【驚愕!?】インボイス制度になると事務コストが年4兆円もかかるのw?

インボイス制度導入により事務負担は増える

いよいよ令和5年10月から消費税にインボイス制度が導入されます。

これまで、支払う相手を確認することなく消費税の課税対象の取引であれば消費税の仕入税額控除が可能であったものが、インボイス制度になると、登録をした適格事業者からの仕入等しか消費税の控除ができなくなります。

その結果、消費税の納税をしていない免税事業者からの仕入等について仕入税額控除ができなくなるとともに、仕入等について、相手が登録をした適格事業者であるかどうかの判定をする必要があるわけです。

インボイス制度については、免税事業者を中心に反対論が根強い中、なんと、「インボイス制度導入によりコストが年で4兆円も必要になる!」という椅子から転げ落ちそうな記事を目にしました。

結論は、「そんなわけないだろwww」ということなのですが、またこの数字が独り歩きして、一度も消費税の申告をしたことのない人から「税理士のくせに何もわかってない!」と言われることのないよう、インボイス後の事務負担なんか実際はこんなもんだろという話をしていきます。

レイヤーXがシミュレーションの結果から手作業での事務負担を試算

「バクラク」というクラウドベースの経費精算システムを開発するレイヤーX社が、自社が作成したインボイス制度下での事務負担を体験できるシミュレーションを使った研修を行い、その結果から、インボイス制度による事務負担増がどれくらいあるのかを試算したようです。

経理1人あたり約1〜2営業日分/月、日本全体で約1.4億時間/月の業務負担が新たに発生〜人件費に換算すると、日本全国で毎月約3,413億円分の“インボイス対応コスト”が発生する可能性〜

【調査】10月以降は「インボイス残業」が発生の見込み。インボイス制度に伴う企業の追加業務負担を算出|レイヤーX

サマリー

1. 制度対応で、請求書支払処理15分、経費精算処理5分の作業が増加(1件あたり)

2. 制度対応により増える企業の業務負担は、経理1人あたり約1〜2営業日分/月、従業員(非経理)1人あたり約7分/月

3. 日本全国で人件費として毎月約3,413億円の”インボイス対応コスト”が発生する可能性

4. インボイス制度対応により増える主な業務

正直、どんなシミュレーションで、どんな作業をさせてのものなのかがわからないのですが、要するに「手作業」でインボイス制度が要求する作業をやると、今よりも、請求書支払いでは1件15分、経費精算では1件5分も余計に作業に時間を要するようになったということのようです。

そこから導き出されたインボイス制度による事務負担増は日本全体でなんと約3,400億円にもなると。

それがITMediaなどに転載されSNS上で話題に。

10月以降「インボイス残業」発生へ 人件費「全国で月3400億円分」増加か LayerX試算|ITMedia

さらに、それが拡大解釈されたのか、FLASHでは「年間で4兆円ものコスト」になると。

いやー、経理部門には大特需じゃないですか。もし、ホントなら、来年のGDPはインボイスのおかげで4兆円も増えちゃいますね。

「まじで殺しにきてる」10月開始のインボイス制度、2500億円税収増にかかるコストは年4兆円…「生産性激落ち」で批判殺到|FLASH

これには、「うちのシステムを導入すれば、こんなにも事務負担が減りますよ!」と言いたかっただけのレイヤーXも焦っているのではないかと。

ソフトウエアのバージョンアップのみで省力化は十分可能

当然のことながら税理士は、すでにインボイス導入を見越して、そのためのワークフローの検討やベンダー各社が出しているインボイス制度対応の機能について検証はしているわけですね。

その中でいうと、インボイス制度になったからと言って、一体どういう作業をすれば、請求書1件につき15分も今以上に作業に時間がかかる理由が良くわからないんですよ。

よく見ると「*請求書の支払処理時間には発注前の新規取引申請、発注稟議の作業を含む」とか、毎回発生するわけもないものが含まれているようだけど。

シミュレーションでは、経理担当者だけでなく、従業員、申請者、承認者を経由するようですが、請求書の支払申請や振込の申請承認のフローは、別にインボイスになったところで何もかわらないでしょ。

なにせ、インボイスは消費税の仕入税額控除の問題だから、そのための経理処理と申告にしか影響はないわけです。

確かに、インボイス制度になれば、消費税額と消費税率、そして適格事業者の登録番号の有無を確認しなくちゃいけない。

さらに、その適格事業者の登録番号は真実のものなのかを確認するためにも、一つ一つの請求書や領収証について、公表サイトに13桁の番号を入力してその登録番号の「真偽」を確認しないといけないわけ。

ただ、ホントにそこまでやったとしても、1件で15分も余計にかかりますかね?

そんなにかかるなら、そのクラウドシステムがおかしいのでは。

1件だけ何も教えずにやらせたのであれば、百歩譲ってそれくらい時間がかかったのかもしれませんが、経理担当者を始めとする作業者が、いつまでもその作業について習熟しないはずはないでしょ。

請求書が100件で、15分×100件=1,500分、つまり25時間もインボイスになることで「会計ソフトの入力作業」の時間が増えるってことですよ。

この時点で、経理実務経験があれば、さすがにおかしいと気がつくのではないかと。

今だって、その規模の会社だったら、会計入力作業全体でもそんなに時間かからんでしょ。

一度でも、インボイス制度対応の会計ソフトについて利用をしてみればわかるはずですが、大規模小売業や飲食チェーンであれば、消費税額と本体を分けて二回入力をする「積上計算」を選択せざるを得ないものの、それ以外の事業者であれば、入力については、従来どおりの「割戻計算」という消費税込の総額を一回入力するだけで、消費税が自動計算できます。

インボイス制度での消費税額計算方法の変更|割戻計算と積上計算

つまり、割戻計算を選択するであろう多くの事業者であれば、増える手間としては、今までなかった適格事業者かそうではないのかという判定のコードを入力するだけです。

それも、継続的な取引をする免税事業者がいれば、科目設定のところでデフォルトを「消費税控除不可」として設定しておけば、後は自動で判断してくれます。

弥生会計がインボイス対応になったのでどれくらい事務負担が増えるのか検証してみた

それなのに、この処理一件に15分も余計に時間かかりますかね?

国税庁は制度の定着を図るために柔軟な対応をすると明言

「いや、公表サイトで一件一件、登録番号がホンモノかどうかを確認しなくちゃいけないだろう」

ホントにそんなことやるんですか?

すでに国税庁は、継続的な取引であれば、初回だけインボイス番号の真偽を確認すれば、一回一回確認する必要はないと言っています。

【インボイス】ホントに取引の都度、登録番号を公表サイトで確認をする必要はあるの?

その上、インボイス制度後の税務調査の適用として、「これまでも保存書類の軽微な記載不備を目的とした調査など実施していない。」「まずは制度の定着を図ることが重要であり、柔軟に対応していく」とまでいってるわけですよ。

インボイス制度の周知広報の取組方針等について|国税庁

つまり、実務的な対応としては、経費精算のような少額なものについて、一々公表サイトで登録番号の真偽まで確認することまでは国税庁も求めてないということが伺えます。

そもそも原則課税の事業者は全体の25%しかいない

それに3,400億円の計算根拠で大いに疑問なのは、すべての事業者に、この買い手としてのインボイスの事務負担を求めていることです。

この処理が必要なのは、消費税の納税額の計算において、受け取った消費税額から支払った消費税額を控除した金額とする「原則課税」を選択している事業者のみです。

仕入税額控除を概算で計算できる簡易課税を選択した事業者や消費税の申告義務のない免税事業者は、当然インボイスになっても買い手としての事務負担は一切増えないんです。

では、どのくらい免税事業者や簡易課税事業者がいるのか。

実は、全事業者のうち約60%や免税事業者であり、残りの課税事業者のうち約1/3は簡易課税を選択しています。

つまり、原則課税により申告をしている事業者というのは、全体のわずか約25%しかいないんですよ。

もちろん、人数比では原則課税である大手企業に従事する人はこれよりは多いとは思います。

それでも、大手企業のみならず、零細事業者にまで適用して全体のコストを計算をするのはおかしいでしょう。

それに、原則課税を適用する事業者というのは、そのほとんどが課税売上高が5,000万円を超える事業者なわけです。

それが、なぜ、そんなに無駄な時間のかかる「手作業」をいつまでも選択しなくてはいけないのか。

まともな会計ソフトであれば、各社競い合うようにしてインボイス制度への対応と省力化のための機能を携えているわけでしょ。

今もそれらを使ってるわけだから、バージョンアップして、その新しい機能が効果を発揮できるようきちんと初期設定に時間をかければいいじゃないですか。

なにせ「バクラク」は「一切の手作業をしない」というのが売りで、「使えば従来の8割も時間短縮になる」と自分が言ってるわけですから。

要するに、この調査レポートは、「これだけ事務負担が増えるインボイス制度だけど、うちのシステムを使えばこんなに時間もコストも浮く」とその効果をより大きく見せようするために、その時間コストを過大に見積もった「マッチポンプ」なわけです。

私だって、インボイス制度は面倒くさくて、嫌で嫌で仕方がないですが、この数字を持ち出して、インボイス制度反対の論拠にするのは、信頼性を失うので悪手だと思いますね。

最初はバタつくが、1年後には誰も話題にしてないのでは

インボイス制度が導入されれば、当初は間違いなく混乱します。その対応のために、経理担当者やシステム担当者が残業を強いられることも十分予想されます。

その部分を探し出してきた「インボイス制度で大混乱!」という記事が、マイナ保険証のように溢れるかもしれません。

しかし、それも恐らく数ヶ月のことであり、多くの事業者では、1年後にはまるで何もなかったように経理処理をしていると予想しています

なにせ、免税事業者が課税売上高3,000万円から1,000万円の引き下げられたときも、「小規模事業者に消費税の申告などできるわけがない、大混乱が起きる!」と言われて、税理士も「あー、今年からは、確定申告の当番が増えるだろうな」と覚悟していたものの、何もなかったですから。

軽減税率の時だってそう。確かに事務負担は増えましたけど、今じゃ、普通にみんな経理も申告もしてるじゃないですか。

そもそも、軽減税率って、一々、コンビニの領収証の中から飲食代を抜き出して区分した経理なんかしてますかね?

実際には、もっと”割り切った”経理処理をしているはずでは?

なんで、急に今までやったこともないようなレベルの厳格な経理処理をインボイスだけやる前提になってるんですか。

こういう記事が増えると「色々な情報が入ってきて、何をすればいいのかわからない」とお客様が不安に思うので、中小企業だったら、今は「とにかく会計ソフトをバージョンアップして」とだけお伝えしておきます。

後は、やってるうちに生じた疑問について、その都度解決していけば、それで十分。

諸外国に比べてユルユルの「なんちゃってインボイス」なのに、いくらなんでも年間で4兆円も事務負担なんか増えやしませんよ。

◾追記 2023/09/24

調査レポートを発表したレイヤーX社がAbemaTVの取材に対して、以下のように実質的に私の指摘通りのコメントをしております。

まあ、インボイス反対派は、都合良く切り取って拡散しちゃってるので、今から訂正しても聞く耳は持たないでしょうけど。

「あくまでも『月間でこれくらい増えますよ』という話であって、“年間4兆円”のような話は一切していない。(従業員の)慣れであったり、会計ソフト側の対応だったり、もしくは我々のようなシステムベンダーの方のアップデートといった部分も、インボイス制度が進むごとにされていくと思うので、その部分は考慮に入れてない」

「全ての会社が新たにシステムを入れる必要はない。その上で適切な対応の準備を進めるきっかけになればいいと思っている」

インボイス対応コスト毎月3400億円は本当か? 試算した会社に聞くと…「年4兆円とは言っていない」|AbemaTimes

セミナー音源No.31:知らなきゃ大損!インボイス制度への最適解