税務では判例や裁決例の数字をそのまま信じないほうがいい理由

判例を調べて思う「そんな事言われたことないわ」という違和感

税法はその対象が経済行為であるため、複雑で常に変化しており、そのすべてを法律でカバーすることができません。

それを補うように国税庁の判断の指針たる「通達」があるわけですが、それでも、まだ納税者側と税務署の見解が別れる場合には、国税不服審判所や裁判所の場に持ち込まれ、その決着点を「裁決」や「判決」という形で私たちも目にすることができます。

その中には、同じような事例なのに判断がまるっきり逆であったり、「え?そんな事言われたことはないけど」というような違和感を覚えることもしばしばあります。

そこで、今回は、裁決や判決の実務上の位置づけについて、本来は絶対的なものであるはずであるが「私はこう考えている」という個人的な話をしてみることにします。

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解釈レベルと事実認定レベルの問題

税法の取扱いで揉めているケースについては、大きく分けると二つのケースがあります。

一つは「解釈レベル」で揉めているということ。

これは、「この法律や通達の書いてあることはこういう意味である、いやこういう意味だ」という条文の解釈の問題で揉めているわけです。

もう一つは「事実認定レベル」で揉めているということ。

こちらは、条文の解釈について両者は一致しているが、「うちはこの条文に適合する事実がちゃんとある、いや、そんな事実はない」というで揉めているわけです。

ものすごくザックリというと「解釈レベル」はその条文の普遍的な考え方の話、「事実認定レベル」は今回の事案限定の話ということ。

ですから、「解釈レベル」で示された判断は、他の事案にも全て当てはまることになりますが、「事実認定レベル」で示された判断は、ケースバイケースということなのです。

裁決や判例では、まず、その法律や通達の解釈レベルでの考え方が明示され、その上で今回のケースはどうだったのよ?という個別の話が事実認定レベルで明示されることが多いです。

税務情報誌につけられた「○○の場合の損金算入を否認」などというタイトルだけを読んで判断をせず、それが同様の経済行為全てに適用される一般的な判断基準なのか、その個別事例が規定に合致しないと認められた事実なのか、区分して考える必要があるのです。

裁決・判例は公式見解なので実務よりも厳し目

そもそも、そんなに税務調査で「判例ではー」などと税務署から言われるようなことはまずなく、だいたい税理士がTAINSというデータベースから「自らの主張に都合の良い判例を引っ張ってくる」ことのほうが多いのではないかと。

その際、判例等を見ていると「いやいや、厳しすぎでしょ。さすがにそんなことは言われたことはないわ」という違和感を覚えるものもあります。

例えば、役員退職金が法人税法上損金算入される上限金額として「功績倍率」という指標が用いられるものの、この数字についてはいくつまでが適正なのか条文では明示されていません。

役員退職金はいくらまでなら払ってよいの?ー功績倍率という理不尽な基準にどう挑むのか

ただ、税務調査では、代表取締役の功績倍率が3倍以下のものは、他の要件さえきちんと満たしている限り、99%否認されることはないと言われています。

しかし、実際に、裁決例や判例を見てみると、税務署側が提示をした同業他社のデータから算出された3倍を大きく下回る「平均功績倍率」が、そのまま正しいものと結論付けられるケースが多々あります。

これは、どのように考えればよいのでしょう。

それは、判例は他の事案での判断基準にもなる公式の見解であるため、原理原則に基づいた杓子定規なものにならざるを得ないということではないかと。

「高速道路を100キロ以上で走ってもいいのか?」と警察に聞けば、「ダメです。高速道路の最高速度は100キロです」というに決まっています。

だからといって、実際に100キロを少しでもオーバーした瞬間、交通違反切符が切られているわけではありません。

一方で、150キロで走っていて速度違反とされれば、そのときは50キロの速度超過とされる。

つまり、税法は交通法規と同様、法律で定められていたとしても実際の運用では多少の”のりしろ”があるものの、目に余るような違反があれば、そのときは、”のりしろ”は無視され、当初に定められた基準で判断されるということでしょう。

ですから、裁決や裁判で出された数字が、必ずしも税務調査でのベンチマークや上限になるとは限らない。

なので、裁決例や判例は参考にはするものの、それらの検討よりも、まず税務の実務で重要なことは、

・裁判になると原理原則を持ち出されて不利になるので、税務調査の段階できちんと決着をつける

・税務署が目をつぶれないような論外の数字や論理を持ち出さず、税務の”さじ加減”を理解する

ということではないでしょうか。

本来、税務調査ってけっこう柔軟ですよ。通達や慣習的に正しいとされている処理と違うことを主張しても、それが理にかなったものならばこんな感じでちゃんと認めてくれてます。

税務調査の段階でも、税務署ときちんと解釈や事実認定で論争はできるんです。

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一方、判例を見てみると、売上除外や架空経費計上をしておきながら、無理筋の屁理屈で抗弁した結果、かえって厳しい判決となったものや、役員退職金についての功績倍率も法外な数字を用いた結果、3倍を大きく下回るもので決着をしたというものも多いです。

そりゃ、税務署も本気出すでしょ。

要するに、税務で有利な成果を出すために大事なのは「公務員として淡々粛々と仕事をしたいだけの人にわざわざ本気で仕事をする気にさせてどうするのよ」ということでしょうね。

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