「支出もないのに損金になる節税対策」の真実を全力で検証する

お金も払わずに節税ができれば最高だが

節税をしたいというのは、「予想外に利益が出たが、将来そんなに儲かるか不安なので、税金という支出を減らし、手許にお金を残しておきたい」というニーズによることが多いでしょう。

しかし、節税のために支出が必要であれば、いくら節税になったとしても手許のお金は減ってしまいます。なぜなら、税率が100%を超えることはないので、支出額が節税額を上回るからです。

手許のお金を残すには「支出もないのに損金になる」ものがあればとてもありがたい。

そこで今回は、そんな「支出もないのに損金になるようなオイシイ経費」が本当にあるのか検討してみようと思います。

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支出もないのに損金になる節税対策の真実

(1)減価償却

収益不動産投資の勧誘する際によく用いられるフレーズが「減価償却で節税をしながら資産形成を」というもの。

減価償却とは、建物や機械など時の経過に応じて価値が減耗する資産で利用可能期間(耐用年数)が1年以上のものについて、取得価額をその利用可能期間で按分して損金算入するというものです。

例えば、耐用年数5年で500万円の車を購入した場合、購入時に500万円全額を損金に算入することはできず、毎年100万円(500万円÷5年)を「減価償却費」として損金とするのです。

この減価償却費は計算上算出されたものであり、そのときに支出を伴うわけではありません。そのため「減価償却費は支出もないのに損金になる」などといわれるのです。

しかし、その減価償却は、その車両を購入するために支出した500万円を耐用年数に応じて按分したに過ぎません。

つまり、減価償却費として損金算入される合計額と車両を取得する際に支出した金額は一致します。

「減価償却費は支出もないのに損金になる」という人は、車両を購入する際にお金を払ったことを忘れちゃったのでしょうか。

まるで、以前にお金を払ってガソリンを満タンにしたのを忘れて、「すごいな、この車はお金を払わなくても走れるぞ!」と喜ぶようなもの。

お金も払わず、勝手に減価償却費という損金が湧いてくるわけではないのです。

減価償却費は多いほうが良いの?少ないほうが良いの?

え?賃貸用不動産の取引価額は、家賃収入を想定利回りで割って求める「収益還元価値」をベースに計算されるから、不動産の価値に減価償却は関係ないですって?。

建物が古くなると、買い手側の期待する利回りが高くなります。あなたが賃貸用不動産を購入する場合、家賃収入のブレ幅の大きい古い物件を購入するというリスクを負う以上、その分高いリターンを要求するはずです。

収益還元価値は家賃収入を利回りで割ったものですから、同じ家賃収入でも期待利回りが高いほうが収益還元価値は小さくなる。

つまり、建物の収益還元価値も時の経過に応じて小さくなっていきます。

減価償却費は、その建物の価値減耗分が必要経費となったものであり、いくらその分税負担が減少されたところで、税率が100%を超えない以上、価値減耗分のほうが大きいので、減価償却で財産が増えていくようなことは絶対にないのです。

(2)不良資産の処分

減価償却以外に「支出もないのに損金になる」節税対策として挙げられるものに、「不良資産の処分」があります。

既に満足な値段では売れなくなった不良資産を処分すると、その取引で損失が生じます。しかし、それに伴い支出が生じることは(処分費用以外には)ありません。

そのため、不良資産の処分は「支出もないのに損金が生じる節税対策」ということになるでしょう。

この不良資産を取得するためにした支出は、これからどんな意思決定をしても取り戻すことのできない「サンクコスト(埋没原価)」です。

その意思決定を行うか否かの損得計算では、どんな意思決定をしても取り戻せないサンクコストは一切無視します。その意思決定を行うか否かでどちらが将来のキャッシュフローが増えるのかで損得を判断するのです。

そう考えると、すでに不良資産が生じている状態であれば、税負担は軽減されるしムダな保管・管理費用も削減でき、不良資産処分により将来のキャッシュフローは増えるはず。

そのため、「既にある不良資産を処分すべきか」という意思決定においては、その行為をすることは正しいことが多いでしょう。

ただ、不良資産取得時には既に支出がされており、不良資産の処分により、その支出額が損金になるだけですから、やはり、購入から処分というトータルで見れば支出と費用は一致します。

ですから、「不良資産の処分は支出もないのに損金になってお得だ」と、わざわざ今から確実に損をするような資産をうれしそうに購入する人などいないはずです。

よくドラマで「税金対策としてわざと損をする事業をしている」などという話が出てきますが、回収できない損をする意味などないので、それは間違いです。よく考えれば当たり前ですよね。

繰延型の節税対策には税負担軽減の効果はない

支出時に全額が損金とされる「全額損金型定期保険」の中には、定期保険(いわゆる掛け捨て)であるのに、解約時には解約返戻金が受け取れるものがあります。

なんで解約返戻金があるのかといえば、本来必要な保険料以上の保険料の支払いをした前払分が返金されるということです。

本来、保険料は、保障のための支出であり、消費されるものですから、全額損金型の定期保険の場合、解約返戻金は掛金総額を下回ります。

つまり、資産運用としてはマイナスのリターンということです。本来の目的は保障なのですから当然でしょう。

しかし、保険料が損金になるということはその分税負担が軽減されるので、その節税分を差し引いた保険料の「実質負担額」と比べると解約返戻金の方が大きくなることもあります。そうなると資産運用としてはプラスのリターンになるようにも思えます。

そのことをもって、「全額損金型の生命保険であれば、節税をしながら、いつでも解約可能の簿外の財布を持つことができる」というなんとも魅力的なことがいわれるわけです。

しかし、その解約返戻金を受け取ったときには、全額が益金となり、法人税等の課税がされることになります。

結果的に、保険の加入から解約までのトータルで見ると、支出時に節税となったものは、解約時にすべて課税をされて、その節税効果は消滅してしまうのです。

要するに、これらの節税対策は、税負担軽減の効果はなく、税金の支払い時期を将来に繰り延べているにすぎません。

支払ったお金が即時に「全額損金」などというと魅力的に思えるかもしれませんが、支出時に損金となったものは受取時には益金となり、支出時に損金とならなかったものは受取時には益金とはならないのですから、実は大したものではないのです。

小規模企業共済の節税効果は掛金が所得控除されることというのは実は間違いー全額損金を過大評価して損をするな

もちろん、税金を先に支払うことになんのメリットもありませんから、税金の支払い時期を将来に延期することに意味がないわけではありません。

それにより、資金が手許にプールされ、そのお金を事業で運用できるのであればより多くのリターンを期待することもできます。

しかし、それを可能にするのは、追加のコスト負担がまるでなく、支出も先にされない時だけです。

節税額から逆算をして必要保障額を超えた保険に加入をしたのであれば、確実にムダな支払いとなり、トータルの資金収支をみても、まず間違いなくその節税対策をしないときよりもお金を失うことになる。

ムダな生命保険加入による節税対策とは、「わざわざ今から損をする不良資産を購入する」のと何ら変わらないのです。

高々税金の支払期限を延期するくらいしか効果がないのに多額のお金をドブに捨てる意味などないでしょう。

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加えていうなら、仮に支出額と同じ金額だけお金が帰ってくるとしても、その間は、資金が”寝て”しまい、運用の機会を失うことになります。

本来そのお金が手許にあれば、事業でより多くのリターンを得られたのですから、その運用益分だけお金を失っていたのと同じです。

わざわざ借金をしてリスクを取り事業を行うというのは、少なくとも金利以上のリターンを期待していることの現れ。資金を寝かせることでそれだけ多くのリターンを放棄していることを忘れてはいけません。

つまり、将来もらえるお金をリスク等を考慮した現在の価値に割り引いた「現在価値」で見ると、支出額と同じ金額がだけ将来お金が帰ってきても実は損をしていたということです。

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将来の支出に備えてお金をプールしておきたいと言うのであれば、いつでもお金は自由に使えて、その対策をすることで将来のキャッシュが増えるものを選ばねばならないのです。

損金算入が支出よりも先行するのは稀

繰延型節税で、悲しいのは、損金になるのが支出より先になることはほとんどないということ。

「将来が不安だから手許のお金を増やしておきたい」と言いながら、実際には、損金算入と同時に支出を伴うか、さらに固定資産取得や前払分の生命保険料支払いなどがあれば「支出をしてもすぐに損金にならない部分が生じること」で、その節税対策をすることでかえって手許資金が少なくなってしまうのです。

では、支出がされていない段階で損金算入がされるケースは、全くないのでしょうか?

実は、あります。

それは、「引当金」です。

これは、将来の損失に備えて、まだその損失は生じていない段階で、その費用の見積もり計上しておくものです。

税務上、損金算入が認められる引当金は、現在では、将来の貸し倒れに備える「貸倒引当金」と衣料品などについて将来の返品に備える「返品調整引当金」くらいしかありません。

これらは、実際に損失等が発生したときには、すでに引当金が計上されているため、新たに損金は生じません。ですから、トータルで支出と費用は一致します。

しかし、少なくとも損金に算入されるのは、支出をする前であり、「損金の先食い」はできます。一時的とはいえ、その計上により手許のお金は増えるでしょう。

逆に言えば、トータルでみて「支出もないのに損金になるオイシイ経費」などというものはなく、損金の先食い効果に過ぎない対策ですら引当金くらいしかないのだということ。

要するに、真の意味で節税効果が上がるポイントは「ここじゃない」ということですね。

複式簿記の原理がわかれば都合の良い話には引っかからない

ここに、借金を使ったり、優遇税制である退職金税制などを絡めて話を複雑にしても、基本原理は変わりません。

では、こんな都合の良い話にひっからなくするにはどうしたら良いのでしょう。

それは、複式簿記の原理を学ぶということです。

そうすることで、支出と費用は単なる計上時点の違いでトータルで見れば必ず一致すること。

「支出もないのに損金になる」という都合の良い”タダ飯”などどこにもないということを理解できるようになります。

最近は、簿記検定がやたらと難易度が上がっています。簿記2級でも、今までは1級の範囲であった「連結決算」や「税効果会計」までその範囲となっているほどです。

以前は、社長でも複式簿記の原理を理解するために簿記3級くらいは取ろうと言っていましたが、その簿記3級も難易度が上がり、社長が知らなくても良いことも増えてきました。

一方で、今はそれよりベーシックな「簿記初級」という資格ができています。

この資格は、ビジネスに関わるすべての人が知っておきべく簿記の基礎のみを効率よく学ぶことができるので、まずはここから勉強してみてはいかがでしょう。

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