投資は自己資金よりも借金でしたほうが安全なワケ|比較対象以外の前提をきちんと揃えよ

自己資金で投資をして失敗してもお金がなくなるだけ?

よく「自己資金で投資をして失敗をしてもお金がなくなるだけだが、借金をして失敗をしたら借金が残るので危険だ」と言われます。

たしかに結果はそのとおりなのですが、このことを持って「借金で投資をするほうが自己資金で投資をするよりも危険」ということになるわけじゃないです。

むしろ、金額の大きな投資をするのであれば、自己資金でやるよりも借金で投資をした方が会社としては安全です。

では、なぜ、投資は自己資金でやるよりも借金で行ったほうが安全なのか。そのことを通じて、意外と理解がされていない「正しい損得計算をするための必須要件」について話をしてみようと思います。

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投資の成功確率に資金調達方法は直接影響なし

例えば、同じ1億円の投資をするとして、自己資金で投資をしたAさんとお金がないので借金をして投資をしたBさん。

運悪く、その投資が失敗して1円も回収できなかったとしたらどうなるでしょうか?

Aさんは自己資金1億円は失いますがそれまで。Bさんは借金が1億円も残ってしまいます。

これだけを見ると、やはり、Bさんのほうが結果は悲惨であり、自己資金で投資をしたほうが安全のようにも思えます。

しかし、だからといって、自己資金で投資をするよりも借金で投資をするほうが危険だという話になるわけではありません。

というのも、AさんとBさんとでは前提条件が違いすぎるからです。

Aさんは自己資金1億円を持っているのに対して、Bさんは一文無し。前提となる財政状態が全く揃っていません。

両者の比較でわかることは「お金持ちは一文無しよりも財政状態は良い」ので、「お金を持っている人は失敗しても余力はあるが、お金のない人は失敗するとリカバリーが難しい」という当たり前のことでしょう。

決して、借金と自己資金での投資リスクを比較しているわけではないのです。

よく考えてください。

同じ投資をしたとして、そのお金を自己資金で調達した場合と借金で調達した場合で、その成功確率が変わったりしますか?

全く関係はないでしょう。

例えば、あなたが株式投資を自己資金でしようが借金でしようが、市場の値動きは一緒です。あなたが借金で投資をしたからと言って急に市場が乱高下するわけじゃないですよね。

よく「レバレッジを掛けた投資は現物の投資よりも危険」のように言われますが、それは借金のせいじゃなくて、レバレッジを掛けて投資額が大きくなったからでは。

投資額が大きくなればその分結果のブレ幅である「リスク」は大きくなるのは当然です。

100万円にレバレッジ10倍を掛けるよりも、自己資金1億円で投資をしたほうがずっとリスクは高いでしょう。

投資の成功確率や成功したときと失敗したときの成果のブレ幅である「リスク」は、どんな調達方法を取ったとしても直接は影響はありません。

あえて借金をすることで追加されるリスクは、その借金の金利が変動するリスクのみなのです。

借金の危険性は前提となる財政状態を揃えて比較を

もし、借金で投資をすることの危険度を自己資金での投資と比較することで明らかにするのであれば、そのお金の調達方法以外の前提条件をきちんと揃えることが絶対に必要になります。

このケースで言えば、Aさんは1億円の自己資金を持っていて1億円の投資をする。BさんはAさんと同じ1億円の自己資金を持っているが、あえて借金1億円をしてその1億円で投資をするのを比較しないといけないということです。

では、その状態から、両者がともにその投資に失敗したとします。

Aさんは1億円しかない自己資金がすべてなくなるので、手許のお金が底をつきその時点で倒産します。

一方、Bさんは投資の失敗で1億円は失いますが、温存していた1億円が手許に残ることになるのです。もちろん、借金も1億円残っているので、手許の1億円で借金1億円の返済をすぐに行えばその時点で同じように倒産します。

ですから、投資を自己資金でしても借金でしても結果は同じだということ。決して、「借金での投資は自己資金での投資よりも危ない」ということにはならないのです。

さらにいうと、Aさんが、お金が底をつきそうになってからお金を借りようと思っても、そんなに都合よくお金が借りられるとは限りません。投資に失敗した状態で、借金をどうやって返すのがわからないのであればなおさらです。

それに対して、Bさんは、投資に失敗したからと言ってすぐに借金全額の返済を求められたりはしません。当初の約定通りの返済をすれば良いので、その間はお金が底を尽きることはないです。その結果、その時間でリカバリーをすることチャンスを得ることになる。

つまり、自己資金全力での投資は失敗したら即倒産するのに対し、その自己資金を温存した上で借金で投資をしたら失敗してもまだリカバリーのチャンスはあるので、投資は自己資金よりも借金でしたほうが会社はつぶれにくいということになるわけです。

節税対策の効果もそれ以外の前提条件をそろえよ

意思決定による将来の「増分現金」を比較することで、その意思決定の損得計算を明らかにする学問を「経済性工学」といいます。

この経済性工学で正しい損得を把握するために一番最初にやるべきことは、「何を比較対象とするのかを明らかにし、比較対象以外の前提条件を整える」ということなのです。

これをやらないと、別の前提条件の違いをその意思決定がもたらす損得と勘違いをし、正しい損得計算ができないことになります。

しかし、これが理解されていないと思われるケースが先程の借金と自己資金での投資の比較以外にも多々あります。

例えば、かつて流行った全額損金型の保険で役員退職金の準備をするという節税対策についても、なぜか、「何もしないとき」と、「保険に加入をして役員退職金を支給したとき」の将来の資金増減を比較してしまう人があまりにも多いのです。

仮に、何もしないよりもこの節税対策をしたほうが将来の資金が増えるとしても、それは生命保険による節税効果じゃないですよ。

その資金が増えた原因は、「国が退職金に対する税負担軽減措置」を取っているからです。

別に退職金の支給は、節税保険に加入をすることではじめて認められるものではないです。

もし、その生命保険加入の節税効果をきちんと把握したいのであれば、「どちらも役員退職金は支給をする。その資金の準備を生命保険で行うか保険以外の方法で行うのか」で将来の資金増減を比較しないといけません。

結果的に、生命保険には保障機能があり、運営コスト(付加保険料)がバカ高いため、節税ありきで不必要な保障をつけたとすれば、定期積金などで準備をしたよりもまず間違いなくお金が減ってしまうのです。

要するに、その生命保険での役員退職金準備というのは、やらないよりもやるほうがトータルでお金が減ってしまうやってはいけない節税対策ということなのです。

【完全版】節税保険の「全額損金算入」にホントは節税効果なんかないことを全力で説明します。

正しい損得計算を行うための三要件

経済性工学による正しい損得計算ができるようになるには、まずは次の3つを理解する。

・何を比較対象とするかを明らかにし、それ以外の前提条件を揃える

・今からどんな意思決定をしても取り戻せない「サンクコスト」は無視する

・目には見えない”儲け損ない”である「機会損失」をも考慮する

そうすることで、巷の間違った言説や巧みなトリックに騙されることは相当減るはずなんですが。

これができていない人と議論しても不毛な議論になるだけなんですよね。

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