勤続5年以内の退職金についての課税強化|ヘッドハンティングでの有期契約がターゲットか

「節税最後の砦」退職金課税にメスが

税理士による節税対策の考案と国税庁による封じ込めのイタチごっこの結果、恒久的な税負担軽減効果が安全確実に享受できるものは、もう退職金くらいしかないとも言えます。

その退職金への課税についてもあまりに優遇されているとの指摘があり、特に本来の趣旨と異なるいびつな法形式を用いた支給形態については、今までも規制がされてきました。

その延長線上として、2022年以降支給の退職金について、新たな課税強化が打ち出されたのです。

そこで、今回は、2022年以降適用される「勤続5年以内の退職金」についての課税強化の内容についてまとめてみることにします。

退職金についての課税の仕組み

まず、所得税については、所得の発生原因により10の所得区分に分けた上で、それぞれ所得金額が計算され、それらを合算(一部例外あり)して課税対象の所得とします。

このうち、「退職に伴い支給される一時金」については、「退職所得」とされるのです。

この退職所得は、長年の勤務の功労に対して支給されるものであることや、今後収入が減るであろう中での老後資金に充当されることも多いことなどから、他の所得とそのまま合算して累進課税の適用を受けるのはなじまないとの考えから、他の所得に比べてその税負担が少なくて済むような配慮がされているのです。

具体的には、退職所得については次の3つの恩典が与えられています。

(1)退職所得控除

退職所得の計算上、退職金から勤続年数に応じた退職所得控除を差し引くことができます。

なお、その退職所得控除は勤続年数20年までの部分は年40万円、20年を超える部分は年70万円となります。

(2)1/2課税

上記(1)で計算された金額をさらに1/2した金額を退職所得とすることができます。

(3)分離課税

上記(2)で計算された金額を他の所得と合算することなく、その金額だけを基準に累進課税の税率を適用します。

特定役員等に対する規制

これだけ有利な退職金であれば、給与の代わりに退職金を何度ももらったほうが全体の税負担が軽減できることになり、短期間でやめては退職金をもらうということを繰り返す輩が出てきます。

そこで、役員等の勤続期間が5年以下で一定の要件に該当する「特定役員等」については、退職金の優遇措置のうち(2)の「1/2課税」を適用出来ないように規制したのです。

この特定役員等とは、役員等の勤続期間が5年以下の次に掲げる人をいいます。

①法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人や法人の経営に従事している者で一定の者

②国会議員や地方公共団体の議会の議員

③国家公務員や地方公務員

具体的な退職所得の計算は次のようになります。

(1) その年中に支払われる退職手当等が、「特定役員退職手当等」のみの場合

特定役員退職手当等の収入金額-退職所得控除額

(2) その年中に支払われる退職手当等が、特定役員退職手当等と特定役員退職手当等以外の退職手当等の場合

次の(イ)と(ロ)の合計額となります。

(イ)特定役員退職手当等の収入金額-特定役員退職所得控除額(注)

(ロ){退職手当等の収入金額-(退職所得控除額-特定役員退職所得控除額)} × 1/2

(注) 特定役員退職所得控除額は、次の算式により求めます。

なお、特定役員等の勤続期間と特定役員等でない勤続期間の両方があり、その2つの期間が重複している場合には、その重複する勤続年数(重複している期間に1年未満の端数がある場合には、これを1年として計算します。)部分について調整計算を行う必要があります。

1.重複期間がない場合

40万円×特定役員等勤続年数

2.重複期間がある場合

40万円×(特定役員等勤続年数-重複勤続年数)+20万円×重複勤続年数

これにより、天下り先を渡り歩く官僚の退職金についても規制が強化されることになったのです。

勤続5年以下にの退職金への規制

さらに、2022年度以降支給される退職金について、特定役員に該当しない者であっても、勤続年数が5年以下で支給される退職金にも「1/2課税」が適用できなくなります。

ただし、退職所得控除を差し引いた金額が300万円以下の部分については、1/2課税が適用できます。

例えば、勤続期間が5年で退職金を600万円もらったとした場合、退職所得控除は200万円(40万円×5年)ですから、退職所得控除後の400万円(600万円ー200万円)のうち、300万円までの部分は1/2課税が適用され、それを超える100万円には1/2課税が適用されないということです。

この改正により、およそ約101,000円ほど所得税・住民税の負担が増加します。

<改正前>

(1)退職所得控除後の金額

(600万円ー200万円)=400万円

(2)退職所得

400万円×1/2=200万円

(3)所得税・住民税

約304,000円

*所得控除は他の所得から控除するものとします。

<改正後>

(1)退職所得控除後の金額

(600万円ー200万円)=400万円

(2)退職所得

300万円×1/2+100万円=250万円

(3)所得税・住民税

約405,000円

勤続年数がわずか5年以内で退職所得控除(5年の場合200万円)後の金額が300万円を超える退職金というのは、一般的な日本の企業ではあまりありません。ですから、今回の改正により一般的な退職での退職金について影響の出ることは少ないでしょう。

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今回の規制は、外資系企業やヘッドハンティングなどにより高額な給与支給される雇用者に対して、雇用の際に当初から「給与を引き下げその代わりに退職金で補うような有期契約」を締結するケースなどにメスを入れたのだと思われます。

あんまりふざけたことをされ、どんどん退職金の課税強化がされることになると、最終的にはこの退職金課税のおかげで節税効果が享受できる小規模企業共済やイデコなども巻き添えになりかねないので困りものですね。

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