出資の方が融資よりも調達コストが高いワケ|オーナー社長にとっての自己資本

融資は利息の支払いが必要だが出資なら要らない?

「銀行から融資を受けたら、約束の期日に元本を返済する上に利息の支払いも必要だが、出資を受けたら、利息も返済もないので、資金の調達コストは出資のほうが低くて済む」

そのように誤解している人が、税理士にもいます。

ファイナンス理論では、全く逆で「出資のほうが融資よりも資金調達コストは遥かに高い」というのが基本的な考え方なのです。

そこで、今回は、「なぜ、出資のほうが融資よりも資金調達コストが高くなるのか」とそこから「オーナー社長にとっての自己資本の意味」についてまとめてみることにします。

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お金を出す側の期待リターン=お金の受け入れる側の調達コスト

「融資は、期日通りに元本を返済する上に利息の支払いが必要であるのに、出資であると、資金の返済は求められず配当も儲かったときで良い。」

本当にそうであれば、融資など受けず出資を受ければ良いことになります。

しかし、そんな都合の良い話はないことは、お金を出す側の立場に立ってみればわかります。

例えば、友人の会社に返済期限1年後、年利2%で融資をするとしましょう。

その時に、友人から融資ではなく出資にしてくれと言われたらどうでしょうか?

出資であれば、配当については儲かった時しかなく、万一事業がうまく行かなかったときには、その出資は紙くずになるかもしれません。

儲かったら配当するなどというふわふわした約束で、融資と同じ年利2%のリターンであなたは出資をするでしょうか?

少なくとも私は、その10倍の20%程度のリターンが期待できなければ、仮に融資はしても出資になど応じません。

回収に不安がある分だけ、出資のほうが融資よりも「お金を出す側の期待リターン」は高いのです。

この「お金を出す側の期待リターン」は、そのまま「お金を受け入れる側の資金調達コスト」となります。

なぜなら、お金を出す人の期待に応えないと次に誰もお金を出してくれなくなるからです。

つまり、お金を出す側の期待リターンの高い出資のほうが、お金を受け入れる側の資金調達コストは圧倒的に高いということなのです。

事実、出資をしたら、株主として議決権を行使し経営に参画できる上、過去の純資産と将来稼ぐお金についてもその持ち分相当を有することになる。

儲かってからその出資持分を買い戻すとすれば、出資者は相当に高い金額を要求するでしょう。

「出資なら融資と違って利息も元本の払わなくても良い」などと自分に都合の良いことだけを考えて出資を受けたのであれば、この時点で、「実は、出資はコストが高い」という意味に気がつくはずです。

その上、融資のコストである利息は法人税法上損金になりその税効果だけ負担は軽減されますが、出資のコストである配当は損金にならず、同じ支払い額であっても、コストは融資の方が税効果分だけ安く済むのです。

自己資本はオーナーの我慢と犠牲で成り立っている

本来、経営者は、出資者から託されたお金をできるだけ多く増やすよう会社を運営することを求められています。経営者というのは、出資者のお金を運用するファンドマネージャなのです。

しかし、中小企業は、社長が経営者であると同時に出資者であることがほとんど。つまり、オーナー社長とは、経営者の役割と出資者の一人二役を演じているということです。

社長は、経営者としての役割については常に意識をしているでしょうが、出資者であるという意識は薄いのではないか。

「会社の自己資本=純資産は、出資者が経営者に託したお金」と意識している社長がどれだけいるのでしょう。

多くの社長は、自己資本は、銀行からの融資と異なり、返済を求められず、利息の支払いもしなくてもよいお金と思っているのではないでしょうか?

しかし、出資者からすれば、そんな考え方をする経営者を支持しないはず。

自分が投資をしたお金を「調達コスト0で、ある時払いの催促なしのお金」などというファンドマネージャなど即クビにしたくなるでしょう。

自分の会社への出資者は、その資金を他で運用すれば、リターンを得られたはずであり、それを我慢しているのに過ぎません。

「いや、他で運用すると言ったって、定期預金に預けたところで利息などスズメの涙。大したリターンなど得られず誤差の話だろう」

そう思われる人もいるかも知れませんが、そうではありません。

あなたは、安全確実な預金にお金を預けているのではなく、いつ潰れるかもわからない中小企業に出資をしているのです。

あなたが我慢しているリターンは、自分の会社と同程度の財務内容と業績の会社に出資したときに期待できるリターンだということ。

もし、その会社に、出資をするならば、融資よりもはるかに高いリターンを期待するでしょう。

つまり、ファイナンス理論の考え方によれば、自己資本のほうが融資よりも資金調達コストは高いということになるのです。

それでも、実際には中小企業の自己資本が低コストで済んでいるとすれば、オーナーが機会損失を被っていることに気づかず、自分の会社に対する期待リターンが低い=調達コストが低いということなのでしょう。

いずれにせよ、配当もせず、経営者にとって自己資本が都合の良い資金調達となっているとすれば、それは出資者の犠牲と我慢によって成り立っているということなのです。

自己資本比率が高いと安全性は高いがレバレッジが掛からない

集めたお金全体(総資本)に対する自己資本の比率を「自己資本比率」といい、その比率が高い会社ほど、潰れにくく安全性の高い会社と評価されることが多いです。その最高の状態が「無借金経営」ということでしょう。

しかし、多くの場合「安全性」と「成長性」は二律背反します。

仮に、ソフトバンクの孫正義さんが、自己資本比率や自己資本の範囲内での投資にこだわっていたら、今の会社の規模になるまでには、100回以上生まれ変わらないと到達できていないのではないかと。

また、「スピード経営」を標榜する楽天の自己資本比率は10%前後と思いのほか低いのです。

自己資本比率が低いというのは、投資の借金によるレバレッジ(てこ)の掛け率が高いのと同じこと。安全性は低くなる代わりに、成長性は一気に高まります。

楽天は、レバレッジ掛けまくりで安全性より成長性に重きを置いているということなのでしょう。

一方、養命酒という会社は、自己資本比率約90%で無借金経営、キャッシュもリッチな超安全企業ですが、とても成長性が高いとは言えず、ROE(株主資本利益率)も5%前後と株主としては今ひとつという感じです。

あなたが、経営者として、出資者から託されたお金をできるだけ多く増やさねばならないという使命を受けたのであれば、出資者の我慢に支えられた自己資金に甘えることなく、融資を活用してでも、レバレッジを掛けて出資に対するリターン(ROE=株主資本利益率)を高める努力をしなくてはいけない。

一方で、融資を活用することで、自己資本の制約を超えた金額の投資を行えば、その成果のブレ幅=リスクも大きくなります。

また、融資の割合が高くなりすぎれば、信用不安で資金調達コストが跳ね上がることも予想されます。

投資が失敗した場合には、融資の返済に行き詰まり資金ショートをすることもあるでしょう。

ですから、経営者は、自己資本と融資のバランスを取りながら、投資が失敗した最悪の事態を想定した上で、いつ何にいくら投資をするかという采配をしなくてはいけないのです。

自己資本の金額が大きいほどつぶれにくい会社であることは間違いないですが、自己資本比率の見方については誰の視点で見るかにより評価はそれぞれ。

経営者目線だけでなく、出資者目線でも見ることで、自己資本と融資、そして無借金経営について、今までとは違った評価もあるということが理解いただけたのではないでしょうか?

なぜ無借金経営よりも借金をしたほうが会社の価値は上がるのか?

借金の必要性や活用の余地はビジネスモデルでまるで違う

ただ、借金が必要かどうかは、借金によるレバレッジが掛けやすいかどうかは、ビジネスモデルによるところが大きいです。

例えば、不動産賃貸業と士業では、全然、借金の必要性や活用の余地は違います。

不動産投資では、自己資本の制約を借金で突破し、投資額を増やすことで自己資金に対するリターンが何倍にもなる余地がありますが、士業は、そもそも運転資金も設備資金も少なく、借金して投資額を増やしたところで、売上が一気に増えたりしません。

言いたいのは、一人二役のオーナー社長は、経営者目線だけでなく出資者の目線からも見て、自社のビジネスモデルを鑑み、自己資本の”壁”を突破した額の資金をどう活用すれば会社を潰さずにより多くのリターンを上げられるのかを考えるということ。

「野放図に経費をかけ、甘い見込みで投資をしても、お金が足りなくなれば借りればいい」ということを言っているわけじゃないんですよ。

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