やっとシンプルな計算になった2021年4月以降開始事業年度の新・新所得拡大税制

所得拡大税制が再度改正される

前期と比べて当期の給与総額が一定金額以上増えている場合、法人税の控除が可能である「所得拡大税制」。

内部留保から人件費へ振り向けるのに有効な政策だとは思うのですが、当初はこの計算がものすごく面倒で、なんとか集計をしてみたものの結果的に要件を満たさないなどこの手間はなんだったんだと思うことも多いものでした。

それが、一度改正をされ若干シンプルな計算で済むようになっていたところ、さらに2021年4月以降開始の事業年度から所得拡大税制の計算方法が改正されたのです。

そこで、今回は、2021年4月以降開始の事業年度に適用される「新・新所得拡大税制」についてまとめてみることにします。

所得拡大税制による税額控除額

以下の要件を満たす場合、その事業年度の法人税額の20%を上限として法人税額の控除が可能です。

通常枠

適用要件

(雇用者給与等支給額ー比較雇用者給与等支給額)/比較雇用者給与等支給額≧1.5%

税額控除額

(雇用者給与等支給額ー比較雇用者給与等支給額)×15%

上乗せ枠

適用要件

(雇用者給与等支給額ー比較雇用者給与等支給額)/比較雇用者給与等支給額≧2.5%

かつ、次のいずれかを満たす

①(教育訓練費ー比較教育訓練費)/比較教育訓練費≧10%

②経営力向上計画書に記載された経営力向上が確実に行われたことを証明

税額控除額

(雇用者給与等支給額ー比較雇用者給与等支給額)×25%

「雇用者給与等支給額」「教育訓練費」とは、要するに「当期の支払金額」のことであり、「比較給与等支給額」「比較教育訓練費」とは「前期の支払金額」のことです。

あえて、このような用語にしているのは、事業年度の月数が12ヶ月でない場合には、年換算した金額にするためです。

ですから、ざっくりというと、当期の給与総額が前期の1.5%以上増えていれば、その増えた給与額の15%の法人税(その事業年度の法人税の20%が上限)が控除されるというものです。

なお、対象となる給与は、法人又は個人事業主の使用人のうち、その法人又の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。

パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の親族は含まれません。

改正のポイント

2021年3月31日以前に開始する事業年度は上記に加えて、もう一つ要件を満たさねばなりませんでした。

それは、

(継続雇用者給与等支給額ー継続雇用者比較給与等支給額)/継続雇用者比較給与等支給額≧1.5%

この「継続雇用者」というのは、以下の全てを満たす者を指します。

 ① 前事業年度及び適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
 ② 前事業年度及び適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
 ③ 前事業年度及び適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない

「継続雇用者給与等」とは当期の給与支給額、「継続雇用者比較給与等」とは前期の給与支給額のことですから、ざっくりというと、前期と当期のすべての期間に毎月給与の支給を受けていた正社員等を対象にして、それぞれの給与支給額の合計が、当期は前期に比べて1.5%以上増えていることが必要なのです。

要するに、国としては、企業の内部留保をできるだけ人件費に振り向けてくれれば税金の優遇をするが、人数を増やして人件費を増やした代わりに、既存の従業員の給与を引き下げたらダメ。既存の従業員の昇給もしてくれないといけないということです。

以前はさらに、「基準年度(平成24年度)と比べて3%以上給与支給額が増えていないといけない」という要件があり、それがなくなって整理されただけでもカンタンにはなったとはいえ、この継続雇用者に該当するか一人ずつ当たらなくてはならず、その集計がとても面倒でした。

その「継続雇用者」の要件が廃止されたことで、一気に所得拡大税制は使いやすくなると思います。

計算が面倒だからかわかりませんが、セカンドオピニオンとしてや新規税務顧問契約を頂いた際に過去の申告書をみると、この所得拡大税制が適用できるはずなのに適用されていないケースをよーく見ます。

この所得拡大税制は、租税特別措置法によるものであり「当初申告要件」が付されており、一度申告をしたものについて申告期限後に更正の請求によりあとから適用することができないため、申告時に忘れずにその適用を検討することをおすすめいたします。

税額控除や所得拡大税制は後から適用することはできるの?|当初申告要件という税理士泣かせ

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