【規制前夜】介護保険を活用した相続税節税対策は人の道としてどうなんだ
ホワイトデーショックの影で国税庁が警告
2021年3月14日に明らかにされたため保険業界では「ホワイトデーショック」とも言われる「低解約返戻型保険の名義変更への課税強化」
3月17日に国税庁が保険会社向けの税務説明会で合わせて「介護保険のセールス姿勢」についてもその動きを注視しているとされています。
そこで、今回は、規制前夜と言っても良い「介護保険による相続税節税プラン」についてまとめてみることにします。
介護保険相続税節税プランの仕組み
介護保険金や入院保険金など自分の身体に痛みを伴うことで支払われる保険金は、所得税法上非課税とされています。
これは、身体に痛みを伴うこととなった「被保険者」だけでなく、その介護・入院費用を負担するであろう家族が保険金を受け取ったときも同様に非課税とされています。
疾病により重度障害となった者以外の親族が保険金の支払を受けた場合
本来であれば、保険は自分ひとりではカバーできない損失を補うために加入すべきものです。
しかし、これらの保険に生じるであろう損失よりも明らかに大きな保障を掛けて”運良く”保険事故が発生した場合、被保険者やその家族は受取保険金と介護等の実費相当額の差額だけ非課税で利益を得ることができてしまいます。
軽度の介護など高齢者であれば比較的高い確率で生じる保険事故に対して数億円程度の保険金が支払われるものもあり、高額の保険料を支払って手持ちの現金を介護保険の保険料に形を変えておき、保険事故が発生した場合には、家族が生前に非課税でお金を受け取ることによって相続税が節税できるということを謳う者も出てきているのです。
この節税対策の成功は不幸を願うこと
保険というのは、保険事故が起きたときにはお金がもらえ、保険事故が起きなかったときにはお金が没収されるという不確実な事象を予測する「ギャンブル」です。
そして、その制度維持のためのコストを賄うための「付加保険料」といういわば”テラ銭”を支払うのですが、それがものすごく高く、競馬と同じくらいか中には宝くじ並やそれ以上になるものもあります。
つまり、ギャンブルとして保険は非常に不利なんです。ですから、そんなカンタンに保険加入で”儲かる”はずはありません。保険会社はちゃんとトータルで損をしないように設計をしています。
それなのに必要保障額を遥かに上回る保険金額の介護保険を「相続税の節税になる(かも)」といって販売をするのは人の道としてどうなのでしょう。
保険加入者である家族も自分や親が認知症になることを期待するというのもいかがなものかと。
実際に親が認知症になった家族からしたら「金はいくらでも支払うから親を元通りにしてよ」と言いたくなるほど、認知症は本人はもちろん家族にも過酷なものです。
そして、認知症の介護には信じられないくらい多額のお金がかかります。
公的保障の介護保険や公的年金はありがたいものですが、公的保障でカバーできそうな料金では、すぐに入居できる施設は見つからず、中にはまともに仕事ができず多大な経済的なダメージを家族が受けることもあります。
すぐにでも入居できる民間の有料老人ホームに入居させると、今度は一人で月に40-50万円もの費用がかかるのです。
これでは本人の公的年金では賄えず、家族が差額を負担する場合、長期間の入居ではとても一般の人が給与から支払える金額ではなくなります。
ですから、それらのリスクをカバーするために民間の介護保険に加入をすることを否定をするものではありません。
「一人では保障できないリスクをカバーするための保障」は、少額の負担でどうやっても0にはできないリスクへの不安をなくすことができる極めて有用な制度です。
しかし、「自分や親が認知症になることで相続税が軽減されるから必要保障額以上の介護保険に加入する」という発想は個人的には受け入れがたいもので、もし本当にそういう考えでの加入は明らかに保険の本来の機能とは異なる歪んだ保険活用だと言わざるを得ないのです。
今回の低解約返戻金型保険の名義変更についての規制と同時にこの介護保険についてもなんらかの規制がされるのかはまだ決まっていません。
ですが、遅かれ早かれいずれ何らかの規制がされる確率は相当高いでしょう。
なにせ、一説には、抜け道を塞ぐどころか「身体を起因として支払われる保険金は、受け取るのは本人でなくてもその配偶者などの親族でも非課税」という所得税基本通達9-20自体を「当該通達の存在意義も問われることも留意」と強く釘を刺されたといいます。
これでホントに「身体障害を起因とする保険金を家族が受け取った場合にも非課税」というルールごと変更されたとなれば、「マンション消費税還付」のイタチごっこの末に、「1000万円以上の居住用家屋は全部消費税の仕入税額控除の対象外」となり、全く関係のない者までとばっちりを受けたのと同じ大迷惑な結果にもなりかねません。
憲法で保障された「納税者の将来予測可能性を確保」するためにも、税制上過去にさかのぼっての規制がれることはまれです。
しかし、国税庁が保険業界に対して何度も警告を発しながら、さらなる抜け道を探すかのようして、損をする確率が高いのに「相続税の節税にもなる」といって不相当な保障額の介護保険を売るのであれば、いっそのことバンバン遡及して保険代理店もそして「親が認知症になることで得をすることに賭けた」加入者も痛い目にあっていいんじゃないでしょうかね。
介護保険金で「節税」の新手法、国税庁が生保業界にクギ|朝日新聞
国税庁が「名義変更プラン」「介護保険金」にメス!ホワイトデーショックの深層|ダイヤモンド・オンライン
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