短期前払費用の落とし穴|なんでも年払いにすれば支出時の損金になるわけではない

費用と収益を対応させるのが原則だが

例えば、3月決算の会社が、1月に年払いの保険料120,000円の支払いをした場合、4月以降に対応する分90,000円(120,000円☓9/12)については、翌期の費用としないといけません。

そのため、上記の90,000円については

前払費用 90,000円/ 支払保険料90,000円

として、当期の費用になるのは30,000円(120,000円-90,000円)のみとなります。

これが「費用収益対応の原則」という会計の基本的な考え方なのですが、一方で「重要性の原則」といって、重要でないことは厳密に処理しなくてもよいかむしろ合理的という考え方もあります。

この例で言えば、どうせ毎期継続的に同じ保険料を支払うのであれば、結局支出時に全額損金としていても利益への影響はそれほど無いだろうということです。

そのため、一定の要件を満たす年払いの費用等については、支出時の損金とすることが認められています。

これを「短期前払費用」というのですが、なんでもかんでも一年分まとめ払いをすれば支出時に損金できるわけではないのです。

そこで、短期前払費用として支出時の損金とする際に注意すべき点についてみていこうと思います。

短期前払費用は意外と取り扱いは細かく落とし穴が

まずはまとめから

・短期前払費用が支出時全額損金なのは単なる時点のズレで節税効果はないから

・それでも国税庁は単年度の税収で動くので税金の繰り延べには一定の規制も

・儲かったときだけまとめ払い、勝手に年払いなどは、支出時全額損金はダメ

・支出時から1年を超えた期間までの支払いがあれば支出時全額損金はできない

・決算時までに支出がされていないものは短期前払費用の取扱なし

・リースについては、年払いでも短期前払費用の取扱なし

 

短期前払費用に節税効果はない

短期前払費用に該当し支出時の損金になるための要件は次のように定められています。

法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った金額を継続してその事業年度の損金の額に算入しているときは、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
ただし、借入金を預金や有価証券などに運用する場合のその借入金の支払利息のように、収益と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。

(法基通2-2-14)

短期前払費用として損金算入ができる場合|タックスアンサー

この短期前払費用の規定の趣旨は、

本来時の経過により費用化される支出であっても、「その中身が等質で変動がなく」、「毎期継続して支払われる」ものであれば、わざわざ期間対応処理をしなくてもよい

ということです。

つまり、短期前払費用により、支出時に損金になったと言っても、来期以降は時の経過に応じて損金した場合と支出時の損金にした場合も利益は同じとなるので、導入初年度のみ、損金計上時期が早くなるだけのことです。

トータルで税負担を軽減するわけでもないので、「節税」というのには疑問があります。

だからこそ、国税庁も「別に支出時に損金でもいいよ」と言っているのでしょう。

ですから、取引相手が月払いで良いと言っているものを短期前払費用になるからとわざわざ年払いで前払いをすると言うのは、税負担軽減効果もないのに、結果的に手許のお金も早くなくなるので、あまり賢いことだとは言えません。

それこそ「手許のお金をより多く残す」という目的のための手段としての節税だったはずなのに、節税という手段の実現のために手許のお金を早く減らすのは、本末転倒だといえるでしょう。

短期前払費用とならない例

そうはいっても、「今は業績がよいものの来期のことは不安だからできるだけ当期の損金にして目の前の税負担を減らしたい」というのは、もう社長の本能のようなものなので、なんとかこの規定を利用したいということは多いもの。

しかし、なんでもかんでもまとめ払いをすれば、支出時の損金になるわけではありません。

次のような場合、短期前払費用にはならず、時の経過に応じて損金になります。

儲かった時だけ前払いをする

短期前払費用の趣旨は、毎期継続して同時期に(ほぼ)同額の支出するものであれば、時の経過に応じて損金にしても支出時に損金にしても利益は変わらないから支出時の損金を認めるというもの。

それを儲かった時は1年分まとめ払いし支出時の損金、儲からなかった時は月払い、あるいは時の経過に応じて損金算入というのでは、短期前払費用の処理は認められません。

勝手にまとめ払いをする

短期前払費用となるのは、当事者間で年払いなどまとめ払いがされていることが定められている事が必要です。

なので、契約上は月払いとなっているものを勝手に支出時の損金にしようとまとめ払いをしても短期前払費用とはなりません。

確かに、口約束でも法律上契約は成立しますが、相手がそのことを承諾していないとその契約は成立しませんし、税務調査でその合意の事実を証明することが難しいので、契約書や覚書などで年払いや半年払いなどまとめ払いとする当事者間の合意があることを残しておくようにしたいものです。

等質・等量のサービスではない

短期前払費用の趣旨は、その費用の中身が月ごとにみても等質・等量であるものならば、時の経過に応じて損金にしても支出時に損金にしても利益は変わらないので支出時の損金を認めるというもの。

具体的には、支払家賃や保険料などが該当します。

一方、雑誌の年間購読料や税理士の顧問料などは、その内容が毎月等質・等量とはいえないので短期前払費用の適用対象外となります。

収入との直接的な見合関係にある費用である

本来「費用収益対応の原則」で処理すべきところを、時の経過に応じた損金処理と支出時の損金処理の誤差が僅少であれば「重要性の原則」により支出時の損金とすることを認めています。

なので、できるだけ費用と収益を対応させることが求められており、わざわざ費用収益の対応関係を崩すようなことは認められません。

そのため、不動産を転貸をしている場合、その受取家賃は時の経過に応じて益金に計上しておきながら、支払家賃のみを短期前払費用として支出時の損金とすることはできないのです。

その支払時から1年を超える期間を対価支払の対象期間とする

3月決算の会社で、1月に「1月分から12月分」までの家賃を年払いした場合、その対価対象期間は支出時1月から1年以内のものです。そのため、この年払いの支出は他の要件を満たす限り短期前払費用となります。

しかし、同じ1月に「3月分から翌年2月分」までの家賃を年払した場合、その対象期間には支出時1月からみると1年を超える期間のものが含まれます。そのため、この支出は短期前払費用とはなりません。

ただ、「対価対象期間が支払時から1年以内」と言うのは日単位で厳格なものではなく、ある程度の幅はあります。

タックスアンサーの質疑応答事例でも次のように3月下旬に「4月分から翌年3月分」までの支払いをしたものは短期前払費用になるとしています。

一方で、2月に「4月分から翌年3月分」までの支払いをしたものは、翌年3月は、2月からみて1年を超えているため短期前払費用とはならないとしています。

当然、儲かっているうちにと3月に「5月から翌年4月分」までの支払いをしたとしても短期前払費用には該当いたしません。

【照会要旨】

当事者間の契約により、年1回3月決算の法人が次のような支払を継続的に行うこととしているものについては、法人税基本通達2-2-14((短期の前払費用))を適用し、その支払額の全額をその支払った日の属する事業年度において損金の額に算入して差し支えありませんか。
なお、次の事例1から5までの賃貸借取引は、法人税法第64条の2第3項に規定するリース取引には該当しません。

事例1:期間40年の土地賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の地代月額1,000,000円を支払う。

事例2:期間20年の土地賃借に係る賃料について、毎年、地代年額(4月から翌年3月)241,620円を3月末に前払により支払う。

事例3:期間2年(延長可能)のオフィスビルフロアの賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の家賃月額611,417円を支払う。

事例4:期間4年のシステム装置のリース料について、12ケ月分(4月から翌年3月)379,425円を3月下旬に支払う。

事例5:期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払う。

【回答要旨】

・ 事例1から事例4までについては、照会意見のとおりで差し支えありません。

・ 事例5については、法人税基本通達2-2-14の適用が認められません。

質疑応答 短期前払費用の取り扱いについて|タックスアンサー

具体的にいつまでということは明記されていませんが、年払いの場合、その「支出日と対価対象期間の始まりは一ヶ月未満」にしておいたほうが良いでしょう。

決算日までに支出が行われていない

短期前払費用となるのは、あくまでも支出がその事業年度に行われていることが前提ですので、未払計上したものが短期前払費用となることはありません。

決算末日を引き落とし日としていると、銀行の営業日によっては翌期の支払いとなる場合があり、その場合には、短期前払費用とされません。

その場合にはきちんと決算日前に支払をするようにしておくことが必要です。

リース取引は短期前払費用の対象外に

従来、リース料については、短期前払費用の対象でしたが、「一般的なリース取引」(所有権移転外リース)は資産購入とされリース期間による減価償却をするのが原則とされました。

その中でも、中小企業については、従来通り支出時の損金とすることが認められるよう後日改正がされたのですが、あくまでも減価償却の処理の一環であるため、リース料の支払いについては短期前払費用の取り扱い対象外となるのです。

リース取引についての概要(平成20年4月1日以後契約分)|タックスアンサー

このように意外と短期前払費用には落とし穴の多いので、税務調査の際に思わぬところで否認されないようその取扱いを確認しておきましょう。

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