減価償却をやめて黒字を確保する意味はあるのか?|融資と節税の面で考えてみる

法人の減価償却は上限額内で任意

個人所得税の計算上、減価償却資産の減価償却は「強制償却」であり、仮に減価償却をしなかったとしても、法定耐用年数での減価償却をしていたものとして計算がされます。

しかし、法人についての減価償却については「任意償却」であり、実際に計上した減価償却費のうち税法上定められた限度額まで損金に算入されるだけのことです。

ですから、税務上は別に減価償却をしなかったからとして何らのペナルティもないわけです。

そこで、大きく業績を落とした会社がなんとか黒字確保できる方法はないかと考える中、「減価償却費の計上をやめてしまったらどうよ?」ということが思い浮かぶわけです。

では、減価償却を調整して利益を確保することにどれだけの意味があるのでしょう。

今回は、減価償却による利益調整の意味についてまとめてみることにします。

融資の評価はあまり意味なし

減価償却をまともに行えば赤字になるところを、あえて減価償却費の計上を抑えて利益を出したいという主たる理由は「第三者の評価を上げたい」ということ。

中小企業では、ほぼ金融機関からの融資のためと言ってよいでしょう。

では、減価償却費の計上を抑えて赤字を黒字にすることが融資審査ではどれだけの意味があるのでしょうか?

結論は、資金調達上、減価償却を抑えて利益確保することは意味はないというより好ましくないと考えます。

というのも、減価償却は任意だというのはあくまでも税務のルールであり、減価償却費の計上を恣意的に行うことは適正な損益計算を歪める「粉飾」に他ならないからです。

当然、金融機関も減価償却費の計上が恣意的に行われていないことを確認しますし、もし適正な減価償却が行われてていない場合には、適正な減価償却に修正し直した上で業績の判定をします。

「中小企業の会計に関する基本要領」の適用に関するチェックリスト|全国信用保証協会連合会

融資をする際に、その会社がどれだけの借入金ならば返済できるのかを判定するときの基準となる「債務償還財源」についても擬似的なキャッシュフローとして以下の算式で計算をされることが多いのです。

債務償還財源=利益+減価償却費

減価償却費をないものとした利益を計算するのですから、債務償還財源の計算でも減価償却を抑えることは意味がないことはわかるでしょう。

「減価償却をいじるような会社はその決算書自体が信用できない」ということにもなるので、少なくとも融資を受けるために減価償却費を抑えて利益を確保するというのは得策ではないということです。

将来の節税のためには意味あることも

しかし、税務上は減価償却費の計上を抑えて利益確保をする意味があることがあります。

それは「欠損金の繰越控除の期限切れ」を防ぐということです。

青色申告書を提出した中小企業は、生じた欠損金(税務上の赤字)について、翌期以降10期間黒字が発生した場合に、欠損金と黒字を通算して課税所得を計算することができます。

なお、平成30年3月31日以前に終了した事業年度の欠損金の繰越控除の期限は9期間までです。

青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

この減価償却費を計上すると控除しきれずに欠損金の期限切れとなりそうなときには、減価償却費の計上を抑えて利益を確保し、その利益と欠損金を相殺します。

減価償却というのは、固定資産というお金を出して買った”ケーキ”を数年間に分けて損金に算入することです。

減価償却費として消化した分だけ残りの”ケーキ”が小さくなります。

貴重なケーキを消化して利益を小さくしたところで、控除しきれなかった欠損金が期限切れになるくらいなら、減価償却を抑えて利益を増やし賞味期限切れの欠損金と相殺させたほうが、税負担を変えずに将来減価償却できるケーキを大きく温存することができるわけです。

減価償却費の元となるケーキを温存した分だけ、将来の課税所得を減らし税負担を軽減することにつながることでしょう。

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