インボイス制度下でETCによる高速料金の仕入税額控除はどうなるの?

インボイス制度下での仕入税額控除には適格請求書が必要

2023年10月から消費税法にインボイス制度が導入されます。

インボイス制度になると、消費税納付額の計算上、課税売上に伴い受け取った消費税から課税仕入に伴い支払った消費税を控除(仕入税額控除)することができるのは、登録した適格請求書発行事業者(適格事業者)が発行した適格請求書(インボイス)に記載された税率・税額によるものとされます。

その適格請求書には、一定の事項の記載が必要ですが、では、ETCによる高速道路の利用料金については、どうすれば仕入税額控除が可能になるのでしょうか。

そこで、今回は、高速道路料金の仕入税額控除の要件についてまとめてみようと思います。

仕入税額控除に必要な適格請求書等の記載事項

(1)適格請求書

消費税の仕入税額控除が可能な、適格請求書には、次の事項が記載されていることが必要です。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

② 課税資産の譲渡等を行った年月日

③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減税率対象の場合である場合その旨)

④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率

税率ごとに区分した消費税額等

⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

(2)簡易インボイスへの記載事項

しかし、小売業など不特定多数の顧客に対して事業者については、スピーディに決済が必要な事情を考慮し、よりシンプルな簡易適格請求書(簡易インボイス)の発行が認められています。

高速道路の利用料金もこの簡易インボイスで良いことになるでしょう。

簡易インボイスに最低限記載すべき事項は以下のとおりです。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

② 課税資産の譲渡等を行った年月日

③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減税率対象の場合である場合その旨)

④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額

⑤ 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

適格請求書の記載事項|国税庁

インボイス制度での適格請求書の保存

仕入税額控除を受けるためには一定期間適格請求書の保存が必要です。

その保存方法は、その適格請求書をどのように受取り、どのようなデータの形式で保存するのかにより異なります。

(1)料金所で現金・クレカで支払った場合

料金所で、現金により高速道路の利用料金を支払った場合には、その料金所で交付される領収証(簡易適格請求書)を保存することで仕入税額控除を受けることができます。

また、クレジットカードで決済がされた場合には、クレジットカードの「利用証明書」を保存することで、仕入税額控除を受けることができます。

(2)ETCでゲートを通過した場合

ETCゲートを通過すれば、高速道路の利用用金は自動で決済され、登録したクレジットカードの利用として後日預金から引き落としがされます。

この場合には、ゲートで一々、高速道路の領収証(簡易適格請求書)は発行されません。

では、このETCを利用した場合、消費税の仕入税額控除はどうなるのでしょう?

ETCでゲートを通過した場合には、各クレジットカード会社は、WEB上の「ETC利用照会サービス」で電子インボイスを交付する予定とのことです。(税務通信No.3713)

この「ETC利用照会サービス」では、一定期間におけるETCの利用について「利用証明書(PDF形式)」の電子データを保存、出力することができ、その利用証明書が電子適格簡易請求書の必要事項を満たす模様。

要するに、ETCゲートを通過した場合には、一定期間ごとに、WEB上の「ETC利用照会サービス」において「利用証明書」を保存することで、高速道路料金について仕入税額控除を受けることができることになるでしょう。

では、どのようにして、この利用証明書を保存すればよいのか。

これは、法人税・所得税と消費税で取り扱いが異なります。

このWEB上からダウンロードできる「利用証明書」は「電子取引」として取り扱われ、改正電子帳簿保存法では、法人税・所得税法上の所得計算上損金ないし必要経費として控除をするためには、紙に印字しての保存が認められません。*(令和6年1月以降)

しかし、消費税の仕入税額控除のためには、従来どおり紙に印字しての保存は可能です。

ですが、消費税の仕入税額控除のみをして、法人税・所得税の損金・必要経費算入はしないということは考えにくいので、一般的には、これらのETCゲートを通過した時の利用料金については、WEB上の「ETC利用照会サービス」から「利用証明書」をダウンロードし、「電子データ」としての要件を満たす一定の改ざん防止措置を講じた形式での保存が必要になるということでしょう。

*令和6年以降も「人手が足りない、資金不足など」の理由により電子取引データの改ざん防止措置を講じられない場合には、データをそのまま保存することが可能です。

「電子取引」とは

(1)電子データ交換によるEDI取引
(2)インターネット等による取引
(3)電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)
(4)インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引

「電子データ保存」とは

次の(1)(2)(3)(4)をすべて満たす必要がある

(1)改ざん防止措置
・タイムスタンプ付与
・履歴が残るシステムでの授受・保存
・改ざん防⽌のための事務処理規程を定めて守る
のいずれか

(2)「⽇付・⾦額・取引先」で検索可能に
・専⽤システムを導⼊
・索引簿を作成
・規則的なファイル名を設定する
のいずれか

(3)ディスプレイ・プリンタ等を備え付け

(4)システム概要書を備え付け

なお、クレジットカード会社がそのカードの利用者に一定期間ごとにその利用内容の明細を交付する請求明細書等は、そのカード利用者である事業者に対して課税資産の譲渡等を行った他の事業者が作成・交付した書類ではありませんから、適格請求書とはなりません。

カード会社からの請求明細書|タックスアンサー

国税庁が柔軟対応を明記(2023.9.16追記)

導入直前になって、国税庁は、事務負担に不安を抱える事業者に対して、当面の間は「柔軟な対応をする」との考えを明記しました。

それを具体的に受ける形でこの9/15に「お問合せの多いご質問」にこのETCのインボイスの取り扱いを追記しました。

利用証明書については、クレジットカード利用明細書の受領ごとに(毎月)取得・保存する必要はなく、高速道路会社等が適格請求書発行事業者の登録を取りやめないことを前提に、利用した高速道路会社等ごとに任意の一取引に係る利用証明書を令和5年10月1日以後、一回のみ取得・保存することで差し支えありません。

お問い合わせの多いご質問|国税庁

要するに、毎回利用証明書をダウンロードする必要はなく、同じ高速道路会社であれば、一度利用証明書を取って保存すれば良いということになりました。

まあ、それ以前に、岸田首相が財務大臣に「事業者の視点に立って、柔軟な運用を」と指示しているわけで、税務調査で悪質でもない軽微な適用の誤りについては、指導に留められ、修正までは求められないとは思いますけどね。

これまでの税務調査の対応を見ていれば、その匙加減は想像できるというものです。

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