出張旅費を非課税でもらえるのはいくらまで?

税理士が教えてくれない節税対策がある?

自分たちには実感はないですが、やはり税務の分野では税理士と言うのは一つの”権威”のようであり、
税理士以外の人が自身の節税対策のアピールをする場合に「税理士は知らない」「税理士は教えてくれない」という枕詞が付くことが多いものです。

結論から言えば、その程度の”擬似節税対策”は、まともな税理士ならば、まず間違いなく知っています。

その上で、実際には単なる税金の繰延べ効果しかないのに多くのコストが掛かったり、税務調査で否認されるリスクが高かったりという、要するに”割の悪い”方策なのでわざわざお客様に伝えることがないだけです。

「出張旅費」についても、「税理士が教えてくれない出張旅費による節税」などという情報商材が出ていて、これどうなのよ?というご質問を頂くこともあるので、ここで出張旅費の取り扱いについてまとめてみようと思います。

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出張旅費が実質非課税なのは実費精算と少額不追求

まずは結論から

・出張旅費が非課税なのは、立て替えていた経費の精算で、業務で行ったものだから

・出張は大変だろうからお疲れ様という意味で非課税なのではない

・精算不要の出張旅費が実費より大きくとも課税されないのは少額不追求のため

・非課税とされる適正金額の目安は、同業他社の水準と他の従業員とのバランスで

・ホテル代を実費精算しておきながら、宿泊日当の渡し切りはできない

・税務調査で指摘されるのは金額の過多より本当に行ったのか。でも高額なものは否認も

出張旅費は実費弁償で”おつかれ様”の小遣いではない

商談などのために出張に行ったのであれば、その出張旅費については収益を上げるために掛かった費用となり、税法上も損金となります。

その金額については、実費精算が基本です。

つまり、支出をした領収証に基づいて経理処理をするわけです。

ただ、出張をすると、現地での細かい移動に伴う交通費、通信費などの諸経費も掛かります。

それらの諸経費を一々精算するのも面倒でしょう。

そこで、それらの出張に伴う諸経費については、役職ごとに事前に金額を決めた「日当」を支払うことで、一々経費の精算を要しないようにすることも認められています。

この金額は、支出した会社では損金となり、受け取った社員は実費弁償なので非課税になるわけです。

決して「出張お疲れ様。じゃあ、お小遣いは非課税ね」という趣旨のものではありません。

一部は利益があるかもしれないですが、あくまでも”少額”なので、お目こぼしとして非課税としているだけです。

出張手当・日当の消費税課税からみる所得税非課税の根拠

また、どのクラスのホテルまで泊まって良いのかなどを出張のたびに会社が一々指示をするのは面倒でしょう。

そこで、出張の際には役職ごとにこのクラスの料金のホテルまでなら宿泊をしてもよいということを事前に定めておく。

さらに、そのホテル代についても「宿泊料」として一定金額を支払うことで、一々ホテル代の精算を行わないという経理処理も認められています。

これらの「日当」「宿泊料」について、一々精算を行わない”渡し切り”であっても、その支出額が税務上損金になるためには、出張旅費規程で”合理的な金額”が定められ、その規程に従い運用されていることが必要なのです。

ところが、この出張旅費規程の取り扱いが、税理士以外の人によりひとり歩きしたのか「出張旅費規程で金額を定めさえすれば、非課税で会社からお金がもらえる」とか「ホテル代などの実費精算をしながら、さらにこの規程で定められた宿泊料が非課税になる」という話になっているようです。

当然のことながら、出張旅費規程という書類を残しさえすれば、出張旅費がなんでも非課税になるわけなどありません。

所得税基本通達9-3でも非課税となる旅費の範囲について次のように定められています。

(非課税とされる旅費の範囲)

9-3 法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。(平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)
(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

一般的に相当と認められる出張旅費はどれくらいなのか?

通達でも定められているように、非課税とされる出張旅費については、同規模の同業他社と比較して相当と認められることが必要です。

では、そもそも一般的に支給されている出張旅費はどれくらいなのでしょうか?

産労総合研究所という民間のシンクタンクが、2年に一度出張旅費の支給状況の調査をし公表をしています。

産労総合研究所:2019年度国内・海外出張旅費調査

このデータをまとめると

(1)国内宿泊出張の場合の日当、宿泊料

・日当の平均額:社長4,598円、部長2,900円、一般2,355円

・宿泊料の平均額:社長14,095円、部長9,835円、一般社員8,605円

ざっくりと見ると社長は一般社員の2倍程度までということでしょう。

(2)海外出張における地域別の日当、宿泊料

エリアにより異なりますが

・課長クラスで日当5,000円台、宿泊料13,000円台から15,000円台

・役員クラスで日当6,000円台、宿泊料15,000円台から18,000円台

事業規模がある程度大きな中堅・大手会社でもこんなものです。

なので、従業員は一日当たりの日当が2000円なのに、社長だけホテル代を実費精算していながら、「出張旅費一日50,000円渡し切りでもOK、それが年間20回なら100万円が非課税でもらえる」とか、そんなのありえないわけです。

諸経費の精算回避のために支出した「日当」がこの金額では、社内でのバランスも異常だし、同業他社と比べても突出していますから。

このデータがすべてではありませんが、”のりしろ”を20%前後とすれば

・国内出張
・ホテル代の実費精算をせず
・日当+宿泊費の合計で

社長の税務上の”安全圏”としての出張旅費は一日24,000円くらいまでとなるのではないでしょうか。

(宿泊代|18,000円 日当|6,000円)

むしろ、高額のホテルを定宿としている社長であれば、宿泊費については実費精算して日当だけ渡し切りでもらう方が良い場合もあるかもしれません。

「非課税でお金をもらうためにカプセルホテルで我慢するぞ」という人たちではないはずです。

税務調査は陣取り合戦ではあるが

そういう話をすると「いや、友人の会社はもっと高いが税務調査を通った」などという人もいるでしょう。

税務調査はすべての項目を調査するわけではありません。

税務調査で指摘をされなかったことをもって、汎用的にその処理が認められたことにはなりません。

次回の税務調査で指摘をされることも十分ありえます。

ただ、私自身は、税務調査というのは、納税者側と税務署側の”陣取り合戦”だとは思っています。

なので、”強気”に押し込んでみて、いくらか押し戻され修正申告に応じたとしても、元々”弱気”な申告をして何も指摘されなかった時よりもトータルの税負担が小さいのであればそれでも良いかと。

もし、お客様が強気にもっと高い出張旅費を設定していたのであれば、あらゆる屁理屈をこねてでも全力で税務署と対峙することは厭わないつもりです。

ですが、こう言えるのは、実際に税務調査で税務署と折衝をする税理士であり、実際にリスクを取ってそのような申告をした納税者だけでしょう。

それを、なんの税務リスクも負うことなく、外から根拠不明な理屈で「税理士は教えてくれない」「税理士も知らない節税」だといって高額の情報商材を売りつけ、その商材の最後で「あとは顧問税理士と相談してください」と言われるのには、さすがにイラッとします。

きっと税務署もイライラしているでしょうから、是非そういう情報商材を売っている会社には、涙目になるようなギチギチの税務調査を実施してほしいものですね。

出張手当・日当の消費税課税からみる所得税非課税の根拠

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