【インボイス】ホントに取引の都度、登録番号を公表サイトで確認をする必要はあるの?
インボイス制度では登録番号の確認が必要に
令和5年10月より、いよいよ消費税にインボイス制度が導入されます。
導入直前であっても、インボイス制度への反発は強く、その根拠の一つとして「インボイス制度になると膨大な事務負担ガー」という主張がされるわけです。
30年以上に渡り、消費税の申告実務に携わる者から言わせていただければ、「どうせこんなもんだろう」というのは想像できるのですが、この点について、国税庁が公表した「インボイス制度の開始に向けて特にご留意いただきたい事項」の中で、継続的な取引をする者についても、取引の都度、登録番号の確認が必要なのかという疑問についての回答がされています。
そこで、今回は、ぶっちゃけ、インボイス制度になったら、このインボイスの確認にどれくらいの手間が必要になるのかという話をしてみようと思います。
理論上は、取引の都度、登録番号の確認が必要
インボイス制度下では、買い手が消費税の仕入税額控除を受けるには、登録した適格請求書発行事業者(適格事業者)の発行するインボイスの保存と一定事項の帳簿への記載が必要となります。
ただ、これまでの請求書や領収証とは別に、「インボイス」という新たな帳票のやり取りをしなくてはならないわけではなく、これまで取引で用いていた請求書等に必要事項を書き加えればよい。
それも、手書きでも、ゴム印でも良いという、諸外国に比べるとなんともテキトーな「なんちゃってインボイス制度」なわけです。
そのインボイスには、本当にそのインボイスを発行した事業者が登録した適格事業者であるのかを確認できるよう「登録番号」の記載が義務付けられています。
そして、売り手が一度登録はしたものの、後でこっそり登録を取りやめたりすることもあるため、買い手としては、取引の都度、適格事業者であるのかどうかを国税庁の公表サイトで確認をしなくてはならないということになるわけです。
これが、「インボイスが導入されると膨大な事務負担ガー」という根拠の一つとされているのですが、そもそもこれまで免税事業者であった事業者は、適格事業者になっても、当初の3年間は、消費税の納税額を売上に伴い受け取った2割でよいとする「2割特例」やその後も仕入税額控除の額を概算でも良いとする「簡易課税制度」を選択すれば、このような手間は一切いらないんですけどね。
それでも、課税事業者で簡易課税制度の適用のない「原則課税」の事業者であれば、取引の都度、登録の番号の真贋を公表サイトで確認するとなれば、確かに手間がかかります。
取引都度の番号確認は不要と国税庁が回答
では、ホントに取引の都度、その登録番号が正しいのか、公表サイトで確認をする必要があるのでしょうか?
この点について、インボイス制度後の税務調査について週刊税務通信3739号では、国税庁軽減税率・インボイス制度対応室の末安直貴主査のインタビューが掲載されていました。
(1)インボイスの記載事項に不足等があったら? 国税庁は柔軟に対応する方針
【編集部】 ところで、税理士や事業者の皆様の中には、インボイス制度が始まると、税務調査の方針も変わるのではないか、インボイスの記載事項が満たされているかどうか、一枚ずつチェックされるのではないかと考えている方もおられるようです。このあたりのお考えもお聞かせください。
【国税庁】
一般論として申し上げれば、税務調査については、従来から、様々な資料情報を分析し、大口・悪質な不正計算が想定されるなど調査必要度の高い納税者を対象に重点的に実施する方針としており、これまでも請求書等の保存書類について軽微な記載事項の不足を確認することを目的とした税務調査は実施しておりません。
また、仮に調査等の過程の中で、買手が保存しているインボイスについて、記載事項の不足等を把握した場合であっても、インボイスに必要な記載事項を相互の関連が明確な複数の書類により確認できれば適正なインボイスとなりますので、インボイスだけでなく他の書類等を確認するといった対応をすることや、「修正インボイス」により事業者間でその不足等を改めていただくといった対応も考えられます。
まずは制度の定着を図ることが重要ですので、こうした制度を丁寧に説明しながら柔軟に対応していきたいと考えています。
(2)無効なインボイスを受領したら? 実情に応じて“やむを得ない事情”の適用も
【編集部】 また、売手の故意によって無効なインボイスの交付を受けた場合、それでも買手は、調査等で仕入税額控除を否認されるのかといった質問もいただいているのですが、これについてはどう考えればよいでしょうか。
【国税庁】
まず、基本的な考え方としては、インボイス制度実施後、仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として、課税仕入れに係る一定の事項が記載された「帳簿」及びインボイス発行事業者から交付された「インボイス」の保存が必要となりますので、買手の行った課税仕入れについて、適正なインボイスの保存がない場合、原則として、仕入税額控除の適用を受けることはできないこととなります。
しかし、買手が社会通念上相当と認められる注意を払っていたにもかかわらず、例えば、売手の故意によって不正なインボイスの交付を受け、買手が仕入税額控除に必要な正しいインボイスを保存できていなかった時など、その保存がないことにつき「買手の責めに帰さない状態」にあると認められる場合には、個々の事実関係を踏まえて、 消費税法第30条 第7項ただし書きに規定する「災害その他やむを得ない事情」が適用される場面もあると考えています。
いずれにしても、インボイス制度実施後においては、インボイス発行事業者から交付されたインボイスの保存がない場合、買手の課税仕入れについては、原則として仕入税額控除ができませんが、個々の事実関係に基づいて、法令等に照らして適切に取り扱ってまいりたいと考えております。
と、国税庁の担当者も、「建前としては、取引の都度、インボイスの登録番号の確認は必要であるが、実務上は、軽微なミスは指導にとどめるなど柔軟な対応をする」とやんわりと伝えていたわけです。
それを、正式な形で、国税庁から8月21日に公表された「インボイス制度の開始に向けて特にご留意いただきたい事項」の中で、
インボイスの適正性(番号が有効かどうか)については、事業者においてご確認いただく必要があります。
ただし、全ての取引の都度、確認が必要となるものではなく、取引先の規模や関係性、取引の継続性などを踏まえ、事業者においてその頻度等をご判断いただくこととなります。
【具体例】
・新規取引先との取引:確認する
・継続的に取引がある企業との取引:都度の確認はしない(取引に入る前の確認も重要です)※ 登録を受けた場合、自ら届け出等しない限り有効であり、取消しも課税期間(原則1年)単位でしかできないため、これらも踏まえてご検討ください
インボイス制度の開始に向けて特にご留意いただきたい事項(3/3)|国税庁
と、新規取引については登録番号の確認は必要だが、継続的な取引であれば、その取引の都度、確認は必要ではないと明らかにしたわけです。
継続的な取引をしていた売り手が、断りもなく適格事業者を取りやめていたとしたら、それはもう仕方がない。仕入税額控除を税務調査で否認するようなことはないと示唆していると言って良いでしょう。
インボイス制度への対応は軽減税率程度と予想
では、税務調査でどのくらい、この適格請求書の登録番号が確認されるかというと、ぶっちゃけた話、現在の軽減税率くらいの関心だと思いますよ。
じゃあ、税務調査で消費税の軽減税率がどれくらい見られているかというと、見るのは見る。だけど、間違っていても「次から注意してください」と指導されるだけで、修正まで求められることはまずないってことです。
もちろん、今後、消費税の標準税率が上がって、軽減税率との税率差が大きくなると、話は変わってくると思いますよ。なにせ、インボイス制度導入の目的は、将来の標準税率引き上げのためでしょうから。
ですが、インボイス制度についても、まずは円滑な導入を優先するため、「当面の間」は、仮にインボイスの記載事項に不備があっても、それが不正なインボイスであったとしても、否認まではしないだろうなと。
ですから、現実的な対応としては、継続的な取引先については、初回だけは公表サイトで確認はする。単発の飲食店や小売店の利用については、一々公表サイトで登録番号の「真贋」を確認する必要はないかなと。
税務署だって、そんな金額が小さい単発の取引を一々公表サイトで登録番号の確認なんかしないでしょ。ただでさえ、時間がないんですから。
仮に、売り手が悪意で偽の登録番号を記載していたとしても、それで即否認はなさそうですし、万々一、否認されて、過少申告加算税などを支払ったとしても、それは本来支払うべきだった税額のせいぜい2割。
そんなレアケースのために、わざわざ一件一件、公表サイトで登録番号の真贋を確認するコストのほうがずっと高いので、「言われたら、その時はその時」と割り切ったほうが良いのではないかなと言うのが個人的な考えです。
間違いや見解の相違によるペナルティは、ただのコストですからね。
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