生命保険損金算入制限の道連れでされた短期払がん保険・医療保険の節税規制

生命保険による節税対策の封じ込め

好景気が来るたびに節税ニーズは盛り上がり、保険としての機能を無視した前払保険料を生み出すことに主眼をおいた保険商品が開発されては、その損金算入について規制がされるというイタチごっこを繰り返しています。

日本生命のプラチナフェニックスに端を発した今回の節税生命保険狂想曲も、既契約へのさかのぼりはないものの新規契約について、「実質返戻率」というまやかしの数字が100%を超えない水準まで損金算入に規制がされました。

今までは、個別の節税保険スキームについて規制をするという対応でしたが、今回は、保険料の支払いについてまとめて見直しが。

そのため、当初、保険会社が懸念していた生命保険だけでなく、がん保険・医療保険による節税も一緒に封じ込められることになったのです。

そこで、今回は、通達改正で規制されたがん保険・医療保険の短期払い節税についてまとめてみようと思います。

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がん保険・医療保険短期払い節税のスキーム

解約返戻金等のない「がん保険・医療保険」(第三分野保険)については、支出時にその保険料の損金算入が可能と個別通達で定められていました。

ならば、保険料の払込期間を短くして保険料の前払いをすることで、支出時に損金算入される金額も大きくなり、その分、法人税の負担が軽減される。

その上で、払込完了後に会社から社長個人に名義変更をすれば、社長はお金を負担することなくがん保険・医療保険の効果を享受できるというメリットが「がん・医療保険の短期払いスキーム」にはあったのです。

(会社から個人への売却価格は解約返戻金相当額とされていますが、解約返戻金はほとんどありません)

支出時損金算入は年30万円以下に規制

そこで、がん保険についての個別通達は廃止され「解約返戻金のない短期払の定期保険または第三分野保険」の取扱いが新設されました。

これでいいのか節税保険封じ込め規制|定期保険等に対する解約返戻率ごとの損金算入時期制限

新通達では、2019年10月8日以後の契約については、解約返戻金のないがん保険・医療保険は、支払った保険料が年間30万円以下のもののみ支出時に損金算入となったのです。

なお、保険料が年間30万円であるかの判断基準については、FAQで次のように明示がされています。

当該事業年度に支払った保険料の額が30万円以下か否かについては、特に次の点に留意する必要があります。

① 一の被保険者(例えば、代表取締役:甲)につき、法基通9-3-5の(注)2に定める「解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険」に複数加入している場合は、保険会社やそれぞれの保険契約への加入時期の違いにかかわらず、その全ての保険について当該事業年度に支払った保険料の額を合計して判定することとなります。

したがって、例えば、年払保険料20万円の無解約返戻金型終身医療保険(払込期間30年)と年払保険料100万円の無解約返戻金型終身がん保険(払込期間5年)に加入して当該事業年度に保険料を支払った場合、いずれの保険料についても、同通達の(注)2の取扱いは認められず、それぞれの保険期間(保険期間の開始から116歳までの期間)の経過に応じて損金算入することとなります。

なお、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含みます。) のみを被保険者としている場合で、その保険料の額が当該役員又は使用人に対する給与となるものは、判定に含める必要はありません。

② 事業年度の途中で「解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険」の追加加入又は解約等をした場合の取扱いは次のとおりです。

最初に加入した定期保険又は第三分野保険の年払保険料の額が30万円以下で、事業年度の途中で追加加入した定期保険又は第三分野保険について当該事業年度に支払った保険料の額との合計額が30万円超となる場合には、当該事業年度に支払ったいずれの保険料についても、同通達の(注)2の取扱いは認められず、それぞれの保険期間の経過に応じて損金の額に算入することとなります。

反対に、2つの定期保険又は第三分野保険に加入している場合で、事業年度の途中に一方の保険を解約等したことにより、当該事業年度に支払った保険料の合計額が30万円以下となるときには、当該事業年度に支払った保険料の額を当期の損金の額に算入することができます。

③ 改正通達の適用日前に契約した「解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険」に係る支払保険料の額は判定に含める必要はありません。

つまり、「支払保険料年間30万円以下」というのは、被保険者ごとですので、年30万円以下の保険料の契約に分ける意味はない。逆に被保険者が複数であれば、それぞれの被保険者の数だけ損金算入は可能ということです。

ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含みます。)のみを被保険者・受取人としている場合には、その保険料の額は当該役員又は使用人に対する給与となります。

そもそもがん保険や医療保険を社長がもらってうれしいのか?

そもそも、いくら法人の利益を繰り延べることができるとしても、その見返りが、社長は保険料の負担をすることなくがん保険・医療保険がもらえるってそんなにうれしいことなんですかね?

このがん保険・医療保険は、制度維持のためのコスト(付加保険料)が高い保険です。その付加保険料は全体の2-7割にも及ぶと言われています。

社長が本当にその保険がなければ治療費の支払いの困窮するのであれば必要なものですが、そうでなければ、期待値は大きくマイナスとなる割の悪い保険なのです。

それが、「法人税の節税になる」という言葉に惑わされて、別に大して必要でもないものに浪費して一体何がしたかったのでしょう。

「会社が払った」といっても、オーナー社長にとっては自分のお金と変わらないですから。

今後、別の節税保険が売り出されたときには、本当にその保障が必要なものなのか冷静に考えてみたほうが良いのではないでしょうか。

まあ、そのときは、また熱にうなされたようにいくら止めても加入するんでしょうけどね。

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