これで学生アルバイトの働き控えは、ほぼ解消される|特定親族特別控除の概要
目次
やっと令和7年度の税制改正が成立
すったもんだの挙げ句、3月31日に参議院で令和7年度の税制改正に係る法律が可決・成立。改正法は原則、4月1日に施行されました。
国民民主党の掲げた大幅な基礎控除の引き上げは実現しなかったものの、学生アルバイトの「働き控え」を解消するとして導入をされた「特定親族特別控除」は、働く現場としては、とても有意義なものと言えます。
そこで、今回は、新たに創設された特定親族特別控除の内容についてまとめてみようと思います。
令和7年度の人的控除の改正について
全員一律に基礎控除を123万円に引き上げ、いわゆる「年収の壁」を178万円にするという国民民主党の案は実現しませんでしたが、自民党の裏金問題により自公与党が過半数割れとなったことで、ゼロ回答というわけにもいかず、所得税の人的控除について以下のような金額の引き上げがなされました。
基礎控除引き上げ
(1)合計所得金額が2,350万円以下である個人の控除額を10万円引き上げ
*令和7年分以後の所得税について適用する。住民税には適用はない
(2)所得に応じて基礎控除の額を加算する「基礎控除の特例」を創設
上記の(1)(2)を合わせた加算後の基礎控除額は以下の通りになる
合計所得金額 | 給与収入のみ | 基礎控除の特定加算額 | (1)(2)加算後基礎控除額 |
132万円以下 | 200万円以下 | 37万円 | 95万円 |
132万円超 336万円以下 |
475万円以下 | 30万円 | 88万円 |
336万円超 489万円以下 |
665万円以下 | 10万円 | 68万円 |
489万円超 655万円以下 |
850万円以下 | 5万円 | 63万円 |
655万円超 2350万円以下 |
2545万円以下 | – | 58万円 |
*なお、132万円以下の基礎控除の額の加算は恒久措置だが、それ以外の加算は、令和7年分及び令和8年分の時限措置とされる。
出典|基礎控除の特例の創設について(自民党)
給与所得控除最低保証額の引き上げ
(1)給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げ
*令和7年度分の所得税及び令和8年度分の住民税から適用
*給与所得社全員の給与所得控除が引き上げられたわけではない。最低保証額が引き上げられただけで、そもそも65万円以上の給与所得控除であった給与収入190万円以上の者については、何ら変更はない。
これらの改正により、給与年収160万円までは、所得税の課税はないものとされました。
扶養控除の合計所得金額要件引き上げと特定親族特別控除の創設
(1)扶養親族の合計所得要件引き上げ
扶養親族について、扶養控除を受けられるための本人の所得要件について、合計所得金額58万円以下(現行:48万円以下)に引き上げられました。
扶養親族とは16歳以上の生計を一にする親族で、合計所得金額が上記の金額以下の者のことです。
なお、大学などの学費が多く掛かるとの理由から19歳以上23歳未満の親族は「特定扶養親族」として、扶養控除の金額が割増されています。
これまでは、扶養親族本人の給与収入が103万円(給与所得控除55万円+合計所得金額48万円)を超える場合には、その扶養をする者は、一気に「特定扶養控除」(63万円)が適用できないため、学生などのアルバイトは、親からの要請により、給与収入103万円以下で働こうとすることが多かったわけです。
それが、合計所得金額の要件が58万円に引き上げられ、給与所得控除の最低保証額が65万円に引き上げられたことから、給与収入123万円までは、親の扶養親族となることができるようになったわけです。
(2)特定親族特別控除の創設
しかし、これだけでは、扶養親族となる学生の年収が一定金額を超えた場合に、世帯全体の手取りが減る「働き損」が解消されるわけではありません。
単に、その「年収の壁」の金額が、給与収入103万円から123万円へ引き上げられただけです。
そこで、さらに、合計所得金額58万円(給与収入123万円)を超えたとしても、学生アルバイトがより多く働くと世帯年収が減る「働き損」を解消しようと、段階的に控除額が逓減していく「特定親族特別控除」を創設しました。
「特定親族」とは、その年の12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満で、合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入123万円超188万円以下)の者であり、青色事業専従者ではなない者のことです。
特定親族については、その合計所得金額により、以下の「特定親族特別控除」が適用されます。
合計所得金額 | 給与収入のみ | 特定親族特別控除 |
58万円超 85万円以下 |
150万円以下 | 63万円 |
85万円超 90万円以下 |
155万円以下 | 61万円 |
90万円超 95万円以下 |
160万円以下 | 51万円 |
95万円超 100万円以下 |
165万円以下 | 41万円 |
100万円超 105万円以下 |
170万円以下 | 31万円 |
105万円超 110万円以下 |
175万円以下 | 21万円 |
110万円超 115万円以下 |
180万円以下 | 11万円 |
115万円超 120万円以下 |
185万円以下 | 6万円 |
120万円超 123万円以下 |
188万円以下 | 3万円 |
*上記の改正は、令和7年分以後の所得税、令和8年度の住民税(控除額は異なる)について適用
制度が複雑であり正しく告知することが重要
扶養控除の合計所得要件が引き上げられたことで、学生は給与収入123万円まで働くことができるようになったと言いましたが、では給与収入が123万円を超えて124万円になったらどうなるのでしょうか?
その場合には、扶養する親は「特定扶養控除」63万円が適用できなくなります。
しかし、扶養親族の給与収入が増えるにつれて、控除額は減るものの、扶養親族の給与収入が150万円までは、63万円の特定親族特別控除ができようできます。
つまり、「特定扶養控除」は適用できないものの、代わりに「特定親族特別控除」が63万円適用できることになります。
要するに、学生アルバイト(19歳以上23歳未満)については、給与収入150万円まで働いても、「特定扶養控除」が「特定親族特別控除」に名前が変わるだけで、その扶養をする親が63万円の控除が受けられることは変わらないのです。
さらにその金額以上に働いたとしても、特定親族特別控除は段階的に減っていくため、扶養者本人の手取り増加を加味した世帯全体の年収がかえって減ってしまう「働き損」は概ね解消され、学生アルバイトが親の扶養控除を意識して、働く時間を調整する意味はなくなったと言えます。
実は、この制度は、今回始めて導入されるわけではありません。
配偶者についても全く同じ仕組みが、「配偶者控除+配偶者特別控除」として実現していたものを、今回、学生アルバイトにも導入しただけです。
つまり、配偶者については、「年収103万円の壁」などというものは、とっくに解消されており、それでも主婦パートの多くが103万円を意識して働く時間を調整していたのは、その配偶者の会社の家族手当の問題やそもそもこの制度改正を認知していなかったということのほうが大きいでしょう。
なお、そもそも、扶養控除や配偶者控除の要件は、合計所得金額という基礎控除を差し引く前の金額です。
つまり、基礎控除は、学生アルバイトや配偶者控除の働き控えとは無関係で、働き控えの解消と基礎控除の引き上げは全くの別問題だったということです。
今回の改正により、学生アルバイトや主婦パートについては、所得税における「年収の壁」はなくなりました。
それでも未だに残る働き控えを解消するのであれば、この改正を正しく認知してもらうよう努めるとともに、企業の家族手当のあり方を見直し、もう一つのガチに手取りが減る社会保険加入条件の見直しを進めることが必要です。
さらなる減税を求めることは構いませんが、税制改正の議論は、まずは正しい理解の上に行われることを望みます。
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