損益分岐点を求めるのに人件費や広告費を固定費にしてはいけない

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損益分岐点=固定費/限界利益率

赤字にならないために最低限必要な売上高である損益分岐点売上高を求めるには、費用を売上に連動して発生する「変動費」と売上に関わらず発生する「固定費」に分けることが必要です。

この固定費のうち金額が大きいのは、人件費、支払家賃、支払利息などでしょう。

これらを支払ったところで直接売上高が増えるわけではないのは事実ですが、だからといって、売上高を増やしても人件費が変わらないというのは、現実的ではありません。

例えば、飲食店で、売上高を今の2倍に増やそうというのに、スタッフが今と同じ人数では仕事が回るわけはないでしょう。

当然売上高を増やすには人件費の増加を見込まなくてはならないはずです。

一方で、人件費は「減らしにくい」という意味で「固定的な費用」ですから、「現時点」で赤字にならないために最低限必要な売上高である損益分岐点を求めるのにザックリと固定費にするというのはある程度容認できるかも知れません。

(人件費を固定部分と変動部分に分ければもっと精度は高まるでしょう)

しかし、目標利益を獲得するための目標売上高を定めるためには、やはり人件費を全くの固定費として考えたのでは、正しい数字を把握できません。

では、目標売上高を上げるために必要な人件費等をどうすれば把握できるのかについて今回は考えてみましょう。

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人員計画から実額を求める

経営計画により、目標売上高を定め、その実現のために必要な工数とそれを実行するために必要な人員数がわかれば、そこから人件費の実額を求めることはできます。

過去の売上高からみて実現可能な目標売上高を算出し、その売上高を獲得するために必要な経費を支払った残りが利益であると考えるのであれば、必要な人件費を計算するのには、この算出方法が一番合理的だと思います。

ただ、目標利益を確保するために必要な売上高を逆算したり、利益変動要素を変化させると利益にどんな影響があるのかという
シミュレーションをするには、この方法は不向きだといえます。

回帰分析をして売上高と人件費の関係を一次関数で表す

利益のシミュレーションをする場合に知りたいのは「売上高と人件費にどんな関係があるのか」ということです。

それを知るための方法に「回帰分析」というものがあります。

これは、2つの数値の大小に関連性(相関)がある場合に、それらの2つの数値の関連性をy=ax+bという一次関数で表すことで1つの数字を変化させた時のもう一つの数値を予測する方法です。

例えば過去5年間の売上高と人件費の数値からその両者の関係性を見出し、将来の売上高からその時の人件費の数字を予測するのです。

実際の計算は非常に煩雑ですが、Excelを使えば簡単に回帰分析は可能になります。

ただ、Excelの初期設定ではこの回帰分析はインストールされていないはずなのでまずはアドインとして登録をすることが必要です。

・ファイル/オプション/アドイン/分析ツール/OK

具体的に回帰分析をするには、まず過去5年分の売上高と人件費等のデータを用意します。

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その上で回帰分析をしてみます

・データ/データ分析/回帰分析

ここで予測する人件費の過去のデータを入力Y(範囲)に変化させる売上高の過去データを入力X(範囲)に入れます。

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そうして、回帰分析をすると謎のシートが出てきます。

なんだかさっぱりわかりませんが、見るべきなのは3つのセルのみです。

一つは「重決定R2」というセルです。

これは2つの数値の相関の強さを表しています。

一般に相関があると認められるのは0.4以上で、0.7以上になるとかなり強い相関があると言われています。

この重決定R2の値が0.4以上であれば、この回帰分析により予測をした数字にはある程度の合理性があることになるわけです。

後の2つは係数というところの「切片」と「その下」(ここでは売上高)のセルです。

この数字が一次関数y=ax+bのそれぞれb(切片)とa(傾き)の数字になります。

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この場合だと切片は11,374,233、その下のセル(傾き)は0.108896です。

つまり、人件費と売上高の関係は

人件費=売上高✕0.108896+11,374,233

となり、予測される売上高からその時の人件費額を想定できます。

(ちなみにグラフ機能を用いて2つの数値から「散布図」というグラフを作成し、「グラフ要素」に「近似曲線」を加え、その書式設定で「グラフに数式を表示」しても同じような計算が可能です)

なお、この算式から売上高(ここでは客数)が増えるとその約10%だけ人件費が増えるということもわかります。

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この一次関数を利益シミュレーション上の人件費のセルに入れておけば、売上高を変化させるだけで連動して人件費額が計算されるのです。

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もし、目標利益額を満たすのにどれだけの売上高が必要なのかを算出したいのであれば、ゴールシークという機能を利用します。

・データ/What-if分析/ゴールシーク

ここに目標利益額とどの数値を変化させるのか(ここでは客数)を入力すれば必要な売上高が算出されるのです。

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広告費は固定費であるわけがない

広告費についても直接売上高と連動するわけではないので固定費とされ損益分岐点が計算されることが多いでしょう。

ただ、求人広告は別として全く売上高に連動しないような広告などないですし、もし本当にそうなら、あまりに効果がなさすぎでそんな広告はやらないほうがよいことになります。

よほど的はずれな広告でない限り、広告費を削減したら時間差はあるにしてもまず間違いなく新規顧客獲得数は減少するはずです。

単にその広告の効果が予測できないということをもって、「広告費=売上高と連動しないので固定費」としているのではないでしょうか。

確かに、明らかに利益と連動するもののみを変動費とし、それ以外は固定費とするのは計算も簡単でわかりやすいとは思います。

(私も会計の入門書やセミナーではそう説明をしています)

ただ、それは、円周率は3.14として計算するのは煩雑なので「およそ3」として計算をするのと同じようなものかと。

円周率を3とするとその図形はもはや円ではなくて正六角形という全く違った姿になるのです。

実効性のある目標利益到達売上高を求めたり、きちんと感度分析をするのであれば、人件費や広告費については、ザックリとで良いので回帰分析をした上でシミュレートした方が良いのではないでしょうかね。

<具体的な使用方法はこちら>

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