なぜ経営セーフティ共済を解約・再加入したら損金不算入という規制をしたのか?

経営セーフティ共済の解約後再加入時は損金不算入に

得意先が倒産した場合に、連鎖倒産を防ぐため、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れをすることが可能となる「経営セーフティ共済」(中小企業倒産防止共済制度)というものがあります。

この経営セーフティ共済は、融資を受ける時の利息の前払いをするようなものであり、一定期間後には、解約した時点で、その掛金全額の解約返戻金を受け取ることが可能です。

通常は、そのような前払分の積立機能がある場合には、掛金は支出時に損金にはなりません。

しかし、この制度は、中小企業保護の観点から、支出時に損金または必要経費に算入できるという税制優遇を受けることができます。

そのギャップに着目し、連鎖倒産のリスクなどもない事業者までもが、こぞって目の前の税負担を回避する目的で加入をするという事態になっていました。

そこで、そのような節税目的での加入を封じ込めるよう、2024年10月1日以降に解約をした場合、再加入をしたとしても、解約から2年間、その掛金の支払については、損金に算入しないという制限が加えられるようになったのです。

今回は、経営セーフティ共済についての解約・再加入の制限によって具体的に何が封じ込められるのかをまとめてみようと思います。

経営セーフティ共済の概要

この制度は、得意先が倒産した場合に、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れを可能にする制度で、加入者が掛金を持ち合い、リスクに備える互助会のようなものです。

この制度のメリットは次の4つです。

ポイント1 無担保・無保証人で、掛金の10倍まで借入れ可能

共済金の借入れは、無担保・無保証人で受けられます。共済金貸付額の上限は「回収困難となった売掛金債権等の額」か「納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)」の、いずれか少ないほうの金額となります。

ポイント2 取引先が倒産後、すぐに借入れできる

取引先の事業者が倒産し、売掛金などの回収が困難になったときは、その事業者との取引の確認が済み次第、すぐに借り入れることができます。

ポイント3 掛金を損金、または必要経費に算入できる

掛金月額は5,000円~20万円まで自由に選べ、増額・減額できます。また確定申告の際、掛金を損金(法人の場合)、または必要経費(個人事業主の場合)に算入できます。

ポイント4 解約手当金が受けとれる

共済契約を解約された場合は、解約手当金を受け取れます。自己都合の解約であっても、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば、掛金全額が戻ります(12か月未満は掛け捨てとなります)。

出典|経営セーフティ共済制度の概要 中小機構

改正による規制の内容

令和6年度税制改正大綱でこの経営セーフティ共済について以下の改正がされました。

解除後2年間の支出は損金算入不可

経営セーフティ共済を解約した後に、再度加入契約をした場合、その解約をした日から2年を経過する日までに支出した掛金については、支出時に損金算入できるというルールが適用できなくなります。

例えば、2024年10月1日に解約をして、すぐに再加入をしたとしても2026年9月30日までに支払った掛金は損金に算入がされません。

適用開始時期

2024年10月1日以降の解約から適用されるので、2024年9月30日以前に解約された後に再契約された共済については、損金算入の制限はありません。

なぜ解約・再加入時には損金不算入としたのか?

決算間近になって、思いのほか利益が出ている。なんとかすぐに損金になって後で取り返せるものがないか。

そんなニーズにぴったりなのが、この経営セーフティ共済なわけです。

「月に20万円、1年分を前払いできるので、240万円を決算間際に支払うことで、すぐに240万円の損金が生じる。仮に、法人税の税率が30%だとすれば、毎年72万円の節税になる」という説明がよくされます。

しかし、複式簿記の大原則に「支出時に損金になったものは入金時に益金になる。支出時に損金にならなかったものは入金時には益金にはならない」というものがあります。

つまり、支出時の掛金が全額損金になった経営セーフティ共済を解約してもらった返戻金はその全額が益金となって課税されてしまうということです。

「支出時に掛金全額が損金になる」が「40ヶ月以上納付すれば全額掛金が戻る」という特性から、「定期積金なら掛金を積んでも損金にならないがセーフティ共済なら損金になって節税しながら貯金ができる」などという説明がされますが、定期積金であれば、支出時に損金にはならないが、解約して入金を得ても益金にはならないので、利益、税金はプラスマイナス0。

それに対して、経営セーフティ共済は支出時に損金になるが、解約時にその受取金全額が益金になるので、こちらも利益、税金ともにプラスマイナス0なのです。

それを「支出時に損金になる」と言う点を”つまみ食い”し、あたかも税負担を軽減する節税効果があるかのように言っているだけであり、現実には、支出時に課税されるべきであった税金を解約時まで時点を遅らせた「税金の繰り延べ」に過ぎないということです。

「単なる繰り延べだと言っても、たまたま今期は儲かったが将来どうなるかはわからないわけで、後でちゃんと掛金全額が返ってくるのであれば、税金の支払いを遅らせることは意義はある。税金の支払いを遅らせただけ手許のお金が増えるし、解約すればいつでも使える「簿外の財布」が持てるので企業防衛にもなる」

そんな説明がまことしやかにされるのですが、現実には、簿外の財布とやらを開封して手許のお金に変えようとした瞬間、それまでプールしていたはずの税金をすべて吐き出さなくてはいけない。

つまり、経営セーフティ共済に加入した時と加入しなかった時でのトータルの税金は全く変わらないので、税負担を減らすという意味での節税効果も資金をプールする効果もありません。

それに、万一、融資を受けた場合には、その1/10の金額だけ解約返戻金が減るのですから、まだ倒産など発生していない段階からその融資の調達コストを先払いしているようなものです。

定期積金であれば、いつでも元本割れすることもなく解約できるのに対して、経営セーフティ共済は、40ヶ月未満での解約は、元本割れのリスクを背負うわけで、いつでも自由にお金が使えるわけでもない。

要するに、連鎖倒産リスクもないのに経営セーフティ共済の加入することは、税金の支払い期限を延期するしか効果がないもののために無駄に資金を”冷凍保存”しただけであり、企業防衛どころか資金ショートのリスクを高めるということになるわけです。

その上、この経営セーフティ共済は部分解約ができないため、解約時には一気に掛金全額が益金となります。

この経営セーフティ共済の掛金は最大で800万円までです。つまり、満額掛金を積んだ状態で解約をすれば、一気に800万円も課税所得が増えることになります。

法人税は、課税所得が800万円以下の部分は、本来の税率よりも約10%が低い軽減税率が適用されています。所得税は、住民税を合わせると最小15%から55%までの累進課税が適用されます。

そうなると、掛金の支払時に、課税所得が低いところで損金や必要経費になっていたときの税率よりも、まとめて益金になって課税所得が増え、高い税率が適用されることで、トータルでは、この経営セーフティ共済に加入したときのほうが加入しなかったときよりも税負担が増える懸念がある。

と、いくら説明をしたところで、とにかく目の前の税金を支払いたくないという社長は聞く耳を持ちません。

しかし、いざ、解約をして800万円丸々課税対象になると、その税負担に驚き、なんとかしてほしいと新たにすぐに損金になるものを探します。

そこで、経営セーフティ共済を解約したものの、再度加入をし240万円までの年払いをする。

その結果、この経営セーフティ共済を解約と再加入を同じ事業年度にすることで、旧契約の解約返戻金から新契約の年払掛金を差し引いた金額だけが、その期の課税所得に加算がされるという利益調整がしやすくなるわけです。

やっていることは、まるで、麻薬の切れた患者が、また麻薬に手を出すようなものです。

実際に、解約してから1年未満に71.2%もの事業者が再加入をしています。これは、利益調整以外に理由はまず見当たりません。

そこで、このような利益調整を封じ込めようと、解約後の再加入については、解約してから2年間に支払った掛金は損金に算入しないという規制ができたのです。

これは、連鎖倒産を防ぐための「無尽」形態による保険について、中小企業保護の視点で前倒しでの損金算入を認めたものを、その制度の趣旨を逸脱し、支出時に損金算入できるという特例を”悪用”することを税理士が堂々とHPやYoutubeで語る姿に業を煮やした中小企業庁と国税庁がこのような大ナタを振るうということになったということ。

この中小企業庁のレポートなんて、そのHPやYoutubeなどのタイトルを具体的に挙げているわけで、ほぼ名指ししているということですよ。これ本当に大丈夫なんでしょうか。

中小企業倒産防止共済制度の不適切な利用への対応について|中小企業庁

巷で言われる節税商品と言われるもののほとんどは、単なる課税の繰り延べしか効果はなく、大抵はトータルの手取りを減らし、無駄に資金拘束がされるだけです。

支出時に損金になるという部分だけつまみ食いするのではなく、その節税対策をやったときとやらなかったときでトータルの資金が本当に増えるのかをExcelできちんとシミュレーションなさることを強くおすすめいたします。

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