キャバクラ嬢への支払い判決からみる給与所得と事業所得の判断基準|講師・一人親方もご用心
目次
東京地裁でキャバクラ嬢への支払いは給与と判決
役務提供に対する対価が給与となるか報酬となるかで、受け取る側の所得税は、前者は給与所得、後者は事業所得となり、課税関係が異なります。
一方、支払う側は、報酬であれば、そこに消費税額が含まれているものとして自身の消費税の納税額の計算上控除できるのに対して、給与となると消費税額は控除できない。さらに報酬であれば不要であるはずの源泉徴収が給与であれば必要になるという大きな違いがあります。
そのため、税務調査の際に報酬としていたものが給与とされると、消費税と源泉所得税が両方追徴課税できるので税務署にとってはとても”オイシイ”指摘項目であるといえます。
今回は、「キャバクラ嬢への支払いは給与」であると判断する東京地裁の判決が出たので、改めて給与所得と事業所得の判断基準についてまとめてみようと思います。
所得税法上の給与所得と事業所得の判断基準
税務訴訟についてなされた判決が、同種のすべての経済行為の当てはめられるものだとは限りません。
というのも、あくまでも訴訟は、個別案件であり、判決は、その行為の実態がどうであったのかという「事実認定」によってなされるからです。
ですが、その手前で元となる税法の条文の「解釈」の指針が示されることで、以後の同種の判決の基準になっていくのです。
今回の給与所得であるか事業所得であるかの判断基準については、昭和56年4月24日最高裁判決に照らすこととされました。
この「S56最高裁判決」では、給与所得と事業所得の判断基準は以下のように示されています。
給与所得
雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受け取る給付。とりわけ給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。
事業所得
自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得。
(税務通信No.3626より)
事業所得の後段「反復継続」や「社会的地位」というのは、事業所得と雑所得との区分で重要視されるものであり、給与所得と事業所得の最大の違いは「危険」と「独立」にあるのではないかと個人的には考えています。
つまり、「独立」については
・「この時間、この場所で働いてくれ」と発注者の指示に基づき役務提供をする場合には「給与」
・期限までに成果物さえ出せばいつどこで作業をしてもよいと言う場合は「事業」
その上で、「危険」については
・役務提供による収入が費用を上回り損をする可能性がまったくない場合には「給与」
・役務提供をしたとしても損をする可能性もある場合には「事業」
ということではないかと。
今回のキャバクラ嬢の事実認定についても、
「勤務形態」は、使用者の指揮命令監督下で空間的、時間的拘束を受けている
「支給額の計算」は、時間給により定められている
「危険負担」については、売掛金の回収責任は負っておらず赤字になる危険性はない
として給与所得とされたのです。
ですから、必ずしもキャバクラ嬢への対価がすべて給与所得となるというわけではなく、契約形態が異なれば、事業所得と判断されることもあるかもしれませんが、同じような事実があると認定される場合には給与とされるということです。
消費税法上の給与と外注費の判断基準
消費税法においても、役務提供の対価として支払われた金銭が給与になるか外注費になるかについて、次の4つの判断基準が基本通達により挙げられています。
(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
代替性の有無
・他人が代わりに業務に従事しに行っても問題ないならば「外注費」
・依頼された本人以外が代わりに従事しに行くことを認めないならば「給与」
指揮命令監督下にあるか
・納期さえ守れば作業時間や場所は指示されないならば「外注費」
・就労時間や作業場所が依頼人から特定されるならば「給与」
・業務は依頼人の指揮の元で行われるならば「給与」
リスク負担
・途中で業務が中止になった場合、報酬は請求できずそれまでに受けたお金は返金するならば「外注費」
・途中で業務が中止されても、それまでの報酬は請求でき、過去にもらったお金は返金しないならば「給与」
・支払金額が従事した時間や日時をベースに計算されるならば「給与」
用具や移動手段の提供
・用具や現場までの移動手段は自分の負担で用意しているならば「外注費」
・用具や資材は会社が提供、現場にはみんなで集まって会社の車でいくならば「給与」
やはり、消費税の基本通達の考え方も、外注費と給与の最大の違いは、自己のリスク負担で仕事をしているかということだと言えるでしょう。
講師やインストラクターなどが給与とされるケースも
これらの判断基準をみていると、一般的な常識よりも税務上「給与」とされる範囲は広く、プロとしての自負をもって活動をしている講師やコーチ、インストラクターなどのフリーランスへの支払いも税務上「給与所得」とされるケースも多いということです。
「いや、あの人はうちの専属じゃなくて複数の先から報酬を得ている」
といったところで、
「バイトの掛け持ちってことですよね?」
と言われ、
「いや、売上高に応じて報酬を支払っている」
といったところで、
「歩合給ってことですよね?」
と言われて、支払いが給与とされ、消費税の仕入税額控除が否認された上に、源泉徴収義務違反のダブルで追徴課税を食らうということになるわけです。
特に、建設業の「一人親方」などは、ほとんどのケースで給与とされ、税務署も絶対に引こうとしません。
税務署にとって見れば、一番簡単に追徴課税が取れる「過払い金請求」のようなものなので、一社だけ認めるわけにはいかないのでしょう。
実際に、過去に税務署が「事業所得だ」として一人親方たちに確定申告までさせたのに、次の税務調査で「あれは間違いだと認めます。『誤指導』でありペナルティは要らないのでどうしても今回は給与としてください。そうしないと調査が終えられないんです」と泣きつかれ、他の指摘事項はすべてチャラにする代わりに渋々給与とすることを飲んだということもあります。
そういえば、某大手ピアノ教室が講師に対して「契約上は個人事業主であるが、源泉徴収をし年末調整をしている」という事実をもって、労働組合が「これが実質的に雇用している証拠だ」として残業代の支払いや有給休暇付与を求めたというニュースもありました。
ですが、このような処理をしたのは、以前に東京国税局より「ピアノ教室の講師への謝金は給与である」との指摘を受け追徴課税をされたからであって、この事実をもって必ずしも会社は雇用契約をしたとはいえないのではないかと個人的には考えます。
中には、このせいで、社会保険の加入と税務で給与と報酬の取り扱いが分離しているというケースもあります。
そんな歪んだ経理処理をしている背景には、こういう税務調査での理不尽な指摘があるからなのです。
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