経営力向上計画という無意味な申請書|即時償却・税額控除・所得拡大税制上乗せ要件

経営力向上計画はなんのための制度?

「中小企業等経営強化法」という法律により、中小企業等の事業分野の特性に応じた経営力向上を目指し、税制や資金調達での優遇措置が実施されています。

その優遇措置を受けるための要件として「経営力向上計画」という計画書を提出し認定を受ける必要があります。

ただ、その計画書といっても、ページ数にしてわずか実質2ページ。

どう考えてもこの計画書を作成したところで中小企業の経営力が向上する気はしないのですが、まあ税制優遇などを受けるには出さざるを得ない。

そこで、今回は、経営力向上計画の税制上の効果と作成のポイントについてまとめてみることにします。

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経営力向上計画による税制優遇措置

経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等は、日本政策金融公庫や商工中金による低利融資や、民間金融機関の融資を受ける際の通常とは別枠での信用保証など資金調達上の支援を受けることが出来ます。

しかし、実際にこの経営力向上計画を提出する目的としては、税制上の優遇措置を受けるためということが多いでしょう。

では、どんな税制上の優遇措置が受けられるのか。主なものには、次の「即時償却」「税額控除」そして「所得拡大税制の上乗せ控除」があります。

(1)即時償却・税額控除

経営力向上計画の認定を受けた一定の中小企業者等は、2021年3月31日までの間に、「特定経営力向上設備等」を取得し、国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合には、その指定事業の用に供した事業年度において、即時償却又は税額控除を受けることができます。

対象となる「特定経営力向上設備等」には「生産性向上設備」と「収益力強化設備」がありますが、要するに生産性や投資利益率が一定率以上向上すると国や業界団体が認証した機械装置等などのこと。

これらの「特定経営力向上設備等」を取得し事業の用に供した場合、その取得価額の全額をその期に減価償却することができる「即時償却」か取得価額の7%(特定中小企業者等は10%)の「税額控除」を受けられるということです。

これは、2017年3月まで実施されていた「生産性向上設備促進税制」が形を変えて、今まで提出を求められていなかった「経営力向上計画」の承認が要件に加わっただけだといえるでしょう。

中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|タックスアンサー

(2)所得拡大税制の上乗せ控除

「所得拡大促進税制」は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税等から控除できる制度です。

この制度も2018年4月以降開始の事業年度から制度改正がされましたが、その際に、「経営力向上計画」の承認を受けた上で、実際に一定率以上の経営力向上が見られたという「経営力向上報告書」を提出することで、通常「前期からの給与等増加額」の15%の税額控除が25%の税額控除へと上乗せして受けることができるのです。

中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック|中小企業庁

重要なのは提出期限

即時償却や税額控除を受けるのには、原則として、その対象となる設備は、経営力向上計画の認定後に取得をする必要があるということです。

なお、経営力向上計画は、その計画期間を5年間とすることが多いですが、一度提出すれば、その間に取得をした設備についてすべて即時償却や税額控除が受けられるわけではありません。

そのまま即時償却等が適用されるのは、当初(新規)の計画書に記載がされた設備のみです。

その後に追加で設備を取得する場合には、その都度「変更計画書」を事前か遅くとも取得後60日までに提出し、その事業年度終了の日までに計画の認定を受ける必要があるのです。標準処理日数は30日ですので余裕を持った申請をしましょう。

経営力向上設備の取得時期・税制の特例適用等について|中小企業庁

また、所得拡大税制の上乗せ措置を利用するためには、「経営力向上が行われたことに関する報告書」も提出をすることが必要です。

経営力向上計画作成のポイントは業種の選定

経営力向上計画の作成の作成は、そんなに難しいものではありません。

唯一注意すべきは「業種の選定」ではないかと。

というのも、中小企業等経営強化法では、事業分野ごとに生産性向上の方法等を示した事業分野別の指針を策定することになっています。

経営力向上計画においても、策定されている「事業分野別指針」を踏まえて作成する必要があるのです。

事業分野別指針及び基本方針|中小企業庁

中身を見ると「現状分析」から始まり「こうあるべきだ、こうすべきだ」という頭のいい人の作った「ありがたいお教え」が書いてあるのですが、そんなものはどうでもいいです。

業種ごとの申請書の記載例がこちらにありますので、現状認識の文面や選択すべき経営力向上のベンチマークとなる財務指標はそちらを見ながら書けばよいでしょう。

申請書記載例|中小企業庁

なお、「経営力向上計画の策定」や「経営力向上が行われたことに関する報告書」については、「経営力向上計画申請プラットフォーム」というサイトで作成のサポートが行われています。

こちらに入力をしていけば、誰でもスムーズに作成はできるはずです。

経営力向上計画申請プラットフォーム

よくできていますが、これを作るのに公務員さんはどれだけの時間を費やしたのかと。

以前には、わざわざ「ネ申エクセル」とも言うべきフォーマットを作ってましたが。

自分たちが作った経営力向上計画という中小企業支援の制度について、まるで見向きもされなかったので、無理やり需要の多かった即時償却や税額控除の要件に加えることであえて自分たちの仕事を作り出す。

企業の生産性向上を促進するはずの法律が、企業に無駄な作業をさせるってどういうつもりなんでしょう。

さっさと、即時償却や税額控除の要件は元通りに戻してほしいものです。そのほうがずっと企業の生産性は上がると思いますよ。

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