建設工事が消費税の増税時期をまたがる時の課税関係|未成工事支出金・建設仮勘定・販売用不動産

工事が長期に渡ると消費税の増税時期をまたぐことも

建設工事については、その工事期間が長いため、今回の消費税の増税時期の前後を工期がまたいでしまうことも多いでしょう。

では、その際の消費税の取り扱いはどうなるのか。

そこで今回は、工期が消費税の増税時期をまたぐ場合の課税関係についてまとめてみることにします。

未成工事支出金として経理したものの仕入税額控除 

建設業者が建設工事等を請負う場合、原材料の仕入れや下請先に対する外注工事費などは、これを支払った日には損金の額に算入しないで、「未成工事支出金」勘定で処理しておく。そして、完成して引き渡した時点で、その未成工事支出金を売上原価に振替えて損金とする経理処理が採られることが一般的です。

では、この場合の消費税についてはどのように取り扱うのでしょう。

消費税の納税額の計算上、消費税額を控除(仕入税額控除)するのは、資産の引き渡しや役務の提供を受けた日を含む課税期間において行うのが原則です。

ですから、未成工事支出金勘定に含まれる課税仕入れの額、例えば、原材料の仕入れや下請外注先からの役務提供の対価の額は、それぞれの取引ごとに資産の引渡しを受けた日や下請外注先が役務の提供を完了した日に仕入税額控除の対象とすることになります。

具体的な経理処理としては、未成工事支出金として経理処理がされた段階でそれぞれ消費税額を認識するか、課税期間内に引き渡しや役務提供の完了した分を集計し期末にまとめて控除すべき消費税額を計算する必要があるということ。

ですが、これは、結構面倒です。

そこで、未成工事支出金として経理処理した時点では消費税額を計上せず、請負工事による目的物の引渡しをした日の属する課税期間の課税仕入れとすることを継続して適用しているときは、例外としてその処理が認められているのです。

では、このような「目的物の引渡し時にまとめて消費税を認識」している場合において、2019年9月30日までに行われた課税仕入れを「未成工事支出金」として経理していたものを、2019年10月1日以後に完成する日の属する課税期間においてまとめて課税仕入れとするときは、仕入税額控除の計算はどちらの税率で行うことになるのでしょう?

この場合は、売上原価に振替えて損金算入された時点では消費税率が10%になっていたとしても、自分が8%の消費税しか支払いをしていないのですから仕入税額控除は8%として行わなければなりません。

つまり、未成工事支出金について、2019年9月までに引き渡しや役務提供完了を受けた分と2019年10月以降に引き渡しや役務提供完了を受けた分について、別途分けて集計をしておく必要があるということです。

建設仮勘定として経理したものの仕入税額控除

固定資産については、その資産の引き渡しを受けた日に消費税について課税仕入れがあったものとされます。

これらの課税資産等を取得した日の属する課税期間においてその全額を控除の対象にすることになります。

しかし、建設工事の場合は、通常、工事の発注から完成引渡しまでの期間が長期におよび決算期をまたくごとも多いもの。

その際には、工事代金の前払金又は部分的に引渡しを受けた工事代金や経費(設計料、資材購入費等)の額を一旦「建設仮勘定」として経理し、これを目的物の全部が引き渡されたときに固定資産などに振り替える処理を行うことが一般的です。

では、この時の消費税の取り扱いはどうなるのか。

建設仮勘定に計上されている金額であっても、それぞれの物の引渡しや役務の提供があった日において課税仕入れがあったものとされます。つまり、その部分的な引き渡しや役務完了の日の属する課税期間で消費税の仕入税額控除がされるのが原則です。

ですが、建設仮勘定として経理した課税仕入れについて、物の引渡しや役務の提供又は一部が完成したことにより引渡しを受けた部分をその都度課税仕入れとしないで、工事の目的物のすべての引渡しを受けた日の属する課税期間における課税仕入れとして処理する方法も例外として認められています。

では、2019年9 月30日までの課税仕入れの金額について「建設仮勘定」として経理したものを、2019年10月1日以後に完成する日の属する課税期間において課税仕入れとするときには、消費税の税率はどうなるのか。

こちらも、未成工事支出金同様、いくら工事の目的物のすべての引き渡しを受けた日にまとめて課税仕入れがあったものとしても、自分が8%の消費税しか支払いをしていない以上、10%分の消費税の控除をすることはできません。

建設仮勘定について、2019年9月までに引き渡しや役務提供完了を受けた分と2019年10月以降に引き渡しや役務提供完了を受けた分について、やはり、別途分けて集計をしておく必要があるのです。

販売用不動産には販売時に消費税控除という規定はない

要するに、工事を請負い支出をした「未成工事支出金」と工事を委託し支出をした「建設仮勘定」の消費税については

「原則」

 部分的な引き渡しや役務提供完了のたびに消費税の課税仕入れがあったものとして仕入税額控除

「例外」

 完成して売上原価に振り替えた時や建物に振り替えたときにまとめて仕入税額控除

の2つの経理処理が認められており、原則は早く消費税の仕入税額控除が受けられるというメリットが、例外は経理処理が簡便であるというそれぞれのメリットがあります。

しかし、それらの工事の間で消費税の増税時期をまたぐ場合、どちらの経理処理方法を採用したとしても、2019年9月までに引き渡しないし役務提供完了した分については消費税率8%、2019年10月以降に引き渡しないし役務提供が完了した分については消費税率10%として消費税の仕入税額控除を行う必要があるのです。

なお、同じように長期に渡り工事がされることのあるものに不動産業による「販売用不動産」のリノベーション(修復再生販売)があります。

しかし、この販売用不動産については、未成工事支出金や建設仮勘定のように「売上原価等に振り替えたときにまとめて仕入税額控除をする」という例外的な取り扱いはありません。

ですから、販売用不動産については、その取得による資産の引き渡し時点やリノベーション工事の役務提供が完了された時点で仕入税額控除を行わなければなりません。

(実際に、販売をして売上原価等に振替えた時点でまとめて消費税の仕入税額控除をしていたとしても、税務署が修正を求めるのかは微妙です。なにせ、納税者がルールより消費税の納税の時期を早くしているのをわざわざ還付するように直させるメリットが税務署にはないですから)

つまり、悩むこともなく消費税の増税時期の前後でそれぞれ消費税額を8%と10%に分けて集計せざるを得ないということ。

ホント面倒くさいですね。

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