減価償却できない固定資産取得からみたその節税と資金繰りへの影響|自己金融効果という説明にご用心

目次

減価償却は支出と費用化のタイミングのズレ

建物や機械装置や車両などは、その支出の効果が1年以上に及ぶので、支出時に一括して費用化をすると、その事業年度では多額の負担があるのに、翌期以降は売上獲得に貢献をするのに一切費用に算入されることがないので、バランスが悪いことになります。

そこで、これらの資産については「固定資産」として、支出時に一括で費用化するのではなく、その取得価額を利用可能期間(法定耐用年数)の事業年度で按分して費用化するのが会計上のルールです。

これを「減価償却」といい、計算された金額を「減価償却費」といいます。

この減価償却について、「減価償却費というのは、支出もないのに費用になる魔法の経費」であるかのように語り、減価償却が可能な収益用の不動産を購入することで、節税をしながら資産形成をするという話がよく出てきます。

しかし、減価償却というのは、単なる支出と費用化のタイミングのズレであり、節税効果も資金をプールする効果もありません。

今回は、その誤解されることの多い減価償却の効果について説明をしていくことにします。

減価償却費の合計は必ず支出額と一致する

減価償却というのは、長期に渡り使用可能な資産の購入価額を支出時に全額損金に算入にすると、その期間の損益計算が歪むとの考えから、支出時に一括での損金算入を認めず、利用可能期間に分割して損金算入しているということです。

つまり、その資産の購入時にまとめて支出したものが、後で必要経費になるだけです。

当然、減価償却費の合計額は、取得時に支出した金額と一致します。

要するに、お金を払って買ったケーキを一度に食べずに、数日に分けて食べているということです。

「減価償却費を支出もないのに損金になる」などというのは、その分けて、翌日以降に食べているケーキを「ヤッター!タダで食べられたぞ」と喜んでいるようなものでしょう。

費用が発生するには、必ず支出が必要であり、「お金も支払わないのに費用が湧いてくる」ようなタダ飯などどこにもないのです。

減価償却できない資産との比較で節税効果のないことが明らかに

減価償却とは、取得した固定資産がときの経過に応じて劣化していくことに合わせて、その価値減耗分を必要経費に算入することです。

そうなると、時の経過があってもその価値が減耗しない固定資産については、減価償却ができません。

ですから、土地は時の経過があっても劣化することや消費されることもないので減価償却はできないのです。

また、一点100万円以上の美術品などについても、時の経過に応じて価値が減るようなこともないので、減価償却はできません。

では、これらの減価償却できない固定資産の取得に要した金額(取得価額)は、いつどうやって損金に算入されるのでしょうか?

これは、それらの土地や高額の美術品を売却した際の譲渡損益の計算上、譲渡対価から差引くことで損金に算入されるのです。

つまり、この減価償却のできない固定資産を取得すると、その資産を譲渡するまでの間、取得価額について、支出をしたのに損金に算入をされないという不条理を味合わされることになるのです。

当然、支出をしたのに損金に算入されないのですから、その分、税負担は減りません。

同じ金額の減価償却が可能な資産と比べると「減価償却費×税率分」だけ税負担が増えるので、その分資金繰りは悪化します。

ただし、これはあくまでも減価償却をしている期間の話であり、その資産を譲渡した場合には、譲渡所得の計算上、譲渡対価から差引くことのできる「取得費」は、取得に要した金額である取得価額から減価償却をした金額を差し引いた金額です。

つまり、「減価償却が可能な資産」では、譲渡の利益は、すでに減価償却をした分だけ、「減価償却をできない資産」よりも税金が高くなる。

その金額は減価償却費×税率ですから、結局、減価償却が可能な資産と減価償却ができない資産では、そのトータルの税負担は変わらないということです。

減価償却による自己金融効果という説明に注意

会計学の教科書には、この減価償却により固定資産が費用化された分だけ税負担が軽減され、その分手許のお金が増える。これを「減価償却による自己金融効果」と呼ぶなどと説明がされます。

これだけを見ると、まるで、減価償却ができる固定資産を取得すれば、減価償却により手許の資金が増えるかのように思う人もいることでしょう。

しかし、固定資産を取得すれば、その取得価額だけ支出をするのですから、買わない時に比べれば、その時点での手許の資金は確実に減ります。

仮に支出時に全額損金に算入できる支出であったとしても、その分、その事業年度の利益は圧縮され税負担が軽減されるので、その支出による手許資金の減少を多少緩和できるに過ぎません。

これが長期間に渡って減価償却をせざるを得ない固定資産を取得した場合、支出をしても減価償却分しか損金にならないのですから、この固定資産取得というのは、資金を固定化しメチャクチャ手許資金を減らすことになります。

だからこそ、その取得資金を借入で賄うのではないでしょうか。

その固定資産として”固まった”資金を溶かして費用にし、その分税負担を軽減することで手許資金を回収するのが「減価償却の自己金融効果」と言われるものです。

あくまでも、減価償却ができない土地などと比べると、減価償却が出来ることで資金の回収が早く出来るというだけのことです。

別に減価償却が可能な資産を取得することにより、支出もないのに損金が”湧いてきたり”するわけでも、「自己金融」とやらによって手許の資金が増えるわけでもないのです。

投資用不動産による節税効果を実感できないワケ|ありもしない減価償却の節税効果と土地負債利子損益通算規制

そんなことは、複式簿記の原理を理解すれば、時点の違いこそあれど、支出と費用、収入と収益は必ず一致するのですから、すぐに理解できるはず。

しかし、収益用不動産の販売促進につなげるために、固定資産の取得とその減価償却による費用化のタイミングのズレを都合よくつまみ食いをして「減価償却できる収益用不動産を取得することで、節税をしながら資産形成が出来る」ということを専門家の中でも真顔で言っている人もたくさんいるので、注意が必要です。

ちゃんとExcelで減価償却資産を取得したときとしなかったときの資金の増減を確認してみれば、運用により利益が上がらない限り、減価償却資産を取得するだけでは、しないときよりも手許の資金が増えることはないことがわかるはずですよ。

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