予想通り、改正電子帳簿保存法による電子取引データ保存の厳格化は不要になりました

巷では、改正電帳法のセミナーが花盛りだったが

電子帳簿保存法が改正され、メールで送付されてきた請求書など「電子取引データ」について、これまでは問題のないとされていた紙に印字しての保存が認められず、一定の改ざん防止措置を講じなくてはならないとされています。

巷では、インボイス制度導入と合わせてこの電帳法改正への準備をせよとのセミナーが数多く開催されています。

そのため、どのような対応をしたら良いのか悩んでおられる方も多いのではないでしょうか。

しかし、この改正は、本来であれば、令和4年1月から施行されるはずだったものが、「周知がされていない」との理由から、令和5年12月まで、対応できない「相当の理由」があれば、従来通りの紙に印字して保存を認めるとされたのです。

その令和5年12月までという「猶予期間」が実質的に撤廃され、令和6年1月以降もその「相当な理由」があれば、電子取引データ保存の厳格化は必要がないということに。

その「相当な理由」について、Q&Aが出されたのですが、それを読むと「これって、実質やらなくてもいいだろう」というものでした。

そこで、今回は、会計業界を大混乱に陥れた改正電子帳簿保存法が結局どうなったのよという話をしようと思います。

電子帳簿保存法の概要

税法では、決算書類や総勘定元帳などの帳簿書類、それに請求書、領収証などの証拠書類については7年間などという極めて長い期間の保存義務が課されています。

これらの保管スペースを確保するのは納税者には大きな負担であり、なんとか電子化したデータでの保存をすることで紙の書類は廃棄することを認めてほしいもの。

一方で、それを野放図に許してしまうと今やPDFファイルはカンタンに後から加工ができてしまうので改ざんがやりたい放題になってしまう懸念もあります。

その問題を解決するために、紙の書類の原本の廃棄を認め電子化されたデータでの保存を認めるための要件が電子帳簿保存法というもので定められているのです。

しかし、この「電子帳簿保存」の要件が非常に厳しく、なかなか中小企業レベルには普及がしていませんでした。そこで、これまで何度かの改正がされ、今回さらにペーパーレス化促進のために要件が緩和されたのです。

電子帳簿保存の対象となる文書

電帳法では、それぞれの書類について次の3つの保存方法が認められています。

・電磁的記録での保存

自身が一貫してPCで作成した決算書類、元帳など

・スキャナ保存

相手先から紙で受領した領収証・請求書原本など

・電子データ保存

電子決済、メールに添付されてきた請求書・領収証など

これまでは、この電子帳簿保存をするためには、事前に税務署に届け出をする事前承認制度がありました。

また、改ざんの可能性のあるスキャナ保存や電子データ保存については、後から修正ができないよう受領から数日以内にタイムスタンプを付与するなどが義務付けられていました。

この運用が非常に面倒で電子帳簿保存が進まないというのが実情だったのです。

2021年1月から電子データの保存要件の緩和と強化が

そこで、よりペーパーレス化を促進しようと

・税務署による事前承認制度の廃止

・タイムスタンプの付与は概ね70日以内でよい

・電子データ保存でタイムスタンプがない場合のシステムでの検索事項を限定する

などというデータの保存要件の緩和がされたのです。

しかし、これでは、電子帳簿保存法改正によって、改ざんしやすくなったとの間違ったメッセージにとられかねません。

そこで、改ざんのしやすい「電子取引データ」、具体的には、メールで送付されてきた請求書やネット上での決済の領収証などについては、従来は認められていた紙に印字して保存をすることを禁止し、改ざん防止措置を講じた上で電子データのまま保存をしなくてはならないとかえって保存のルールを厳格化したのです。

この改正が大きな混乱を生んだのは、国税庁が、「この電帳法改正に違反すると青色申告を取り消すこともある」とアナウンスをしたことでした。

青色申告を取り消されるというのは、各種の税法上の特典が使えなくなるのですから大変なことです。

そのため、会計ソフトメーカーや税理士会計士の業界では「これは大変なことになる」と大騒ぎになったのです。

中には、請求書について郵送していたものをなんとか合理化しようとメールでのやり取りに変えたのに、そんな面倒な保存要件を満たさなくてはいけないのであればとメールでの請求書のやり取りをやめて紙での郵送に戻そうとの動きも見られました。本末転倒とはこのことです。

改ざんはしてはいけないとの警告のつもりが、予想以上に大きなリアクションがあったためか、国税庁は早々に「単に電子取引データを紙に印字して保存をしているだけでは青色申告は取り消さない。あくまでも総合的な判断だ」と一気にトーンダウンしました。

施行3週間前での突然の実質2年延期

電子取引データを紙に印字して保存したとしても、即青色申告取り消しはないというものの、法律違反となるとなれば、事業者としては対応せざるを得ません。

しかし、世間では、全くと言ってよいほど、電子帳簿保存法改正について理解が進んでいませんでした。

というか、令和3年12月に2件の税務調査の立ち合いをしてましたが、臨場した税務署員は誰一人、電子帳簿保存法の改正について知らなかったですよ。

このままでは混乱を生じるとして、令和3年12月中旬ともう改正法施行が目の前の時期に、突然、「税務署長が要件に従って保存することができなかったことについて相当の理由がある」と認める場合に、出力書面の提示又は提出の求めに応じることができるようにしているときは、保存時に満たすべき要件が不要となる「宥恕規定」が出されたのです。

その宥恕規定の利用には、特に届け出もいらないなど、電子取引データ保存厳格化は実質的に2年延期されたといってよいでしょう。

令和5年度税制改正大綱での猶予規定の明確化

令和4年12月16日に公表された令和5年度税制改正大綱では、この改正電子帳簿保存法による電子取引データ保存厳格化宥恕の要件が明確にされました。

(1)検索機能不要措置の対象者が売上5000万円以下に拡充

保存された電子取引データについては、税務署員がスムーズにチェックができるよう検索機能を付与することが必要とされていましたが、判定期間の売上高が「1,000 万円以下」の事業者については、その検索機能は不要とされ、調査官の求めに応じて電子取引データのダウンロードに応じられるようにしておけば、実質的に今まで通りの保存方法が認められていました。

その検索機能不要の対象者が、判定期間の売上高が「5,000 万円以下」の事業者に拡充されたのです。

(2) 猶予規定が実質的に恒久化

所轄税務署⻑が「相当の理由」があると認める場合には、令和5年12月31日までは、税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードに応じられれば、改ざん防止措置は不要という「宥恕期間」が定められていましたが、令和6年1月以降も「相当な理由」があれば、無期限でOKの「猶予規定」が設定され、引き続き、実質的に従来通りの保存が認められました。

改ざん防止措置不要となる相当な理由とは?

では、令和6年1月以降も改ざん防止措置が不要となる所轄税務署長が認める「相当な理由」とはどんなものなのでしょうか?

その例示について、令和5年6月末に公表された通達及び電子帳簿保存法一問一答で、次のように明らかにされました。

令和5年度の税制改正において創設された新たな猶予措置の「相当の理由」とは、例えば、その電磁的記録そのものの保存は可能であるものの、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合については、この猶予措置における「相当の理由」があると認められ、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要となります。

ただし、システム等や社内のワークフローの整備が整っており、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存時に満たすべき要件に従って保存できるにもかかわらず、資金繰りや人手不足等の理由がなく、そうした要件に従って電磁的記録を保存していない場合には、この猶予措置の適用は受けられないことになります(取扱通達7-12)。

なお、この猶予措置の適用を受けるに当たり税務署への事前申請等の手続は必要ありません。

要するに「金がない、人が足りないから、準備が間に合わない」ということが「相当な理由」に該当するということです。

え?これでいいの?だったら、誰もわざわざ金や人手をかけて、改正電子帳簿保存法に対応なんかしないですよね。

ちゃんと準備して要件を満たすことができるようになったのに、やらなかったら違法になるんですから。

「やりたい人がやればいい」というルールに

これ、改正電子帳簿保存法による電子取引データ保存の厳格化は「やりたい人がやればいい」と言っているのと同じですよね。

つまり、改正電子帳簿保存法での電子データ保存方法の厳格化については、令和5年12月までに準備をするという期限は実質的になくなったのです。

要するに、かなり緩い「相当の理由」さえあれば、令和6年1月以降も、従来通り、メールで送付されてきた請求書については、そのままデータとして保存していいよということです。

まあ、いつまでとは言わないけど、できるようになったら電子取引データ保存の厳格化に対応してねってことです。

もちろん、この電帳法改正を契機に、データのデジタル化を推し進め、業務改善を図るというのであればとても良いことだと思います。

しかし、電帳法改正による電子取引データの保存要件変更は、ただの税務調査の対応でしかないです。対応をしたところで企業に利益をもたらすことはあまりありません。

ですから、もし、あなたの会社がデータのデジタル化を真剣に検討するのであれば、電子取引データ保存の厳格化にとらわれることなく、自社の業務改善に寄与する手法を優先して検討すべきであり、それは令和5年12月までに間に合わせなくてはならないと慌てる必要もないということです。

ほら、私、言いましたよね。

こんなのただの警告で、どうせグダグダになるから、高額なシステム導入なんか要らない。無料のツールを使ってやったふりだけしておけばいいって。

電子データを紙で保存しても青色申告取り消しせず|電帳法改正Q&A追加解説

言ったとおりになったじゃないですか。

しかし、「改正電子帳簿保存法に対応しよう!」っていうベンダーのサイトに、「このこと」が見えないくらい小さく書いてあるのは、なぜなんでしょうね。

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