不動産M&Aでの見えない不発弾|含み益への課税は買い主が被る

現物の不動産ではなく、不動産を所有する会社ごと売買をする

不動産の譲渡には、売り手、買い手ともに種々の税負担が生じることが多いです。そのコストを減らそうとして考えられるのが不動産M&Aというものです。

これは、不動産を所有する会社ごと売買をするもので、不動産の譲渡ではなく、株式の譲渡となります。

それにより、不動産にかかる各種の税負担が軽減できるのであれば、ラッキーなのですが、買い手にとって問題になるのが含み益への課税です。

そこで、今回は、不動産M&Aが現物の不動産の譲渡と課税が異なる点についてまとめてみようと思います。

不動産M&Aとは?

会社の資産や人員、顧客などをまとめて売買するM&Aが中小企業でも一般的に行われるようになりました。それこそ、不動産を売買するくらいの感覚で行われています。

不動産M&Aとは、その中でも現物の不動産の売買を目的としながら、そのコスト負担の軽減のために、会社ごと売買をすることです。

この不動産M&Aについては、会社全体を売買するとなれば、それは不動産の譲渡ではなく、旧株主から新株主への株式の譲渡になります。その譲渡した会社の所有する資産の大半が不動産であったということです。

なお、会社全体を売却しなくても、不動産を所有する部分を会社から分割して新たに法人を設立し、その会社を不動産M&Aとして第三者に売却をすることも可能です。

いずれにせよ、現物の不動産を譲渡した場合には、不動産についての課税関係が生じるものが、不動産M&Aであれば、株式の譲渡としての課税関係となるわけです。

不動産M&Aの課税関係(売り手)

現物の不動産の譲渡であれば、その不動産の売却代金から買ったときの価格(簿価)を差し引いた金額については、不動産の売却益として益金となり、本業の損益と通算されたうえで、法人税の課税(約30%)がされます。

その後に、この会社を清算し解散をする場合には、すべての資産を換金し、負債を返済した残金がその会社の株主に還元されます。

その株主に還元された金額から自分が出資した金額を差し引いた金額について、株主は、まとめて配当金をもらったのと同じであることから配当所得として、他の所得と合算の上、累進課税(最高約55%)による総合課税の対象となります。(譲渡所得となる部分が生じることもあります)

その上、会社を清算するとなると、そのための手続きの費用も発生します。そのため、不動産の売却代金を含めた預金を全額引き出して、あとは、そのまま放置しているケースも現実には多々あります。

それは置いておいて、不動産M&Aであれば、不動産の売却益について、個人株主の場合、株式の譲渡益として分離課税(約20%)の課税で済むことになるわけです。

現物の不動産を売却してから会社を清算する場合と比べて、不動産M&Aでは、不動産の含み益への課税を免れた上に、出資した金額を超過して還元された金額については、累進課税の影響を受けず、分離課税による20%の課税だけで済むということになれば、税負担を大幅に軽減し、手取りを増やすこともあるでしょう。

不動産M&Aの課税関係(買い手)

現物の不動産を取得した場合には、不動産取得税と契約書に添付する印紙税、そして、所有権移転についての登録免許税などの諸経費がかかります。

これが、不動産M&Aでは、株式の所有者が変わるだけですので、不動産取得税、印紙税、登録免許税などの負担は発生しません。

しかし、忘れてはいけないのが、不動産M&Aで取得をした会社が所有する不動産を再度売却した場合には、その譲渡対価から簿価を差し引いた金額が益金となって法人税の対象となります。

つまり、売り手のメリットとして、不動産M&Aであればそれまでの含み益への課税がないとされたものが、まとめて、買い手に負担が引き継がれるということです。

その上、不動産M&Aであれば、その会社ごと買収することになるので、連帯保証や未払残業代など隠れた損失を引き継ぐリスクもあります。

まさに、買い手は、地中に埋まる”不発弾”ごと引き継いだようなものです。

買い手としては現物の不動産よりも低い価格での買取代金で

不動産M&Aについて、買い手のメリットとして、やたらと不動産取得税、印紙税、登録免許税の負担がないことをアピールする提案がなされることもあります。

ですが、その不動産のこれまでの含み益についての課税や隠れたリスクが買い手に引き継がれることも考慮して、不動産への含み益への課税よりも不動産取得税などの負担が大きい場合を除き、現物の不動産としての購入金額よりも低い金額でなければ、あえて不動産M&Aという形式で取得をするメリットはないということを理解してください。

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