インボイス制度下での免税事業者への支払いに対する源泉徴収税額の計算
目次
インボイス制度導入による源泉徴収への影響
令和5年10月より、消費税にインボイス制度が導入されました。
これまでは、消費税の納税額の計算上、相手を確認することなく認められていた仕入税額控除が、インボイス制度では、登録した適格請求書発行事業者(適格事業者)の発行するものしか控除ができません。
仕入税額控除が、一つの商材について消費税の重複した納税がされるのを排除するためのものですから、消費税の納税をしていない免税事業者からの仕入れについては、当然控除ができないわけです。
では、インボイス制度下では、免税事業者に支払う報酬についての源泉徴収税額は、どのように計算をするのでしょうか?
今回は、インボイス制度で免税事業者への支払いについての源泉徴収は変わるのかという点についてまとめてみようと思います。
個人事業主への一定の報酬については源泉徴収が必要
居住者に対し、国内において、報酬・料金等の支払をする者は、その支払の都度、一定金額の所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。
しかし、その源泉徴収が必要な報酬・料金等は以下のものに限定がされています。
1.原稿料や講演料など
2.弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3.社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4.プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5.映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6.バンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
7.プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8.広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
このいずれにも該当しないものであれば、源泉徴収は不要なのですが、この判定が難しい。
一口に「原稿料・講演料など」といっても、そこに含まれるものには、
(1)原稿料
(2)挿絵の報酬
(3)写真の報酬
(4)作曲の報酬
(5)レコード、テープ又はワイヤ ーの吹き込みの報酬
(6)デザインの報酬
(7)放送謝金
(8)著作権の使用料
(9)著作隣接権の使用料
(10)工業所有権等の使用料
(11)講演の報酬・料金
(12)技芸、スポーツ、 知識等の教授・指導料
(13)脚本の報酬・料金
(14)翻訳の報酬・料金
(15)通訳の報酬・料金
(16)校正の報酬・料金
(17)書籍の装丁の報酬・料金
(18)速記の報酬・料金
(19)版下の報酬・料金
(20)投資助言業務に係る報酬・料金
があります。
その上、これらに該当するかどうかの判定についても、例えば、Webサイトの制作を依頼した場合、会社が用意した記事原稿等をベースにしたWebサイトのコーディング(Web配信用データ作成)やデータベース機能構築等のプログラミング、SEO対策(検索エンジン最適化)の報酬であれば源泉徴収は不要であり、Webメディア向けに記事原稿を書いた報酬やWebサイトのデザインやイラスト作成報酬については源泉徴収が必要となるなどなんとも面倒くさいわけです。
そのため、税務調査でグダグダ言われるくらいならと、実務上は「悩んだら源泉徴収しておく」ということが多いのではないでしょうか。
源泉徴収された側も確定申告でどうせ取り戻せますからね。
源泉徴収税額と消費税額の関係
これまでも、報酬等については、請求書上、消費税を含めた総額のみが記載されるものと、本体価格と消費税が区分して記載されているもののどちらもありました。
では、源泉所得税は、どちらの金額をベースにして計算をするのでしょうか?
原則としては、その消費税相当額を含めた総額を報酬額として源泉徴収税額を計算します。
しかし、例外として、消費税額が本体価格と明確に区分されている場合には、本体価格を報酬額として源泉徴収税額を計算することができるのです。
インボイス下での免税事業者の請求書
では、インボイス制度になると免税事業者は、請求書に「消費税等」を区分して記載することができるのでしょうか。
インボイス制度により、免税事業者への支払いについては、支払う側で消費税の仕入税額控除ができなくなるわけですが、法律で免税事業者が消費税を上乗せした請求をすることが禁止されるわけではないです。
ですから、インボイス制度になっても、免税事業者がこれまで通り「消費税等」と区分した請求書を送付してくることもありえます。
では、このようなケースでは、源泉徴収税額は、どの金額をベースに計算がされるのでしょう。
インボイス制度になると、免税事業者との取引金額については、消費税は含まれていないと考えます。
そのため、令和11年9月30日までの6年間は、免税事業者などインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、経過措置の適用により一定割合(80%又は50%)が仕入税額控除の対象となりますが、法人税の課税所得の計算上は、残りの仕入税額控除ができない部分(仕入税額控除不可部分)を取引の対価の額に含めなければなりません。
そのため、「交際費の飲食代一人5,000円」ルールや「少額減価償却資産」の判定についても、自身が税抜経理を採用している場合には、これらの仕入税額控除不可部分を加算した金額で判定が必要というなんとも面倒なことになっているのです。
インボイス制度になっても源泉徴収の考え方には変更なし
しかし、源泉所得税の取り扱いについては、インボイス制度になっても変更はありません。
つまり、源泉徴収が必要な報酬等について、免税事業者であっても、これまで通り、原則はその支払総額をベースでにして源泉徴収税額を計算するが、あえて本体価格と消費税等を明確に区分している場合には、本体価格をベースにして源泉徴収税額を計算することができるということです。
まあ、これだけインボイス制度について周知された上で、免税事業者のままでありながら、「消費税等」とわざわざ区分した請求書を送ってくる事業者がどれくらいいるのかはわからないですけどね。
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