インボイス制度が導入されて一年経ったので、反対派が言ってたことの答え合わせをしてみます

インボイス制度導入から一年が経過

2023年10月に、免税事業者を中心に大反対の中、導入されたインボイス制度。それから、ちょうど一年が経過しました。

昨年の9月には、「インボイスが導入されたら、免税事業者はみんな廃業をして、業界が崩壊する」だとか、「税収が2,480億円しか増えないのに、事務負担が1年で4兆円もかかる」だとかというありえないことが流布され、「理論的には正しいから、嫌でも仕方がない。冷静に負担を最小に抑えよう」という私など、「こいつは税理士のくせに消費税を知らない。財務省の犬だ」と散々批判されたものです。

ああ、今でも忘れてないですよ。

では、インボイス制度が導入されて1年経ち、インボイスによって世の中はどう変わったのか、反対派の主張の答え合わせをしてみようと思います。

インボイス導入で廃業が相次ぎいくつもの業界が崩壊?

インボイス制度が導入されれば、これまでは、支払った先が誰であっても、買い手は、消費税の控除ができていたものが、インボイス制度が導入されたら、消費税の納税をしていない免税事業者からの消費税は控除できなくなる。

そうなれば、買い手としては、売り手の免税事業者にその分の値引き要請をする。売り手は、それが嫌ならば、本来は消費税の納税義務はなくても、課税事業者になってインボイスを発行する適格事業者(適格請求書発行事業者)になる必要がある。

つまり、免税事業者は、値引きか消費税の納税かというどっちにいっても手取りが減る苦渋の選択をしなくてはなりません。

ですから、ただでさえ、収入の少ない免税事業者にとって、インボイス制度導入は、負担増になるのは間違いないのですが、泣く泣く消費税の負担をしていた消費者から見れば、「今まで消費税だといって追加で受け取っていたあのお金は何だったのだ」とあまり共感はされませんでした。

漫画家やアニメ声優など、「インボイスが導入されたら、フリーランスの事業者の大半が廃業して、業界が崩壊する。自分も廃業する」と言っていましたが、反対運動の先頭に立っていた方たちは、実際に廃業したのでしょうか?

少なくとも、インボイス導入によって、実際にどこかの業界が崩壊したという話を私は耳にしたことはありません。

インボイス制度による税収増を約2,480億円と国は予測していましたが、実際に初年度に増えた税収は1,700億円程度にとどまると報じられています。

これは、適格事業者になった免税事業者を救済するために、消費税の納税額を売上に伴い受け取った消費税の2割で良いとする「2割特例」が急遽導入されたことによると思われます。

消費税率10%である現在の消費税の税収は23兆円であることから、消費税が1%増えると約2.3兆円の税負担が新たに生じることになります。

消費税の税率引き上げで言えば、当初予定の2480億円でも、消費税率0.1%程度、実際の税収増の1,700億円であれば、消費税率0.07%引き上げたのと同じですから、インボイス制度が経済に与えるインパクトは、あっても”さざ波”程度であり、大した影響はないと予測していましたが、実際に、インボイス制度が景気の足を引っ張ったということは誰も感じていないでしょう。

インボイス制度導入の経済全体へのインパクトをデータで冷静に検証してみる

インボイス制度導入で事務負担が年4兆円にも?

「今まで免税事業者は益税を貪っていたのだからインボイスは導入して然るべき」との声に逆らうように、「実は、消費税は預り金ではないから益税はない。だからインボイスは不要だ」との主張をする「レジェンド税理士」なる人達の話が、免税事業者に、もてはやされました。

その上、インボイスの正当性を主張する税理士に対して「あいつは、税理士なのに消費税をわかっていない」などと、これまで一度も消費税の申告をしたことのない人たちから、上から目線の糾弾がされたのです。

いやいや、何をどういったところで、消費税の納税義務がある人とない人がいるのであれば、納税義務のない人は、納税義務のある人よりもその分だけ得をしているのですから、益税は絶対にあります。

それに、そもそも、インボイスは、消費税の納税の重複を排除する「仕入税額控除の適正化」の話であって、仮に益税があろうがなかろうが関係のない話なんです。

その際によく言われた、「消費税は預り金ではなく売上の一部だという判決が出ている」という話は、都合の良い切り取りであって、実際には、裁判所はその直後の判決文で、免税事業者に「ピンハネの余地はある」とまで言っているんですよ。

【最新版】免税事業者は消費税を預かっていないから益税はないは本当か?|仕入税額控除の意義から考えるインボイス制度の妥当性

と、当初は、こんな益税があるかないかの話で反対をしていたものの、全くと言ってよいほど共感が得られない中で、次に反対の根拠とされたのは、「インボイス制度導入で膨大な事務負担が生じる」というものです。

その中で、インボイス対応の請求書発行システムを販売していた会社が、自分の商品により大幅にインボイスの処理時間が短縮されるとのアピールをしたいがために出した、「インボイス制度導入により日本全体で月に3,400億円の事務負担が発生する」という荒唐無稽なレポートが、わざわざPRタイムスを使ってまで発表された結果、それが「インボイス制度導入で年に4兆円もの事務負担が生じる」と輪をかけてありえない数字となって広まり始めました。

そりゃ、今まで本来やらなくてはいけない「支払った先が課税事業者なのか免税事業者なのか判定をする」という経理処理を省略していたものが、省略できなくなるのですから、面倒くさいですし、事務負担は増えますよ。

だけど、インボイス制度を導入するだけで、GDPが年に4兆円も増えるなら、素晴らしい経済政策なわけですけど、当然そんなことにはなっていないです。

【驚愕!?】インボイス制度になると事務コストが年4兆円もかかるのw?

日本のインボイス制度は、諸外国に比べるとそれほど厳格な処理を求めていない、いわば「なんちゃってインボイス」であり、とにかく財務省は、このインボイスが導入できれば、それでいいんですよ。

その導入の目的は、わずか2,480億円の税収増などが狙いなわけではなく、将来の社会保障費を賄うために消費税率を引き上げる際に、「その前に益税を潰せ!」という消費者からの批判を封じ込めるのが狙いなんですから。

なので、取引一件ごとにその支払先の適格事業者登録番号の真偽を適格事業者の公表サイトに13桁の番号を入力してチェックせよなんて言うのは建前であって、そんなことは端から求めていないんです。

実際に、事務負担増を理由にインボイスに反対する声を抑えようと、導入前なのに「これまでもそんな形式の不備をあげつらうような税務調査はしていない」「インボイス制度はその制度の定着を優先して柔軟に対応する」なんていうことを国税庁が公表しちゃった。

これは、インボイス制度の4年前に導入された軽減税率についての対応と同様、仮に税務調査で処理にミスをみつけても、ほとんどは指導にとどめて修正申告までは求めてこないと言っているに等しいということ。

まともに税務調査を受けてきた税理士なら誰だってわかることです。

【インボイス】ホントに取引の都度、登録番号を公表サイトで確認をする必要はあるの?

ですから、少なくとも事務負担増に対応できるのかと懸念していた中小企業のほとんどにとって、インボイスによる事務負担増は、ないとは言わないものの、それほどではなく、十分対応は可能であり、実際にその範囲内での負担に収まっています。

ほら、予想はみんな当たってるでしょ?

弥生会計がインボイス対応になったのでどれくらい事務負担が増えるのか検証してみた

「膨大な事務負担ガー」と言っていた人ほど、ずっと、取引ごとに13桁の適格事業者登録番号のチェックをし続けていただきたいところですが、そういう人ほど、まずやっていないでしょう。

ちなみに、「本当にヤバいのは、インボイスではなく、改正電子帳簿保存法。これでフリーランスが廃業に追い込まれる!」と一部の税理士が大騒ぎをしましたが、これだって、改正の発表された2021年の頃から「あんなのただの警告で、真面目に対応する必要はない」と私、ずっと言ってましたけど、そのとおりになったでしょ?

メールで請求書を受領していると厳格な検索システムが必要に|電子取引への電子保存義務化

【これにて終了】国税庁が改正電子帳簿保存法の対応方針を全国税局に指示

税務署も問題なくインボイス制度による申告増に対応

「インボイス制度導入により、消費税の申告が大幅に増えることで、税務署がパンクをする」とも言われました。

ですが、過去に免税事業者の課税売上高のハードルが年3,000万円から1,000万円に引き下げられたときにも全く同じことが言われたので、今回もおそらく淡々と処理はされるだろうなと。

実際に、国税庁によると、個人事業者の消費税の申告件数は前年比86.9%増の1,972,000件とインボイス制度導入により消費税の申告件数が1.8倍にも増えましたが、税務相談会の一部で混乱は見られたものの、事務処理で税務署がパンクをしたなどという話は聞いたことはありません。

懸念していた、私達税理士の確定申告時期の当番の割当もそこまで増えるということはありませんでした。

インボイス制度に免税事業者はこう対応した

では、インボイス制度に対して、免税事業者はどのように対応したのでしょうか?

国は、事業者向けの免税事業者400万の4割に当たる160万事業者が課税事業者となるのではないかと予想していました。

実際はどうなったのかというと、日本商工会議所が各地商工会議所の会員企業を対象にした調査結果では、BtoB中心の事業者では73.3%が、BtoC中心の事業者でも24.9%が適格事業者の登録をしています。その上、インボイス登録しなかった免税事業者(BtoB中心)のうち、64.0%が今後の登録を検討しているのです。

一方で、インボイス制度導入後も免税事業者からの仕入を継続している事業者は74.0%もあったとされています。しかし、今後も継続予定の事業者は47.1%にとどまります。

これが、免税事業者からの仕入れであってもその消費税相当額の8割の控除が認められている「経過措置」が縮減されるによって、もっとシビアな目で見られてくるはずです。

それに、これは、一々は仕入先、外注先の変更をするのは面倒だという既存の取引先のついての話であり、新規の契約については、わざわざ免税事業者との取引をあえて選択する理由はなく、実際に、新規取引は、課税事業者に限るとしている会社は多いのです。

・インボイス制度導入を機に、免税事業者(BtoB中心)の73.3%がインボイス登録を実施

・インボイス登録しなかった免税事業者(BtoB中心)のうち、64.0%が今後の登録を検討

・インボイス制度導入を機に、免税事業者からインボイス登録(課税転換)した事業者のうち54.9%が減収した。また、価格交渉を行った事業者は14.4%で、そのうち値上げを実現した事業者は約6割(60.9%)

・インボイス登録した元免税事業者の85.5%が「2割特例」を適用、そのうち85.2%が初めての申告をスムーズに実施インボイス登録した元免税事業者の85.5%が「2割特例」を適用、そのうち85.2%が初めての申告をスムーズに実施インボイス登録した元免税事業者の85.5%が「2割特例」を適用、そのうち85.2%が初めての申告をスムーズに実施

・インボイス制度導入後も免税事業者からの仕入を継続している事業者は74.0%であったが、今後も継続予定の事業者は47.1%にとどまる

・制度導入により約5割(48.8%)の事業者がコスト増を、約8割(82.2%)の事業者が事務負担の増を感じている

・税負担・事務負担を訴える声が寄せられる一方、特例措置や商工会議所の支援により事業を継続できているとの声も

出典|日本商工会議所「中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査」結果について

感情とは別に負担を最小限に留めるような方策を冷静に

インボイス制度は、税理論上はあって然るべき制度であり、付加価値税の導入されている国では、日本以外当たり前にあるので、否定のしようがない。

35年もの長期に渡って、猶予期間が与えられていたようなものなのだから、逆らったところで、いずれ導入されるのが不可避なことは明らかでした。

あんなもの、導入されたら嫌に決まってるじゃないですか。こっちは、消費税の益税狙いでポコポコ会社作って飯の種にしてたのに。

それでも、避けようのない荒波であれば、その中で、感情とは別にして、負担を最小限に抑えるにはどうしたらよいのかを冷静に判断すべきだとインボイス導入前からずっと主張していたわけです。

【完全版】免税事業者はインボイス制度にどう対応したらいいのかフローチャート|避けられないダメージを最小限に抑えよ

既存の取引先だけでもうそれ以上仕事を増やす考えがないとか、免税事業者のままでも是非取引したいという声がかかるほど売り手の方が優位な状況であれば、そのまま免税事業者という選択もあるのでしょう。

しかし、新規の取引先とも契約をして売上も手取りも増やしたいというのであれば、インボイス登録によって消費税負担増以上に売上を増やすと考えたほうが良いのではないでしょうか。

その考えは、散々、インボイス反対派から糾弾されたものの、インボイス制度導入から1年が経って変わるところはまったくなく、むしろ、自信は、確信になったと言ってよいでしょう。

インボイス反対を主張するより、早く課税事業者になったほうがいい…税理士がこっそりそう助言するワケ|プレジデント

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