やったほうがよい節税とやってはいけない節税を見分けるたったひとつの基準

スクリーンショット 2015-06-27 16.49.08

一口に節税と言っても3つの種類がある

節税はすべきかすべきではないのかという議論がされるとき、その節税の定義が広く曖昧に捉えられているために、議論がかみ合わないことがあります。

議論のポイントを整理するため、私は節税というものを、次の3つのものに分けて考える必要があるということを何度も申してきました。

「繰延型節税」:単に税金の支払期限を延期する効果しかない節税

「永久型節税」:税率の乖離や国の政策的な配慮により効果が永続する節税

「租税回避」:法の盲点を突いた違法ではないが不自然でアンフェアな節税

ただ、「永久型節税はやったほうがよい節税で、繰延型節税はやってはいけない節税」という単純なものではありません。

今回は「やったほうがよい節税とやってはいけない節税の違いはどこにあるのか」について話してみます。

スポンサードリンク

永久型節税と繰延型節税の具体例

税率の乖離や国の政策的な配慮により効果が永続する「永久型節税」としては、退職金の支給や中小法人に対する軽減税率や設備投資に伴う税額控除があります。

また、不良在庫や遊休資産の処分も、その損失による税負担軽減効果は後で取り戻されることはないので永久型節税とも言えます。

一方、税金の支払期限を延期する「繰延型節税」には、設備投資の特別償却やオペレーティング・リース、全額損金型の生命保険加入、短期前払費用などがあります。

繰延型節税とは、利益に対する納税という”ゴミ”をほうきで後ろに掃いているようなもので、あとでまとめてそのゴミを処理しなくてはいけないわけです。

実際には、世間で言われる法人税の節税対策の9割はこの繰延型節税だと言えるでしょう。

やったほうがよい節税・やってはいけない節税

(1)現在価値を考慮する

もちろん、税金を早く払ったところで何もいいことなどありません。可能な限りその支払期限を延期したほうが得です。

例えば、設備投資を実施した際に”減価償却の先取り”である特別償却を適用すれば、その期の利益は圧縮され税負担は軽減されます。

しかし、いずれ先取りした分だけ減価償却費が減り利益も増え、税負担が増えるのでトータルの税負担軽減はなく、単に税金の支払期限を遅らせたに過ぎません。

これを資金の動きで見ると、この特別償却により当初の税負担を抑えた分だけ手許のお金は増えるものの償却後半の期間では税負担が増加した分だけ手許のお金の増加が減ります。

つまりこの節税対策をしなかったよりも当初の入金がより増え、後半の入金はその分減ることになります。

単純にそれらを合計すれば、将来の増加するキャッシュはプラスマイナス0のように見えます。

しかし、今手許にお金があれば、そのお金を活かしてより多くの利益を上げる余地があります。

そのため「今の100円は将来の100円よりも価値がある」と考えるのがファイナンス理論の鉄則です。

トータルの収支は同じようにみえて、当初により多くの入金を得るほうが得だということ。

つまり、新たな資金の支出がないのであれば、単なる繰延型節税であってもやったほうがよい節税ということになるのです。

即時償却の金銭的なメリットをガチで計算してみると意外な結果に

しかし、単なる税金の支払期限の延期のため「だけ」に、多額の資金を消費する価値はありません。

もし、特別償却や税額控除が適用できるからと不必要な設備投資をするのはナンセンス。

仮にその設備投資を売却すればいくらかの譲渡代金を手にできるかもしれませんが、まず間違いなく損をするはずです。

そんなバカなことをする人などいないと思うでしょう。

ところが、実際には、「いずれ解約返戻金が手にできる」と節税のために実需のない保険に加入するという人もいて、それこそ特別償却ができるといって不必要な設備投資をするのとなんらかわりないことをしているのです。

(2)サンクコスト(埋没原価)は顧みない

どんな意思決定をしたとしても取り戻せない過去の支出をサンクコスト(埋没原価)と言います。

会計的な損益計算では、「現在から過去を顧みます」

例えば、不良在庫や遊休資産については、売った価額(現在)から買った価額(過去)を差し引いてその損益を計算します。

一方で、意思決定的な損得計算では、「現在から将来の収支を予測し、過去は顧みません」

「これだけのお金をかけたのだから捨てるのはもったいない」という考えはせず、サンクコストは一切無視して、不良在庫や遊休資産を処分することでどれだけの入金があり、どれだけの税負担という支出を抑えられるかだけでその処分という節税対策の損得を判断するのです。

スクリーンショット 2015-09-22 19.48.20

ですから、「未だに多額の含み損を抱えている」のであれば、その不良在庫や遊休資産を処分するという節税対策はやったほうがよい節税対策となります。

ただ、それは過去に投資に失敗したという”悲しい傷跡”を税金で一部穴埋めするに過ぎません。

「含み損を抱えたまま放置している」というそもそも不健全で特殊な状況にない限り成立しないものであり、わざわざこれからお金を支払って不良在庫や遊休資産を作ろうというのは、当たり前ですが、やってはいけない節税対策であり、実際にそんなことをする人などいないはずです。

(3)比較すること以外の前提条件を揃える

その節税対策をした場合と節税対策をしなかった場合でどちらが得なのかを判断するには、両者の「将来の増分キャッシュフロー(将来の現金収入ー現金支出)」を比較します。

その際に大切なことは比較対象以外の前提条件をきちんと揃えるということです。

例えば、「役員退職金の準備のため全額損金型の生命保険に加入する」という節税対策の損得を考える際に、「法人税の税率よりも退職金の税率のほうが低いのでこの節税対策は得である」と考えてはいけません。

これでは、比較対象以外の前提条件が揃えられていないのです。

確かに退職金は国の政策的な配慮により他の給与より税負担が軽減されています。そのため、「役員退職金の支給をするかしないか」という意思決定では、役員退職金を支給したほうが支給をしなかった時よりも節税になるはずです。

しかし、それは退職金の節税効果であり生命保険加入の有無にかかわりなくもたらされるものです。

もし、「役員退職金の準備として全額損金型の生命保険に加入するかどうか」を検討するのであれば、「生命保険に加入して役員退職金の支給をした時」と「生命保険に加入せず役員退職金を支給した時」の将来の増分キャッシュフローを比較する必要があります。

実際に計算をすると、法人税だけではほぼ間違いなく生命保険に加入して役員退職金を支給したほうが増分キャッシュフローは少なくなるので、これはやってはいけない節税となるのです。

スクリーンショット 2016-04-16 0.25.54

役員退職金を生命保険で準備をすると99%損をする

(自社株評価を引き下げるため”合法的に損益計算を歪める”というのであれば贈与税の節税効果はあります)

法人税の節税は将来の増分キャッシュフローを比較せよ

まとめると、やったほうがよい節税かやってはいけない節税かを見分けるには、その節税対策をした時としなかった時の「将来の増分キャッシュフロー」の額をきちんと比較します。

現在価値を考慮し、サンクコストを顧みず、比較対象以外の前提条件を正しく揃えた上でその節税対策をやったほうがやらないよりも増分キャッシュフローが多くなるものがやったほうがよい節税、少なくなるものはやってはいけない節税ということです。

このように、その行為をした時としなかった時の将来の増分キャッシュフローの比較からその行為の損得を考えることを「経済性工学」といいます。

節税の本当の損得を見極めるのには、単なる税率の差だけでなく、経済性工学の視点で検討をすることが必要なのです。

<参考>

会計ではわからない本当の損得の考え方〜社長のための経済性工学入門

9割の人が間違えている「会社のお金」無料講座公開中

「減価償却で節税しながら資産形成」
「生命保険なら積金より負担なく退職金の準備が可能」
「借金するより自己資金で投資をするほうが安全」
「人件費は売上高に関係なく発生する固定費」
「税務調査で何も指摘されないのが良い税理士」

すべて間違い。それじゃお金は残らない。
これ以上損をしたくないなら、正しい「お金の鉄則」を