法人税の節税とは違う相続税の節税の注意点|相続税対策をする前に知っておくべきこと
目次
相続税法改正で相続税節税に注目も
平成27年に相続税法が改正され、相続税を納税すべき人が改正前の2倍になりました。
しかし、「2倍になった」と言っても、相続税の納税義務のある人が亡くなった人全体の4%だったものが8%になっただけであり、依然として相続税は、全体の92%には何ら関係のない税金であり、メディアが煽った「一億総相続税時代」などというわけではありません。
それにもかかわらず、アパートの建設など相続税の節税対策が実行されている例が多いようです。
そこで、今回は、法人税の節税にはない相続税の節税対策の特徴と注意点についてまとめておきます。
借金をしてアパート建設すると相続税が下がる本当の理由
よく「借金をしてアパートを建設すると相続税対策になる」といわれます。
中には、誤解をしている人がいるようですが、別に借金をすると相続税対策になるわけではありません。
相続税の対象となる「課税遺産総額」は、資産というプラスの財産の価額から、債務というマイナスの財産の価額を差し引いた金額のことです。
借金をすれば債務が増えますが、その分、現預金という資産も増えるので、課税遺産総額は変わりがありません。
なので、借金をしても相続税額は減りませんし、単に借金の返済が進んだとしても、そのことで相続税額が増えるわけではないです。
借金の返済が進んで課税遺産総額が増えたとすれば、それは、その借金で行った投資の利益が上がってその分プラスの財産が増えたからです。
借金でアパート建設をすると相続税対策になるのは、「債務側」の問題ではなく、「資産側」の問題なのです。
相続税の計算上、資産の価額は、相続発生時点の「時価」によるものとされています。
しかし、その時価と言うものを算定するのは非常に難しいものです。
そこで、「財産評価基本通達」というもので、資産の時価算定の指針が定められており、実務上、この財産評価基本通達により相続税の対象となる資産の評価が行われるのです。
現金預金などは、相続時点での保有金額そのままですが、不動産や有価証券については、この財産評価基本通達による評価額が実際の時価よりも低いことがあります。
それであれば、そのまま現預金として保有しているよりも、不動産や有価証券を購入することで、相続財産は現預金から不動産等に変わり、その分、相続税の評価額が下がります。
特に土地は、相続税の計算で用いられる「路線価」というのが、時価(≒公示価格)の8割程度に抑えられています。
さらに、賃貸用の不動産のうち土地については、借りている人がいれば、その人の権利である借家権があり使用処分に制約があるとのことで、さらに8割程度に減額がされます。
同様に、家屋は、新築価額の6割程度の金額で評価される上に、借りている人がいればその7割程度で評価されるので、結果的に建築価額の4割程度で評価がされます。
それであれば、手許にお金がなかったとしても、借金をして賃貸用のアパートを建てることで、資産は時価よりも低く評価されるのに、借金は丸々控除がされるので、その分だけ他の相続財産額を減らすことができる。
その後、相続が終わった時点で、その不動産を売却して現預金に戻せば、多額の相続税の負担を軽減できるので、特に時価よりも相続税評価額が低くなりがちがタワーマンションの上層階を借金をして購入をするという対策が取られるわけです。
つまり、相続税対策の本質は、相続税評価額が時価と乖離のあるものに資産を逃して遺産相続というハードルをうまくくぐるということなのです。
相続税対策をする上で知っておくべきこと
相続税対策をする場合には、遺産相続と相続税の特質について次のことを忘れてはいけません。
(1)いつ相続が発生するのかがわからない
相続税対策の本質は、遺産相続というハードルをうまくくぐるということですが、厄介なのは、その相続がいつ発生するのかがわからないということです。
かといって、近い将来相続は発生することが予見されるようになってからでは、「相続開始前3年以内に行った贈与はないものとする」という制約もあります。
いつなのかわからなければ、相続時点で経済環境がどう変わっているかがわからず、有効だと思って行った相続税対策も、それまでに税法を改正されればあっさり無意味なものにされることもあります。
特に法の盲点をつく不自然な法形式を取ることで国の予定外の税負担軽減効果を狙う「租税回避行為」ほどその税法改正のリスクを受けます。
つまり、租税回避による相続税対策を行うことは、いつでも途中でルール改正をできる相手にいつ終わるのかわからない戦いを挑むようなものなのです。
(2)財産移転のコストは相続時のほうが安い
いつ相続が発生するのかわからないのであれば、生前に財産を次世代に移転してしまえば良いということになりますが、そうはさせないようにと、生前の財産移転については「贈与税」が掛かります。
この贈与税の税率は、相続税よりもはるかに高くなっており、生前に贈与により財産を移転するには相当の長期間に渡りコツコツ時間を掛けての移転が必要です。
一方で、不動産などの移転に伴う登録免許税や不動産取得税などの諸経費については、相続による移転のほうが生前の移転よりも圧倒的に安くて済むようになっています。
また、申告作業が必要であれば、その都度、その手間やコストも必要です。
ですから、さほどの相続税負担ではない人が、その相続税負担を回避しようと不動産の生前贈与を行うとむしろ諸費用のほうが高いということもあるのです。
(3)修正が効きづらい
賃貸用不動産の購入や自社株の評価額を引き下げるために組織再編をするなど、相続税対策は、金額もその手間も大掛かりなものになりがちです。
これらは、経済環境変化や税制改正があったからと言って、すぐに元に戻すということはできないものなので、修正が効きづらいという特徴があります。
(4)評価額が低い理由を再検証する
財産評価基本通達は完璧なものではないため、たしかに時価と評価額に大きな乖離のあるものもあります。
賃貸用の不動産についても、テナントがいる物件のほうがどう考えても賃貸物件としては価値があるのに、なぜか空室よりも評価が低くなったりとか。
しかし、「なぜそんなに評価額が低いのか」は、よく検討する必要があります。
例えば、不動産の評価額が現預金よりも低いのは、換金するときの価値が不透明でありその分リスクがあるということ。さらに保有しているだけで固定資産税等の費用が発生するという追加負担があるからです。
同様に、個人年金保険の受給権などについても、そのもらい終わるまでの期間に応じて、実際にもらえる総額よりも低く評価されます。
しかし、これは、「将来もらえるお金は、それまで我慢をしなければならず、もらえないリスクもあるから現在価値に割り引く必要がある」という、ファイナンスの考え方では当然のことであり、決して個人年金に加入をすることで評価額が下がることがそのまま相続財産圧縮効果だということではありません。
現預金以外の資産について、その評価額に「掛け目」が掛けられ評価減がされている理由は、すぐに自由に使える現預金に対して劣る部分のマイナス評価の意味合いもあるので、なぜ評価額が低いのか理由を理解し、その相続税対策で取得する資産が、自身にとってそのマイナス評価以上の価値が見いだせるものでなくてはいけないのです。
本当に相続税対策が必要なのか再確認を
別に相続税対策が悪いものではなく、特に時間的な余裕があればあるほど、丁寧に時間を掛け一つ一つ”送りバント”をつなげて得点にするような相続税対策が実行できます。
法人税の節税対策としては無意味な全額損金型の生命保険加入やオペレーティングリースなども自社株の評価額を一時的に下げて贈与税負担を軽減するという、相続税の節税対策としては有効なこともあります。
一方で、なにか資産を借金で購入すれば、一気に相続税の負担が減少するという”満塁ホームラン”のような対策は、いつ相続が発生するのかわからず、その時点での経済環境や税制が予測できないので大きなリスクを生みます。
事実、昨今の不動産市況は、「相続税対策として雨後の筍のごとく賃貸用アパートが建てられて飽和状態」という30年前のバブル期そのままの状況になっており、今後、予定していた賃料が見込めなくなるという事態がまた繰り返されそうです。
節税のために買った賃貸アパートが、相続税の節税になった以上に将来値下がりしたら何の意味もないのでは。
「危ないアパート建設」の誘惑、あなたの親も狙われている!|ダイヤモンド・オンライン
相続税法改正により基礎控除額が従来の6割に縮減されましたが、今回の改正で新たに相続税の納税義務が生じるようになった方であれば、納税額が生じたとしても、金融資産もそれなりにあるはずなので、相続税の納税ができないと言うことは少ないはずです。
中には相続税が元々かからないのに、わざわざ相続税の節税対策をして無駄にコストとリスクを負っていたということまで。
そこまで大きな負担でない相続税の軽減のために、大きなリスクとコストを負ってまで、本当に相続税対策をする必要があるのか、よく考えてみる必要があるでしょう。
いずれにせよ、相続税の節税対策は、「円満な遺産相続を実現すること」「納税資金を確保すること」の2つをきちん実行した上で、それでも余力があれば行うべきものなのです。
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