うのか?

一つの大きな違いは、資金調達の余地だと言えます。

起業直後の無担保無保証人での融資というのは、飲食業や美容業以外であると、かなりハードルが高いと言えます。

一方で、開業して1年を経過すると、無担保無保証人であっても融資の道が一気にひらけるのです。

つまり、起業して1年間は、資金がボトルネックとなることが多いわけです。

そのためには、まずは起業して1年間は、できるだけ資金の負担の少ないビジネスモデルを選択するしかありません。

製造業のような開業時に多額の設備投資が必要な場合であっても、まずは、自前の工場を持たずに企画営業だけをして生産を外部委託する「ファブレス経営」からスタートし、1年経過後に資金調達をして自前の工場を持つという方もいるのです。

資金がボトルネックとなっているのであれば、小資本で極力資金回収が早いビジネスモデルを選択せざるを得ません。

場合によっては、本来やりたいビジネスモデルとは違ったものをひとまず選択をしなくてはならないこともあるでしょう。

中には「自分がやりたい仕事はこんなことじゃない」悩む人もいるかもしれません。

ただ、きれいなアゲハチョウであっても、その手前の段階は似ても似つかないイモムシなわけです。

「今は本来の自分ではない」と思うことがあってもいずれアゲハチョウになるための準備期間のようなものだと思うしかないでしょう。

どうせイモムシなんだから、格好をつけても仕方がありません。

泥臭くともやれることはすべてやる。

根性論は大嫌いな私ではありますが、さすがにもう一回ゼロから始めるならやっぱりがむしゃらにやると思います。

21年前みたいに全く最初は相手にされなくても、銀行や商工会議所や町の有力者のところには何度も何度も通うし今なら、うっとおしい「煽り広告」を打つこともいとわないかも。

とにかくお客様を集めないと何もできないビジネスなんだから。

まあ、ああいうのは”着火剤”みたいなものなので、いつまでもやり続けるのはどうかと思いますが。

確かに、自分の得意分野をアピールすることは顧客を誘引するためには有効なので是非やるべきです。

そもそも、「自分が何者で、何ができるのか」を一言で言えないようであれば、誰も仕事を紹介しようがありません。

ただ、そのために

「あれはやらない」「これは自分の仕事ではない」という絞り込みは、起業直後にはまだ早い。

実際、税理士業界では、「相続専門」を謳っている会計事務所はたくさんあるものの、本当に相続税の申告しかしていない会計事務所など数えるほどしかないはずです。

自分が強みだと思っていたこととは、全く違う点がお客様から評価をされていたということも実際に仕事を受けることで気がつくことがあります。

この辺りが自分の限界だろうと思っていたものが、やっていくうちにその壁を突破することができることもあります。

それなのに、いきなり仕事の間口を狭めてしまうとチャンスそのものを逃しまうのです。

私も最初に自分の事業コンセプトを定める際には、「大手会計事務所の対応に不満を持っている中小企業」に「専任担当制のコンシェルジュ」として対応するという理念は構築しましたが仕事の間口を狭めるようなことはしませんでした。

 

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ああ、そういえば経理代行はやらないって言っていくつか顧問契約を断ってましたね。

後々お客様の要望で今の経理代行サービスを始めたんだ。

ということは、最初から経理代行サービスをやっておいた方がもっと立ち上がりは早かったでしょう。

まずは、経理代行ニーズのある顧客も確保して、自分がやれなくなったら今みたいに経理代行会社にやってもらう仕組みを作ればよかったかもしれません。

それだけ、いきなり開業当初から、顧客ニーズをきちんと読み取るというのは難しいということなんです。

少なくとも、

いきなり断るんじゃなくて、まずは受けてみて、自分がやるべきではないと思ったらその仕事を依頼できる人を探すという姿勢が必要かと。

今は、専門性を打ち出しうまくいっている人だって当初はいろいろ試行錯誤を繰り返した上で今のスタイルを構築したはず。

中には、当てたのが当初考えていたのとは全く違うビジネスモデルなのに「最初からそのつもりで絞り込んできた」なんていう人もいたりして。

仮に仕事や顧客層を絞り込んだこと自体が成功のポイントだったとしても、絞り込むターゲットを正しく選定するにはそれなりの紆余曲折が欠かせないのではないかと。

なので、いきなり専門特化だけを真似てもうまくいくとは限らないのです。

むしろ、事業が軌道に乗るまでの時間が余計に掛かるか、下手をするとそのまま息絶えてしまうこともあるでしょう。

自分で勝手に間口を狭めていながら、そのために成長スピードが上がらず、うまく言っている人のやり方を批判したり、失敗すればいいのにと願ったりしたってなんの解決にもならないんですよ。

自分の強みを活かしたビジネスモデルを見つけるには試行錯誤が必要で、いきなり百発百通で当てることのほうが難しい。

私だって勤務税理士時代は、ほとんど資産税の仕事しかしていなかったので、独立当初はそれを強みにしようと思っていましたが、今の仕事のメインは法人の税務顧問ですから。

一日でも早く事業を軌道に乗せ、本当にやりたい仕事を手がけられるようになるには、受託する仕事が増えるに連れて、徐々に仕事や顧客層を絞り込んでいく方がよいと私は自らの経験から感じているんです。

もちろん、決して安売りをしてなんでも仕事を取れと言っているのではありませんよ。

安く仕事を依頼した人は、ずっと安いからという理由で仕事を委託し、他の人を紹介をしてくれるのも安いからという理由であることが多いのです。

自らの時間を消費するには割にあわない、決してその消費が将来の投資に変わることはないという仕事であれば受託する必要などありません。

まずは、間口を広げていろいろな種類の仕事を引き受ける。

自分は「この仕事の専門家だ」という絞り込みは、こちらで選択できるほどのオファーが来るようになってからでも遅くはないのです。

ムダのない筋肉質の体を作るのにも、まずはあえて体重を増やしてから絞り込んでいくんですから。

だから、

最初に目指すべきなのは、お客様からなんでも相談を受ける「個人秘書」のポジションを抑えていくこと。

その上で、お客様が抱えている潜在的なニーズを掘り起こし、その問題解決に最適な専門家を紹介する。

一方で、専門家にはお客様の特殊事情や優先順位などを伝えるいわば「通訳」となればいいんです。

そうすれば、相手が弁護士だってコンサルタントだってどんな専門家であっても、こっちがお客様の立場に立って依頼する側に立てるんですから。

どんな時代になっても生き残れる士業ってきっとそういう人だと思います。

時代は変わったかもしれないが、やるべきことは変わってない

26歳で勢い余って独立する時の、先輩たちのアドバイスはみんな「3年前だったらまだ何とかなっただろうけど、今から独立してももう無理」というものでした。

21年前でもそんなことを言われていたのですから、もし周りで「今からやっても遅い」なんていう人がいたとしても、それは古代エジプトの壁画に書いてある「最近の若い者はなってない」という類のものだと思ったほうがいい。

その頃から税理士を取り巻く環境は変わったところもあるけど、顧客を獲得し事業を軌道に乗せるためにためにやるべきことなんてそんなに変わっていないと思います。

なので、私が26歳独立当初の自分にアドバイスをするなら、きっと

・使えるものはなんでも使え。格好をつけるな

・実力を見せつけるより、素直になって年上に可愛がられることを考えよ

・間口を狭めず、とにかくお客様に最も近いポジションを確保せよ

って、いうだろうな。

紆余曲折しながらも、そのおかげで、事務所設立初年度から、年収は勤務税理士時代の数倍になるという、比較的早い事業の立ち上がりとなったんだから。

え?21年前の独立当初に戻りたいかって?

いや、今のほうができることがイッパイあってずっと楽しいから今のままでいいですわ〜。

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