仕事でしか着ないスーツは会社の損金になるのか?|建前ではない「微妙な経費」の税務調査の現場

スーツや冠婚葬祭費は給与所得控除という概算経費で

「サラリーマンは、スーツ代や冠婚葬祭費用は必要経費にならないのに、オーナー社長や自営業者であれば必要経費になる」みたいなことが言われますが、実際には、給与所得者には「給与所得控除」という”概算の必要経費控除”が認められています。

この金額は、最低でも年間65万円、年収850万円であれば195万円と実際に支出するであろうスーツ代や冠婚葬祭費用を大きく上回るのです。

もちろん、オーナー社長であっても、「スーツ代なんざその給与所得控除の範囲内でしょ」というのが税務署の基本的な考え方であり、会社の損金になることはありません。

しかし、「プライベートではスーツなんか一度も着ることもなく、会社の特別な用事のために買ったスーツなんだから会社の損金として認めて欲しい」という考えもわかります。

そこで、今回は、スーツ代を例に、事業用と個人用の線引が”微妙な経費”が、実際の税務の現場ではどのように扱われているのかについてまとめておくことにします。

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ホステスの衣装代負担の判断基準を参考にしてみると

プライベートでは全く着ないスーツ=会社での作業服と考えると、事業に関連するものであり、会社の損金であるようにも思えます。

確かに、制服ないしそれに準ずる事務服、作業服等であれば、

所得税基本通達9-8により

(制服に準ずる事務服、作業服等)

9-8 専ら勤務場所のみにおいて着用する事務服、作業服等については、令第21条第2号及び第3号に規定する制服に準じて取り扱って差し支えない。

と会社の損金にすることが認められています。

また、通常その事業所のみでしか使用できないデザイン、色調のもの又はその事業所以外で使用できるものであってもその事業所に常備しその事業所のみで使用するものは、所得税基本通達9-8《制服に準ずる事務服、作業服等》に準じて強いて課税しなくて差し支えないともされています。

一方で、

「A社(バー経営)は、ホステスが自己の名義で購入した衣裳につきその代金を負担することしており、この衣裳は事業所以外でも使用できるものであり、その事業所に常備してはいない」ものについては、ホステスに対する経済的利益(報酬)となるとされています。

ホステスの衣装代負担による経済的利益|タックスアンサー

つまり、衣装代等を会社で負担した場合に、例えその事業所以外で使用「できる」ものであっても、

・事業所に常備しその事業所のみで使用するもの|非課税

・事業所に常備せず自宅で保管するものや事業所外でも使用するもの|課税

ということになるのでしょう。

つまり、自宅から着ていくスーツは、プライベートでは着なくとも、会社の損金にするのは難しそうです。

ですが、急な会社関連の葬儀などでもすぐに訪問できるようにと「個人用とは別に会社のロッカーなどに常備している」喪服であれば、事業所のみでの使用とはなりませんが、着用しての訪問が明らかに事業目的なので事業所のみでの使用に準ずるものとして、会社の損金となる余地があるということかと。

そこから、苦しいですが、いつもはTシャツなどラフな恰好で普段は仕事をしており、式典など特別な用事の際に訪問するためのスーツを「会社に常備している」のであれば、そのスーツ代も会社の損金だと主張する余地が少しはありそうです。

一方で、会社の特別な用事にだけ着用するスーツだとしても、「自宅に保管されている」ものは、会社の損金とならず、社長の給与とされるのが基本ということでしょう。

実際には税務調査でスーツ代が損金として認められていることも?

「いや、実際には、スーツ代を会社の損金としていたが税務調査で何も言われなかったぞ」という方もいるかもしれません。

これは、なにもスーツ代にかかわらず、中小企業での税務調査は5-10年程度に一度が標準で、仮装隠蔽などの脱税行為がない場合の調査対象期間は原則3期間であり、それもすべてがチェックできるわけではないのですから、そのようなことも当然起こり得ます。

また、仮に「スーツ代について全額自己負担とすべきだ」と税務調査で指摘されたとしても、「事業で使用するためやむなく購入した」という主張を100%否認するというのは、税務署としても手間が掛かります。

そのため、「金額によっては」ですが、会社で支払った事業用とも個人用とも区分けの難しい支出の総額については、全体の何割かを事前に個人負担としておくとか、

税務調査で指摘されたものについて個別に個人専用と仕事専用に分けるということや、いくつかの指摘事項のうち他の事項について修正を”飲む”代わりにこれらの支出は不問となるなど、

すべてではないもののそれらの支出のある程度が会社の損金となる余地はあるというのが、実際の税務の現場だといえます。

まさに「グレーゾーン」というやつです。

では、なぜ「仕事でしか着ないスーツでも会社の経費にはならない」と税理士は言うのか?

そりゃ、建前はそのとおりだし、「本当に仕事上の特別な用事でしか着ないスーツなら、なんとか一部でも損金になるように頑張ります」と税理士が言ったのを「仕事中に着る服は全部会社の損金だと税理士も言っている」と勝手に解釈して高額のスーツやら腕時計やらなんでも全額会社の損金にしておいて「なんとか税務調査を通してくれ」と言う人がいるからですよ。

* *

税務調査で、それらの支出の損金算入が最終的に否認されるか否かは、そもそもどんな申告をしたのか、他にどんな指摘がされていたのかで変わります。

だから、どういう理由で修正に至らなかったのかは、そもそも見つからなかっただけなのか、見つかっても駆け引きの中で不問に付されたのか、あるいは、事実認定により「今回は」損金とされたのかなどそれぞれであり、他人の言う『税務調査を通った』ということが普遍的にその費用の損金算入が認められることを意味するわけじゃないんです。

なので、この記事を読んだ人が「落としたスーツ代」について税務調査でどんな結果になるかはわかりません。

それが「税務の現場」ってもんですわ。

セミナー音源No.13:どこまでならOK?税務のさじ加減