コベナンツ(財務制限条項)に抵触したらホントに融資は一括返済しなくちゃいけないの?
財務制限条項付きの融資も
融資をする銀行としては、当然、貸したお金はきちんと返してもらわねばなりません。
借りるときに「今後ドンドン成長していくから間違いなく返済はできる」といくら言われても、それを鵜呑みにするわけにもいきません。
金利を優遇したり長期でまとまった資金を融資するには「その代わりにそちらもある条件を死守して欲しい」ということが付されることがあります。この融資を当初の条件で継続するために借りる側が守るべき条件を「コベナンツ」といいます。
そのコベナンツの中で、よく設定されるのが「最大限の努力をすることの証として遵守して欲しい具体的な成績」。この借りる側が死守すべき最低限度の数字的なハードルのことを「財務制限条項」といいます。
この「財務制限条項」を満たせない決算となった場合には、「融資を一括返済する」ことが求められるのです。
融資の一括返済とは、恐ろしいこと。ホントにそんなことが行われているのでしょうか?
そこで、今回は「財務制限条項」に引っかかったときには、ガチで「融資の一括返済」を求めたりするのか、その実態を調べてみることにします。
財務制限条項とは
財務制限条項とは、金融機関が融資を行う際に債務者に対して求める「財政状態、経営成績の最低基準」のことです。
この財務制限条項を満たせないような決算となった場合には、金利の引き上げや融資の一括返済が求められるのです。
財務制限条項付の融資は、一般的には、複数の金融機関が協調して融資をする「シンジケートローン」のような大型の融資として実施されるものが多いのですが、最近は、地域金融機関が中小企業に対して一行で数千万円単位の融資でも実施することも見られるようになってきました。
財務制限条項付きの融資のポイントは、貸す側が担保や連帯保証人に依存せずビジネスモデルを精査した融資に応じるのであるから、借りる側もちゃんと約束した最低限度の成績は確保してほしいということ。
ですから、財務制限条項付融資は、一般的には業績や財政状態の良好な融資先に対して、担保や連帯保証人がなくてもよい、あるいは通常の融資よりも金利が低いなどの借りる側にとってもメリットがあります。
ただ、地域金融機関が中小企業に対して、財務制限条項付きの融資を実施する背景には、「担保に頼らない融資を」という金融庁からの要請に応じていますよというポーズの部分もあるのではないかなと。
結果的に、支店の中で業績の良い会社に銀行からお願いをして財務制限付き融資の実績をつけているということも多いのではないかと予想します。
なお、中小企業向けの融資での財務制限条項としては、
・経営成績としては、二期連続で赤字にならない
・財政状態としては、債務超過にならない
など、「そりゃ、満たさないほうがヤバいわ」というような、そこまで厳しいものでもないものが多いといえるでしょう。
実際に財務制限条項に抵触したらどうなるのか?
融資を受けるための条件として「財務制限条項に抵触したら、融資は一括返済」と定められていたのであれば、実際にそうなったら、融資は一括返済を求められるでしょう。
ただ、そうはいっても、業績悪化がしている中で、融資一括返済を求められたら、それがキッカケで他行の連鎖的な融資引き締めなどを誘発し資金ショートに陥りかねません。
ぶっちゃけ、ホントに融資一括返済なんてどれくらい求められているのかなと。
調べてみたところ、中央経済社のデータによると、実際に財務制限条項に抵触をしたとしても、その47.7%は融資の一括返済を「猶予」しており、実際に「返済や借換」を求めたのは全体の6%しかないということです。
「借換」には、別の条件での返済も含まれていることを考えると、即一括返済を求められているのはそれ以下となるのではないかと予想します。
全体の約半分を占める「猶予」は、抵触に伴って生じる債権者の権利、つまり、「資金の即時一括返済」(期限の利益の喪失)に関する権利行使を猶予したことを意味しています。一方で、当初の取り決めどおりに罰(資金の即時一括返済)が実施されたと思われるケース(表中「返済・借換」)は全体のわずか6%であり、ほとんどのケースにおいては「罰」が猶予あるいは意図的に回避されていることが分かります。
日本における財務制限条項:実態と可能性|一橋大学HQ|経営管理研究科 准教授 河内山 拓磨
新型コロナ禍で財務制限条項に抵触しても柔軟な対応を金融庁が求めている
今回の新型コロナ禍で、全くの想定外に財務制限条項に抵触してしまったというケースもあるでしょう。
そのようなケースについて、金融庁も「杓子定規に厳しい対応を求めないで柔軟な対応をしてあげるように」という通達を金融機関に出しています。
貸出等の条件となっている財務制限条項(コベナンツ)に事業者が抵触している場合であっても、これを機械的・形式的に取り扱わないこと、
具体的には、
①事業者の経営実態をきめ細かく把握し、直ちに債務償還等を要求することのないよう対応すること、
②コベナンツの変更・猶予に関する事業者からの相談には迅速かつ真摯に対応すること、
③特に、シンジケートローンにおいては、関係金融機関が協力して一体的に対応すること。
「要請」と言われても、金融機関に取ってみれば、それは「命令」に等しいもの。
新型コロナ禍で思わぬ形で財務制限条項に抵触するようなことがあったとしても、すぐに融資一括返済を求められるようなことはまずないと考えて良さそうです。
だからといって、「債務超過でも、二期連続赤字でも何でもいいじゃん」ということではないですが。
それでも、コベナンツの有無に関わらず、「コロナは関係なく業績が低迷したのに、コロナがよい言い訳になった」という会社も結構あるかもしれませんね。
いっそ「全部コロナのせいにして膿は今期に出し切ってしまい、翌期のV字回復を演出する」という「カルロス・ゴーン方式」の機会にするところもあるのではないでしょうか。
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